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153.王城攻略 - 上層

 ~斥候;上層~



「…今の揺れは」


「ロザリオ…だよね」



 上層へと向かう階段を歩いていると塔が激しく揺れる。仲間の誰かがロザリオを発動させたのだろうが、それだけの強敵と出会ったということ。

 仮面越しに互いを見つめ、隠しきれない不安を汲み取る。しかし感情を振り切ると再び先の見えない階段を昇っていく。


 由緒あるサンルナー教の斥候……その初任務。



「…ついてないなぁ」


 相方も同じ思いをしているのだろうが、あえてその言葉を聞かれないようにポツリと呟く。


 厳しい訓練に耐え、ようやく入隊した時の修行仲間との酒盛りもなかなか楽しかった。しかし、栄えある初めての仕事がアンデッドが跋扈する廃都市。

 それも全員出撃する規模の任務に、嫌な予感しかしなかったが断ることなどできない。


 大主教様の命を授かった翌日、辛うじて先輩たちの後について行くと目的地はるか手前で待機させられた。

 やがて予定通り到着したカンパネリ王国軍に気を取られている隙に、置いて行かれるほどの速度で都へと潜入することに成功する。



 しかし、報告で聞いていた華やかさは一切見受けられず、都市内部は不気味そのもの。

 式典を行ったとは思えないほど廃墟が立ち並び、夜に肝試しをすれば確実に失禁しそうな雰囲気であった。

 

 そのように思うも、効率的な調査を重んじた隊長によって斥候隊は分断され、運よく隊長率いる王城への先行チームに選ばれると早々に新たな目的地へと潜入する。


 橋は降りており、まるで誘導されているような気がしたが障害を恐れずに冷静に突き進むのがサンルナー教の斥候における絶対的方針。

 異を唱えることも許されず、伽藍洞な広間に到着した瞬間にチーム分けをされた。


 下層、中層、そして上層。


 辿り着いて間もなく即座に判断できる隊長には尊敬の念が溢れ出るが……何故新人2人を組ませて上層を任せたのだろうか。

 そればかりが頭から離れなかった。




 斥候に任命されれば新人扱いはされない。任命式に隊長から言われた言葉に、プロ意識を持つための激励だと思っていたが物理的に扱われないとはまるで思っていなかった。

 同期生であるため変な気負いや遠慮はしなくてすむが、ルーキーだけで任務に挑むのは些か抵抗がある。

 

 不謹慎だが、このまま何も発見することが出来ずにさっさと廃都市を脱出したい。

 あわよくばカンパネリ王国軍が任務中に勝ちでもしてもらえれば、さっさと撤退することも出来る。


 それを相方も承知しているのだろう、互いに慎重に行くふりをしてわざと時間をかけて階段を昇っていた。

 バレれば打ち首ものだが、そもそも新人だけを組ませたりこのような大規模な任務に組み込む事がおかしい。


 いっそ相方と不平不満に花でも咲かせようかと思ったのも束の間。



「きゃっ!?」


「えっ、なになに!?」


 突然階段が激しく揺れ、王城全体が低い唸り声を上げる。壁にしがみつき、古びた王城が倒壊するのではと激しく心配したが幸いなことにそのようなことは起きなかった。

 ロザリオの音を上回る衝撃に、一体何が起きているのか見当もつかない。隊長、もしくは副隊長が自らには知らされていない奥の手でも使ったのだろうか。


 普通に考えれば熟練の先輩がロザリオを使用している時点で、新人が敵う戦場ではない。


 

 深いため息を吐き、重い足を引きずりながらさらにペースを落として歩き続ける。

 そのためか、ふいに身体に熱がこもっていることに気付く。考えてみれば本部から都市まで、そして王城に到着してから1度も休憩していなかった。


 先輩方がいないからか、これまで敵と一切遭遇していない油断からか。

 斥候の象徴である分厚いローブと仮面、一瞬悩んだが一気に仮面を取ると熱気が露出した顔から流れ出て行った。


 それを見た相方もまた躊躇するも、やがて同じように仮面を脱いだ。

 2人の顔には汗が滝のように流れ、仲間にはもちろん敵にすら見せるわけにはいかない様子に思わず笑みが零れる。


 しかし2人にとって幸か不幸か、ようやく身体の熱気と汗が引いていくのを感じ始めた頃に目的の階層に辿り着いてしまった。

 

 特別な装飾はないが、儀式めいた紋様が刻まれた巨大な扉が堂々と立っている。

 息を呑みこみ、セオリー通り素早く扉に近付くとこすりつけるように耳をべったりとつける。


ーー何か聞こえる


 中から小さな声が、それも数えきれないほどの声が聞こえてくる。まるで祈りを捧げているかのようだが、それ以上の疑問点が脳裏に浮かぶ。

 扉の向こうから声は聞こえる、しかし生命の気配は全く感じられない。それが一体何を意味するのか。


 互いに顔を見合わせ、同じ結論に至った確証を得ると勢いよく扉を開いた。

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