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16.悪夢の回廊

「…うっ」 


「アミル!無事だったか!」


 一瞬走った頭痛に顔をしかめ、同時に身体の気怠さを振り払うように軽く身を揺さぶる。閉じられた瞼に差し込む光を眩しく感じながらも、かけられた声に呼応するようにゆっくりと目を開く。そこには心なしか目の下が仄かに腫れているティアラの顔が眼前にあり、思わず身を引こうとするが背中に当たる硬い物が回避行動を阻害した。

 急いで周囲を見回すと洞窟の壁にもたれかかっているが、地面に草が生えていることや地平線から差し込む西日からアミルは自身が外にいることに気付く。そして最後の記憶が暗闇より出現した正体不明の敵からティアラを庇おうとしたことを思い出し、ティアラの肩を勢いよく掴む。


「ティ、ティアラ!大丈夫か!?それにみんなはどこに…」


「わ、私は大丈夫だ!ほ、ほかのみんなはそこで寝ているだろう!?」


 顔を赤くし、目を見開きながら元気に答える彼女に心から安堵を覚えつつ彼女が指し示した方向を確認する。そこには地面に横たわり、起こされるのを待っているかのように寝息を立てている3人の仲間たちの姿があった。再び身体から焦りを吐き出すように息を吐くと、いまだ重い体を何とか起こしながら立ち上がる。

 周辺を眺め、ふと洞窟の入り口を見ると瓦礫で埋まっていることに気付く。首を跳ねても斬り伏せられても動くことをやめない敵に囲まれた絶望的な状況であったはずが、今は全員無事に洞窟の外に出ている。記憶の錯誤に混乱しているとティアラが彼の顔にゆっくりと手を添え、普段アミルよりも男らしい彼女による思わぬ不意打ちに心臓が飛び跳ねる。しかし彼女は気にする素振りもなく、優しい微笑みを浮かべながら静かに呟いた。

 


「もう大丈夫だ。依頼は…終えたんだ」



 そう言い終えると彼女は事の顛末を話してくれた。









 

 洞窟を侵入した冒険者たちは幻惑を見せる毒に晒され、あっさりと昏倒してしまった。しかしティアラは精霊の加護により何とか毒が抜け、暗闇に目が慣れると捜索していた冒険者たちの亡骸を見つける。主犯と思しきローブを羽織ったせいで姿がよく見えない敵が油断した隙に背後から斬り伏せ、仲間を洞窟の外まで引っ張り出すことに成功した。そして亡骸を回収しようとすると息が残っていた敵は最後の悪あがきと言わんばかりに放った魔法で洞窟が崩壊を始め、何とか遺品だけを掴んで命からがら脱出することができた。


「……ってストーリーなんだけど、これで捜索依頼は達成されたって納得してもらえそう?」


「む、むぅ……私は嘘を吐くのが苦手なんだ。お前がそう言うなら、不本意だがそれに従おう」


「言っとくけどしくじったら最悪の事態になっちゃうかも、だよ」


「うっ」



 男の提案を呑まざるを得なかった。


 受け入れなければ私ともども仲間はアンデッドに変えられてしまう。死に行くことは冒険者になった時点で覚悟をしていたつもりであったが、彼らとの時間がもう少しでも長引かせられるならば私は悪魔とも取引をしよう。そう思い至ってから反射的に合意したことを早々に後悔している私に構うことなく、男は嬉しそうに仲間を担いだアンデッドどもを従えながら出口へと向かう。

 アミルがうなされているのは心配だが、他の3人は気持ちよさそうに眠っているのが癪に障る。頬をつねってやろうかと画策している時に、先頭を歩く男が唐突に口を開く。



「とりあえず俺はここに残るけど、まずは入り口を潰そうか」


「…入り口を潰すって、そうなるとお前は二度と出てこれなくなるんじゃないのか?」


 咄嗟に放った言葉に一瞬息を呑む。何故私はアンデッドの心配をしているのだろうか。こいつは敵であり、冒険者ギルドに依頼されている討伐対象だ。自分にそう言い聞かせるように目の前の男を目の敵のように睨むが、男は依然として進行方向から視線を逸らさない。


「平気平気。最悪部下に掘らせれば出れるし、素材はまだ腐るほどあるから研究に当分は時間を費やせるんだ。それに洞窟が埋まったうえに、俺が姿を晒さない方がそちらにとっては有益でしょ?」


「それはそうだが……素材?死体のことか?」


「ほかになにがあるのさ?」



 何気ないように話す男に険しい顔を向けるが、当の本人は相変わらず私のことを見ない。背を向けているのは私を信用してのことなのか、それとも私に仕留められないだけの自信があるのだろうか。人ならざる道を進むことには反対だが、自らを洞窟に閉じ込めてまで我々の面子を守ろうとしているのは事実。反論をすることができず、苦虫を噛み潰したような顔をして再び顔を前へ向ける。



「さっきから百面相を披露してくれるのは楽しいけど、いい加減諦めたらどうだい?」


 一瞬で顔が沸騰していることを自覚し、拘束こそされていないが私の周りをアンデッドが引率していることを思い出す。男はアンデッドの視界を共有している、つまりこいつらの視界に映っている私の全ての行動を直接見ずとも手に取る様に分かっている。この男に勝つには一筋縄ではいかないようだ……



 これ以上顔を見られないようにいまだ火照る顔に手を当てつつ、彼の先導で漆黒の中を静かに歩き続けた。



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