表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/181

177.刹那の再会

 彼らがいる世界は女神の気紛れによって創られた箱庭であり、今いるこの空間は世界を動かすシステムの1つ。

 

 [ごみ箱]の中。

 

 そして沈み続ける大陸を押し上げている根源にしてヴォクン専用の[神の領域]。

 この大陸の魂が行き着く死後の世界。



 騎士たちはシンプルにごみ箱から削除され、[女神が不在]のこの世界から消え去った。







「…な、何をバカげたことを」


 冥王の語る言葉1つ1つが心を抉り、幾度も口を挟もうとしたが言葉にすることすらできない。

 ようやく喉まで反論を述べる準備が整った時、レオルたちが続々と口火を切る。


「さっきの剣は何なんだったんですか!?」


『巨人の剣、だったらしいんだけど巨人族の管理が難しいからってごみ箱にデータが捨てられてタ』


「下半身はないの!?」


『…空間を繋げておくためにアトランティス大陸側に突き出してル』


「……騎士たちは、消さなきゃならなかったの?」


『魂に容量もないのにチートを使わせてたからネ。寿命もそう長くなかったヨ…そうだろ、教皇様?』


 彼の瞳がアンダルシアへと移り、一斉に視線が彼女へ注がれる。

 強大な軍は消え、新たに力を行使することもできないが、今もなお大陸を沈ませ続けている力は健在。

 彼女の存在を消すことで解除できるかと思われたが、決意に満ちた表情からその可能性はないことが窺えた。


 拳を握りしめ、燃えたぎらせた目は闇の中でも煌々と照っている。

 息を呑み、拳を再び強く握りしめると口を開いた。



「…貴方が何と言おうとも、この世界の、私の家族や親しい友人は皆死に絶えました。たとえ女神が血を望んでいないとしても、私は決して自らの武器を下ろすつもりはありません!」


『大変な目にあったみたいだし根性も認めるけど、他人を不幸にしていい言い訳にはならなイ』


「うるさいっ!」


『ガキかヨ』


 サンルナー教の長としての威厳はどこにもなく、年頃の娘のように悲鳴をあげる彼女は感情をむき出しにし、思いのたけを全て目の前の怪物にぶつけようとしていた。

 しかし笑みを浮かべていたヴォクンの表情が曇り、遮るように手の平を差し出すと彼女の言葉が止まる。

 青い靄が立ち上り、その様子にアンダルシアも身構えるも、中から2つの影が朧げに揺れると警戒を解く。


「…まさか、そんな」


『[ごみ箱]のデータは責任をもって消したけど、全てというわけでは…ないんだナァ』


 再び耳が合ったであろう場所まで張り裂ける程の笑みを浮かべ、その手から靄が消えていく。

 中には水面に映し出されたような朧げな、立体映像にも見える男が2人、困惑しながら周囲を見回していた。


 {……こ、ココは}


 {ドコなンだ…?}


「…あ、あ……あなた…キルムも」


 何百年ぶりに見たであろう、かつての[家族]を最後に見届けた変わることのない姿に、涙が頬を伝う。

 素早く彼らの元へ駆け寄ろうとするも、直前で手を頭上へと上げたことで彼女も追うように両の手を空へと向ける。

 あらんばかりの力で手を伸ばすが、その手が彼らに近付くことは決してない。


 子供からおもちゃを取り上げている構図に、言葉を失うレオル一行であったが、代わりに巨大な骸骨をアンダルシアに近付けると彼女の身体が硬直する。

 満面の笑みを浮かべ、瞳を赤くギラつかせる彼が言葉を発することはない。

 だが何を求めているかは考えずとも分かった。


 時を忘れる程自らに課した永い使命と、差し出された刹那の希望に、自身でも驚く決断の速さを彼女は下す。



「…っ、今すぐ効果を解きます!!だから、だからもう1度だけ……2人に会わせて」


『ほゥ?随分と身勝手な決断だこト。それに今の2人じゃあ君のことを判別することもできないだろうよ、そこまで姿がかわってちゃア』


「そんな…」


『…だけど?もし俺の言う事を聞くのであれば~、会わせてやらんでもないかナ~。勿論大陸を沈めるのをやめる前提ではあるけれどモ』


「やります!何でもやりますから!!」


 目を閉じ、手を胸の前で組むと一心不乱に呪詛を唱えるとすぐに瞳がヴォクンのものと合う。

 約束は果たしたとばかりに睨みつけると、しばらく停止していた彼がようやく頷く。


 開いた手でアンダルシアの身体をつかみ取るが、肉体を透け、先程見た姿とは全く別人の、教皇とは程遠い村娘の容姿をした女性が彼の手中にあった。

 彼女が居た身体は地面に力なく倒れ、彼の両の手が地面に触れると手中にいた者は解放される。


「……アンダルシア、なのか?」


「…母、さん?」


 言葉を発することもできず、代わりに涙がとめどなくあふれ出すと彼らの姿が視界から消えてしまう。

 しかし姿が見えずとも、久しく忘れていた2つの温もりが身体を包むと、その問題も些細なものとなる。


「…あぁぁ」


 2人の身体を徐々に、ゆっくりと手を回すとその場に彼女は崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ