159.寝室の会談
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「師匠!!お久しぶりですっ!」
和気あいあいとする寝室に、突然大声が響き渡る。
一斉に声の方角に向き直ると部屋の端でリゲルドが勢いよく手を振り、その背後にいたであろうアイリスは飛び出すようにライラの元へと駆け寄った。
「ライラ、大丈夫だった!?リッチさんから聞いてすぐに来たんだよ」
「…心配かけてごめんなさい」
アイリスの過剰な反応にたじろぐも、我が身を心配してくれていたことに嬉しそうに肩に置かれた彼女の手を握り返す。
奇しくも勇者一行が全員集まったことでライラの周囲は再び活気に満ち溢れ、その様子を尻目にゆっくりとデモンゴがリッチに近付いていく。
軽く会釈をすると、先の大戦の結末、そしてライラが無事に戻ってきた一報を受信した旨をその場にいた2人に伝えると無理矢理転移させられたことを申し訳なさそうに話し始めた。
終戦直後の都市整備などで多忙だろうと見越し、2人につい話してしまったことを延々と謝罪し続ける。
静かに彼の言葉に耳を傾けるも、むしろいいタイミングで連れてきてくれたことに感謝すると肩の荷が下りたように地面へと下降した。
少なくともアイリスを連れてきたことに関しては、であったが。
「師匠、デモンゴから聞いたがまた人間の軍勢を圧倒されたようだな!」
「まぁね。勉強の方はどう?魔境はうまくいってる?」
「うむ!難航しておるが問題はないっ!」
「どっちだよ」
「…アイリス様の助言もあって多少は進歩しておりますが、まだまだリッチ様の都市には遠く及びません」
いつの間にか浮上していたデモンゴが静かに割って入り、魔王城を拠点に巨大な街を形成する計画を淡々と説明する。
顧問としていずれ復興の手伝いに出向くことを約束し、その言葉に力強く頷くリゲルドたちが引き下がるとリッチは部屋を見渡した。
ーー主役は揃った。
深い息を吐き、勇者一行を一瞥すると談笑を楽しむライラたちの元へゆっくりと漂う。
亡霊のように迫ってくる不死王に会話がふいに止み、視線がそちらへ向けられるといまだにベッドから起き上がれない少女と目が合った。
彼は言葉を発さず、しかし何を求めているかを瞬時に理解するとライラは俯いてしまった。
沈黙が流れ、やがて顔を上げることなく彼女は呟く。
「…サンルナー教の本部の場所、ですよね」
静まり返った寝室でライラはポツポツと言葉を零していく。
ーかつてリッチが占拠していた森を遥か南に進み、霧が深い険しい山々を越えていくとロザリオが光りだす。
ー光の輝きは入り口に近付けば一層増し、やがて霧のない緑に溢れた洞窟に辿り着く。
そこまで一気に話すと肩を落とし、背もたれに身体を預けると息をゆっくり吐き出した。
スターチが心配そうに彼女の肩に手を置き、彼女も自らの手を彼の物に重ねる。
彼の優しさに微笑みを浮かべて何も問題がないことを伝えようとするが、その顔には疲労と悲哀がはっきりと伝わってくる。
裏切られ、道具のように使われたとはいえ彼女はこの世界で育んでくれた者たちの情報を渡してしまった。
自らもまた故郷を裏切り、それでも為さねばならない事なのだと必死に笑顔を作っている。
そんな彼女の意地らしい様子に、まるで自分が悪者を演じてしまったような心境に気まずそうに後頭部を掻くも、ようやく落ち着きを取り戻したことを確認するとリッチは軽く咳払いをする。
「さて、あと2つだけ確認したいんだけどいいかな?そのロザリオはライラ嬢さんが持ってないと反応はしないのかな」
「…いえ、スカウトされた新規の入団者の方の通行証代わりにも使われてますので。入団後は再び幹部の皆さまに返却してしまいます」
「ほうほう。ところで斥候が女ばかりだったんだけど、男も所属しているはずだよね?」
「申し訳ありませんが私は生まれてから聖女と[表]で持ち上げられていただけで、彼女たちの存在は……本部に勇者の任を終えたことを伝えに戻って初めて会いましたので」
「ふ~む…」
訝し気に答える彼女の言葉に意味深に頷くも、彼が何を考えているのかその場にいる全員が必然的に同じ結論に辿り付いた。
ロザリオを持たせたアンデッドの大軍を派遣するのだろうと。魔王軍やシュエン王国、カンパネリ王国軍を壊滅させてきた事実が脳内で反芻される。
その未来を予想してか、心なしかライラの顔色もどことなく優れないように思える。
しかし次に彼が口を開いた時、彼らの思考が一瞬停止した。
「じゃあ決まりだな。俺と勇者ご一行で最後のクエストといこうじゃないか」
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「「「「「「「はいっ!!??」」」」」」」




