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167.濃霧のち晴れ

「…どうなってるの?」


 振り下ろされた地面が陥没しているはずが、道が平らに整備されたように何もない。

 巨人を相手にしていたつもりが、実在したという痕跡すら残されていなかった。


 いまだに事態を把握できていない一行を尻目に、不愉快そうに腹を擦っているリッチに視線を向けるとアイリスのものとカチ合う。

 彼の表情は何かをすでに察しているものであり、ニヤリと笑う彼の反応に渋々口を開くとため息にも似た声が漏れた。


「……センサーが[点滅]してたけど、よくわからなかった。それで反応が遅れた…のかもしれない」


「アイリスは何も悪くないよ」


「そうですよ。ところでリッチさんは霧の正体が分かっていたんですか?」


「そうそう!さっき、霧を吸い込んでるように見えたけど」


「…あれの正体は[魔素]さ」


 当たり前のように語る彼の様子に、いまだに理解が及ばず凝視を続ける一行を見回し、顎を擦りながら生徒に教える教師にようにレクチャーを始める。

 先程の霧は恐らく教団によって作り出されたものであり、彼らが戦っていた相手は幻であったことを示唆した。

 彼の目には現実と幻の双方が見えており、森の中からまとわりついていた霧に鬱陶しさを覚えていたと不機嫌そうに答える。


 質の悪い魔素だとボヤく彼を無視し、森まで溢れていた霧がなぜ今頃になって効果を及ぼしたのか疑問を上げると霧が濃くなったことで影響力が強くなったのだろうと笑いながら彼らを諭す。

 明らかに不自然な切り返しに、アイリスとスターチが眉を吊り上げてリッチを訝し気に見つめていた。

 早く進むように促す彼の言う通りに歩き出そうとするレオルたちを掴み、答えを聞くまで決して動かない意思を頑なに表明する。

 

 しばらく見つめ合っていたが、やがて観念した彼が勇者一行を[祝福]したことを白状した。

 体力やスタミナの回復、状態異常の無効化を促す効果を付与したことを寝ている間にこっそり行なったと悪気もなく言い放つ。


「…助かりますけど、事前に相談されてくれてもよかったんじゃないですか?」


「アンデッド化させないように加減しながらやってたから…あっ」


「俺たちアンデッド化しかけてたんですか!?」


「だ、大丈夫だって。生きたままアンデッド化してたら悲鳴上げてみんな起きてただろうし!」


 反省の色も見せず、説得力も全く感じさせない説明ではあったが少なくとも悪意あっての行動ではなかったことだけは理解していた。

 実際かなり奥に進むまで幻に惑わされることはなく、彼の言う通りであれば[加護]がなければとっくの昔に影響を受けていた可能性もある。


 幻と呼ぶにはあまりにも現実的な感触に、恐らく彼らだけでは無事に辿り着くことすら難しかったかもしれない。

 互いに見合わせ、それ以上深く考える気がないことを窺うと再びリッチに視線が集まる。


「…変なことはしてないんですよね?」


「言ってしまえばただのステータスの底上げだからね。勇敢なる戦士たちに送られた[不死王の祝福]だと思ってもらえればいいかな」


「物々しい名前なのに心強く感じるから不思議」


「……それよりもレオル君や、胸元で何か光ってはいないかい?」


 人を喰ったようなおどけた口調でレオルを指さし、視線が彼に移ると胸元をペタペタとまさぐり始める。

 数回はたくと不自然な膨らみを感じ、覚えのない感触に慌てて掴みだす。


「…ロザリオ?」


 彼の手にはライラの所有物であったはずのロザリオが握りしめられ、初めて見た時よりも煌々と光が照っていた。

 彼女のいう事が本当なのであれば、すでにサンルナー教の本部が近い。


 霧の効力が強くなったことも十分な裏付けとなるが、彼らには気になることがあった。

 ライラに本部の場所を聞き出した際、彼女からロザリオを預かっていたのは確かリッチであったはず。

 それが何故レオルの懐に入っているのかと、彼に預ける必要性があったのかリッチに何度目と分からない視線が飛び交う。


「…それ、持ってると落ち着かないんだよね」


「落ち着かないって、弱体化してるってこと?」


「そんなんじゃないさ。ただ…幽霊が念仏聞かされてるような感覚、なのかな」


「……リッチさんも成仏したりするんですか?」


 落ち着かないと聞き、レオルからロザリオをひったくったカンナが珍しく弱気なリッチに近付こうとする。

 しかし彼の応答に足を止め、心配そうに首を傾げるがやはり十字架はアンデッドたる彼に堪えるのかもしれないと納得しそうになるが彼はその意見を否定した。


 あくまでもロザリオに込められた魔力による影響であり、吸血鬼にニンニクを与えるようなオカルト染みたものではないと一蹴する。

 付与された魔力の質を鑑み、本部にいけば[落ち着かない]では済まされないのではないかと口々に上げられる不安の声を彼はいつものように笑って返す。


 同時にこれ以上話す気はないという意思も漂わせ、ロザリオの効力に関して言及することはなくなった。


「…ま、最悪アンデッドの軍勢でも召喚すれば何とかなるんじゃねえの?」


「いや、勇者としてその発言はダメでしょ」


「ん?アンデッドの召喚は絶対にしないけど」


「「「「「……えっ!?」」」」」

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