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163.焚火物語

 ~カンナとガイアの話~


 使命を無事終えたことを王女シィラに告げ、どのようにして魔王を討伐したのか聞かれるといずれレオルから正式な報告があるとしどろもどろに誤魔化した。

 それでもなお答えを求め、ファムォーラから授かった式典の招待状と何か関係があるのかとしつこく詰め寄る彼女に業務があると言って王室から抜け出すことに成功する。


 しかし日頃の業務と化していた兵の訓練を素通りし、この世界で産まれた第2の故郷にして家族と再会しに行く。


「「結婚します!」」


 生傷をこしらえ、並々ならぬ風格からはどれ程の苦難を乗り越えてきたのか、涙ながら抱きしめようとした刹那に浴びせられた第一声。

 貴族では非日常ということではないが、まさか自分の子供たちがそのような関係になるとは思いもよらず、ただただ固まる事しかできなかった。


 確かに昔から過剰に仲が良く、まるで恋人のように振る舞う2人を一時期は本気で切り離そうと考えていた時期もあった。

 どこで教育を間違えてしまったのかと、別の意味で涙が零れそうであったが無事勇者としての任を終えた2人を、ましてや自らの子供たちを弾劾する気にはなれない。


 人生でもっとも複雑な思いを彩り、辛うじて2人に紡いだ言葉が「…幸せにな」。




「……何度聞いてもやっぱり違和感しか感じないわね」


「素直に祝福できませんって」


「死ぬ前から恋人だったのに、一番そばで生まれ変わったんだよ!?奇跡だってば!」


「おうよ!」


「ははは、2人ともおめでとう…ところでスターチはどうだったんだい?」


「…この流れで俺に振りますか」





 ~スターチの話~


 シュエン王国が滅び、ファムォーラ学園都市として再出発を開始したが初めての[運営]は難航を極めた。

 直後の戦火によって崩れた復興作業を不死王のアンデッドが補い、運営のための人材はファムォーラの人脈によって順調に進んでいた。

 

 しかし[学園]としての機能を保つための教授陣の採用、そして自らも学長として教壇に立つことになったため、寝る間も惜しむ日々を過ごす羽目になる。

 さらには裕福層しか入れなかったはずが、意欲ある者拒まずの触れ込みによって続々と学生候補が都市へと集い、人員の把握が厳しい状況。

 

 何よりも苦労したのがいままで我が子を道具のようにしか見ていなかった母親から毒気が抜け、鳥のように囀りだした様子にリッチが洗脳したのではないかと疑念ばかりが深まる。

 それでも自分がこの世界の役に立っていると、生前では決して辿り付かなかったであろう地位に内心喜んでいることに複雑な思いが脳裏をよぎる。




「スターチらしい生活だな」


「くたびれたサラリーマンみたいな生活みたいだけど…疲れないの?」


「忙しくしているのは嫌いではないので」


「でもライラと一緒になったら余計忙しくなるんじゃないかしら」


「は、話を飛躍しないでください!!」


「…さて、レオルはどうなんだ?」


「ちょっと待って。なんで私が最後なの?」


「「「「アイリスの生活が一番気になるから」」」」





 ~レオルの話~


 父エファルトに報告し、いつ以来となるか分からない笑顔をレオルに向けるがすぐに表情が曇ってしまう。

 魔王の脅威が去ったことは喜ばしいことだが、まだ戦乱はあちこちで起きている現状を説明し、今は十分に休息を取るように言い渡される。

 そして息子の背後に佇むハーフエルフに視線を移し、彼女の目的を知ると心からフィントの訪問を歓迎した。


 両親との謁見を無事に終えるも、もっとも大きな試練が彼を待ち構えていた。

 煌びやかな通路を抜け、何の変哲もない景色が広がるとそこは使用人の部屋がずらりと立ち並ぶ区画。


 やがて1つの扉の前に立ち尽くすと大きなため息を吐き、その様子を訝し気に観察していたフィントは彼の気も知らずに扉とレオルを交互に見つめる。

 ようやく覚悟が定まったのか、ノックしようとした瞬間に扉が勢いよく開く。


「レオル様っ!?」


 彼と共に育ち、彼に奉仕を続けてきたメイドが部屋から出てくるが真っ先に視界に入ったのは人生で初めて見るエルフであった。

 周囲をくまなく見回すが、地面でのたうち回るレオルを発見すると急いで彼を抱き起こす。


 鼻を擦る彼に何度も詫びを入れ、互いに落ち着きを取り戻すとメイドの部屋へと入っていく。


「えっと…ただいまソフィア」


「おかえりなさいませ、レオル様……後ろの方は?」


「は、初めまして!俺はハーフエルフのフィントで、レオルに婚姻を申し込んだ者だ!!」


「…婚姻?」


 目を見開き、レオルとフィントを交互に見つめるが、全身から冷や汗を流す彼と今にも泣きだしそう涙目の彼女を観察していると思わず笑いが込み上げてしまった。

 まるで悪戯をしたことを反省する子供のようであり、事情を聞かずとも彼らに何一つ悪意がないことが手に取るように分かる。


 俯いていたフィントを抱きしめ、放心している彼女と目が合うとソフィアはあやすように語り掛けた。


「レオル様は素晴らしいお方です。その器の大きさは私だけでは支えきれないかもしれません…フィントさんがよければ共にレオル様を支えていきましょう」


 そしてレオルに視線を投げ、同じく笑顔を向けると彼にも抱き付いた。


「レオル様、よくぞ無事にお戻りになられました。例えレオル様が男色も併せ持とうと、決して私はあなたの元を離れることはありません」




 しばらく沈黙が流れ、彼女がフィントを受け入れてくれたことを喜ぼうとした刹那、ソフィアの最後の言葉が論争を招いたことは言うまでもない。

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