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169.山中の聖堂

 道が逸れることもなく、ひたすら一本道を進んでいくが一行は武器を下ろすつもりはない。

 松明によって先々まで照らされ、隠れるところがないように見える。

 しかしロザリオに反応した扉が開いたギミックを考慮すると、いつ敵が何もない所から飛び出してくるとも限らない。

 

 アイリスの能力にまで影響を及ぼす敵の戦力は未知数であり、最悪の場合はリッチの力が頼りになってしまう。

 …が、幻による襲撃をギリギリまで黙っていた事実、そして先程の発言から彼はあくまでも戦闘のサポートとして、ライラの補欠要員として参加していると自ら宣言していた。

 回復は受け持ってもらえるとはいえ、過剰に期待することは油断を招いてしまう。


 一部の隙も見せず、互いに身を寄せ合って慎重に進んでいく。



「…誰だっ!?」



 遠方に人影が見え、レオルが叫ぶと同時に全員が照準を合わせる。

 隠れるでもなく、堂々と行く道を塞がる敵に違和感を覚えると背後に弓を構えるアイリスに視線を送った。

 その表情には戸惑いが見え、首を左右に1度振る。


 しばらく彼女と向かい合ってたが、やがてレオルが武器をしまうと先程までの緊張感を払拭するように歩み始めた。

 慎重さの欠片もなく、大胆にも人影へと迫っていくが相変わらず行動を起こす初動が見受けられない。

 アイリスの[索敵]が正しければ、眼前に立つソレは[敵でもないが味方でもない]ことが窺い知れた。


 2人のやり取り、そして彼の行動を理解した一行は彼の後に続いて行く。


「…何だよ、ただの石像じゃねぇか」


「しかも行き止まりだし」


 武器をしまい、落胆の色を見せるカンナとガイアを一瞥すると再び正面に向き直る。

 彼らが警戒した相手は胸の前で手を組み、ローブで深く顔を覆っている男性とも女性ともつかない石像が複数並んでいた。

 背後は行き止まりとなっており、まるで一向の徒労を労うように像は微笑みを浮かべている。


 思わず来た道を振り返ってしまうが、曲がり道があった様子もなく、再び正面を見据えるがやはり進む道はない。

 途方に暮れ、戻るか否かの相談を始めようと円陣を組もうとした刹那、それまで無言で見守っていた不死王がため息を吐きながら前方へと進んだ。


「…君らの世代はもうテレビゲームはしないのかい?」


 そう言うと石像の裏を1つ1つ見て回り、やがて目当てのものを見つけたのか、レオルを手招きすると指名された本人は訝し気に彼の元へ近づいて行く。

 ニヤケながら、石像の裏に指さすとその背後に回った。


 全ての石像の背にはコブのような石塊が施されていたが、リッチが指すものだけ取っ手のようなものがある。

 恐る恐る取っ手を掴み、一気に引き上げるとガコンッ、と何かがズレる音がするとともに僅かな地響きが周囲を揺らす。


 何事かと周囲を慌てて見回すが、震源地は行き止まりとなったはずの壁。

 石像が横へとずれていき、壁がせり上がっていく。


「ゲーマーならこれ位の仕掛けも解けんとね」


 さらりと嫌味を言われ、彼を一瞥するがその顔は前方を見るように促してくる。

 その先の景色は洞窟の内部などではなく、一面青銅色に塗られた地面や壁が出現し、中から吹き付ける冷たい風が内部の奥行きの深さを伝えてくる。

 いよいよ本陣に近付いている手応えを感じ、再度武器を引き抜くと互いに意思を確認することもなく、迷いもなく足を運び入れた。








 足音を出来るだけ立てぬよう履物を脱いで進んでいくが、通路を抜けると巨大な聖堂が広がっていた。

 ファムォーラ廃城最上部の教会よりも規模が大きく、岩山の内部を切り抜いてそのまま彫られた巨大な石像が立ち並ぶ景色はまさに圧巻。


 それだけでこの地が聖なる加護を受けているような錯覚に陥ってしまいそうになるが、すぐに認識を改める。

 ココこそがこの世界を、アトランティス大陸を闇に陥れている元凶であり、ライラを死の寸前まで追いやった。


 だからこそ彼らはこの地にいる。


 いまだに敵の気配がないことに違和感を覚えつつ、神秘的な景色に心を奪われないように一層集中力を研ぎ澄ませる。

 しかし奥へ進もうとも道中と同様に敵の妨害はなく、幻覚に惑わされる様子もない。


 実は敵が現れていないという幻覚を見せられているのではと、疑問を覚え始めた時。


「ふむ。ようやく敵さんが出現したね」


 リッチの唐突な発言によって身体を強張らせ、前方に全神経を集中させるが暗闇によって何一つ視界に捉えることが出来ない。

 アイリスの能力ですら捉えておらず、冗談のつもりかと視線を向けるが、その表情にはいつもの笑みが張り付いていなかった。


 彼の言葉を信じ、武器を握る力を強めると再び進撃を開始する。


「この暗さでは見えませぬか?」


 暗がりから冷たく、それでいて酷く落ち着いた声が響くと一行の足が止まった。

 同時に空間一帯に設置されていた松明が灯され、声の主が部屋の最奥で姿を現す。


「……ようこそ、おいでくださいました。転生者ご一行様」

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