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17.しばしの別れ

主人公はお休み、しばらくは冒険者目線でストーリーは進みます。

 その後、仲間に説明する内容を何度も反芻していると少しずつ周囲が明るくなり始めていることで入口に近付いていることに気付く。目的地へ到着すると男の部下は次々と私の仲間を地面に下ろしていき、用は済んだとばかりに再び洞窟の奥へと歩いて行く。

 そしてアミルが下ろされたところでブッチと呼ばれる6本腕の巨漢のアンデッドはその場に佇み、その横に黙って男も立っていた。彼の護衛のつもりなのか、少なくとも先程まで拘束されていたことから力の強さは身に染みて理解していたため彼を襲うつもりは全くない。



 今にも襲われるのではと不安そうにブッチを眺めていると男のローブから私の目の前でアンデッド化させたねずみと小鳥が顔を出し、示し合わせたように私の肩に這い上る。その出来事は嬉しい反面、複雑な思いがあった。それが顔に出ていたのだろう、男は訝しげに問いかけてきた。


「その子らじゃ不満かい?」


「い、いや、そんなことはない!むしろ嬉しいくらいなのだが…お前に操られていると思うとなぁ」


「あー、乙女はデリケートだね」


「乙女であることは関係ない」


 思わず強い口調で言い返してしまったがアンデッドとはいえ、可愛いものが自分の近くにいてくれて喜ばない者はいないはず。しかし、私の肩に止まっている愛くるしい姿のこの子たちの中身が目の前にいる胡散臭い男だと思うと素直に喜べない。

 

「言っとくけど俺が出来るのは命令であって操作ではないよ?」


「…どう違うのだ?」


「手となり足となり、ってのは出来ないってこと。あくまでも生前通りの生物として活動するけど命令すればその範疇で動くってだけ」


「つまり…死んでいても小動物であることにかわりはないと?」


「一応ソイツら通して俺から声を出せたり視界共有ができたりはするけどね、そんだけ」


 最後の言葉には不穏なものがあったが、その前に聞いた男の言葉が都合の悪い記憶を全て消去していた。


(この子たちが……私に懐いてくれる…念願の愛・玩・動・物が、ついに、私に!!!)


 撫でそうになるのを必死に我慢し、回答が必要な山ほどもある疑問を男にぶつける。


「この子たちの名前は!?」


「え、そんなのないけど…」


「私がつけていいか!?」


「…ご自由に」


「エサは何を食べるんだ!?」


「アンデッドだから食事はいらない。ついでに呼吸もしてないから水の底だろうと連れて行けるよ」


 しかも手間いらずときた。直接エサを手で渡し、それを食べる様を見れないというのもいささか残念ではあったが少なくとも飢え死にさせる心配がないと考えれば我慢が出来る事情であった。


「やはり鳥カゴでも用意してあげた方がいいのか?」


「君から離れずに言う事を聞くよう命じてあるから大丈夫なんじゃない?」


「本当か!?」


「本当だよ」


「感謝する!!」


「お、おぅ」


 そこまで聞き出すと男は若干引き始めていたが、気にせず質問を続ける。一生この子たちを大切にする、魂のその思いを刻みながら交互に2匹を見つめていた。当然仲間も大事にするが、万が一この子たちと仲間を天秤にかけられた場合……今は答えを出すことはできないが、いずれ自然と出るだろう。

 そう信じながら再び視線を男に戻す。


「トイレや躾はやはりした方がいいのか!?」


「トイレはしないし、躾って君の命令聞くから問題ないでしょ」


「そうか!!」


「…ん」


「触っても大丈夫なのか?」


「ん、好きにしてくれ」


 その返答と同時に肩の友を抱きかかえた。アンデッドなだけあって多少身体は硬いが、それでも触れれば相応の反応が返ってくるうえに毛並みの触り心地も愛おしい。このために生まれたのではないかというほど撫でまわした後、ある疑念が浮かんだことで現実に意識が引き戻される。


「ところで仲間に入れてくれと言っていたが、この子たちを通して監視するだけでいいのか?」


 そう聞くと男は何故だか呆れたように首を振り、何故アンデッドに呆れられているのか理解できていない私に男は仕方なしと言葉を紡ぐ。


「…普通そっち先に聞かない?まぁいいけどさ。普段は君に従うけど、その子らは俺の命令で動くからああしろ、こうしろってのは口出せるんよ」


「…操作はできないと言わなかったか?」


「ようは斥候が出来るってこと。目標まで行かせてスパイみたいな事させられるよ?」




「……それは確かにアドバンテージとしては大きい。我々も警戒をしつつ、さらに周囲を見通してもらえるというのは戦力の増強といえよう。情報収集にも役立つだろうし、目の保養にもなる。しかしこの子たちを危険な目には…」


「…もしも~し。心の声漏れてますよ~聞こえてるよ~!」


「うぐっ」


 心の声がダダ漏れであったことにも気付かず、思いもよらない仲間が加わったことにペースが乱されているのだろうと深呼吸をして気を静める。男は偵察にと言っていたがこの子たちは自分が利用されていることに私に愛想を尽かしたりしないだろうか、流石に亡くなった動物にまで冷たくされたら一生立ち直れない。その心配が顔に出ていたようで、私の心中を察した男は重いため息を吐きながらゆっくりと説明する。


「多少の傷なら自己回復するから問題ないよ。それに君の命令は俺の次に従うように言ってあるから嫌われたりしないよ」



 その言葉に思わず胸を撫で下ろすと男は言うべきことを全て言い切ったのか、洞窟に引き返そうとするが思わず男を呼び止めてしまったことで彼も不思議そうに振り返る。



「ほんじゃま、そろそろお仲間さんたちも起きるし、せいぜい楽しませてくれよ~」


「あ、待ってくれ!……その…ありがとう、仲間の命を救ってくれて。先任の冒険者たちには悪いがこの稼業は…そういう仕事だ。もう恨み言は言わない」


 自分らしからぬ言葉に耳まで赤く熱くなるのを感じるが、豆鉄砲を喰らったような顔をした男はしばらくキョトンとしていたがやがていつものニヤケ顔に戻っていく。


「救ったのは君自身の意思さ、俺は後押ししただけ……じゃ、ばいび~」


 気の抜けた別れとともに暗闇へと消えていくと、彼の背後を付き従っていたブッチはその凶暴そうな6つの腕を全て駆使して天井を力任せに殴り始めた。やがて不穏な音と共に天井が崩れ始め、あっという間に入り口は封鎖されてしまった。

 新たな友をそっと撫でつつ、仲間が起きるまで私はいつまでも男が去った閉じた洞窟を眺め続けていた。


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