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174.代行業務

 彼女たちは[マイナス]が何を指すのか、もう1台パソコンを取り出して調査をした所、すぐに原因が判明する。

 冥界、デスクトップ上では[ごみ箱]にあたる収納されるファイルの数が膨大なデータを保有していた。中身を開くとそこには死者の個人情報、いわゆる[魂]が数え切れない程収められている。


 世界が不安定な理由、いわばデータ過多により読み込みが重くなったことで発生していた[バグ]が原因であった。

 その事実に彼女たちは呆然と画面を凝視し、しばらく硬直していたが痺れを切らした不死王が背後から2人に声をかける。


『ゴミ箱を空にすれば問題解決するんじゃないの?』


「……そ、そんなこと」


「そんなことできませんよ!!?」


 彼の声でようやく現実に引き戻され、ゲッカが口を開いた瞬間にヨウが大声で彼の案を否定する。


 魂1つ1つが彼女たちによって生み出された試行錯誤を重ねた最高傑作であり、同時に神として易々と魂を消滅させることはできないと必死に声を上げた。

 しかしそれによって現世が混沌としており、一時的な解決策として出現する魔王の容量や外の世界から魂を誘致していることがさらに首を絞める結果になっていることを伝えるとヨウも口を閉ざす。


「…それでも私は、私たちは神として魂を消滅させることはできません。死後に魂が消滅してしまうなど知ったら、迷える子羊たちはどうなって」


『死後のことなんざ知る必要はないさ。今を楽しく生きることを考えなきゃ』


「それでも…」


『ところでアンデッドは容量喰ったりしないのかい?』


「……彼らは、リッチさんたちは生命体ではありませんので問題ありません」


『そうかい』


 意気消沈し、唇を噛み締めるヨウの腕を優しくゲッカが撫でる。

 全ては遊びのつもりが思うように事が進まず、しかし神としての責任が彼女たちの選択肢を狭める。

 他に解決策はないかと必死に模索するも、容量過多が全ての策を否認した。


 もはや画面を見ることもなく、虚ろな目で宙を見据えていた彼女たちの頭部に突然激痛が走る。

 涙目になりながら見上げると腕を組み、口をへの字に曲げた不死王が堂々と浮遊していた。


『…俺が取ってやる』


「「……えっ」」


『俺が責任を取ってやるって言ってんの!生きてる間に退屈なほど幸福で平穏な毎日を送らせてやるよ!死後のことを忘れるほどにね』



 だからごみ箱のデータを消しなさい、そう告げると彼女たちはゆっくり互いに見つめ合う。

 相談でもするのかと待っていたが口を開くことはなく、しばらく同じ状態が続く。


 いい加減声をかけようとした矢先、一斉にリッチに振り向いた。


「その発言は世界の管理者になる意思と受け取ってもよろしいですか?」


『…世界の管理者?』


「神になる覚悟が貴方におありですか?」










 交互に口を開く2人が初めて神秘的に見え、思わず後ずさるが彼女たちの眼光はすぐにいつもの無邪気な姉妹のものに戻ってしまった。

 突然の変化に戸惑いを隠せずにいたが、彼女たちは構わず告げる。



 父の、神の仕事の手伝いのために世界を離れなければならず、元々神の代行をリッチに頼むつもりであった。

 彼が箱庭そのものを整理し続けてくれたことで余裕が出来、全てのシステムの自動化に成功したため彼の手を煩わせることもない。

 同時にアトランティス大陸を創ることで、彼女たちに[神]としての立場にはまだまだ早いことを痛感し、非公式な異世界の、正式な神様として君臨することを重ねて依頼した。




 軽々しく責任を取ると言ってしまったことに後悔を覚えつつ、淡々と引き継ぎを進める2人の勢いに押されて首を縦に振るしかない。


「……以上で説明を終わりますが、何かご質問は?」


『何も聞いてなかったんだけど、ようは神様な俺は何をすればいいの?』


「…箱庭の未来を見守ること、でしょうか。道を外れた若者をたまに引き戻すだけの簡単な仕事です」


『隠居して近所の悪ガキをしつけろってことね』


「ふふふ、そういうこと」


 まだ聞きたいことがいくらかあったものの、殴りつけるような眠気が双子との別れを告げていた。


「そろそろお別れですね」


『…せやね』


「しばらくお別れだけど、用事が済んだら絶対遊びに来るから!」


『遊び…って』


「んー…リッチさんの箱庭にキャラとして登場、的な?」


『……はっ、その時は、歓……迎し、て』


「楽しみにして……からね、冥王……様?……のお方、約束ですからね」


『ばい…び、冥…?』



 思考がまとまらず、最期に聞いた言葉の意味を理解することなく彼は深みへと引きずり込まれる。

 いつもの感覚と違う、底なし沼に無理矢理引っ張られるような不快感が全身に浸み込む。


 その感覚は……



 初めて死んだ時のものと酷似していた…そんな気がした。

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