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147.王城攻略-下層Ⅱ

ブクマありがとうございます!

 ーーソコには異形の化物が佇んでいた。



 鉄格子を無数の手が掴み、暗闇に目が慣れていなければ無数の人間が手を突き出しているようにしか見えなかっただろう。しかし長期間地下に幽閉され目が慣れてしまった捕虜、闇を覗くことに長けている斥候。彼らの行く手を塞ぐように佇む物体をはっきりと直視できてしまったことが、彼らの不幸の始まりであった。


 巨大な肉塊は無数の人の手と頭を寄せ集めた姿であり、独房の中へ憎悪を注ぎ込むように入室者たちを眺めていた。その身には狭いはずの入り口に無理矢理身体をめり込ませ、やがて鉄格子を軋ませながら独房内に収まるとゆっくり3人の元へ這いよる。

 その様子をつぶさに観察し、ようやく危機感が全身に行き渡った時にはすでに手遅れであるように感じ取れた。異形の敵の動きは緩慢だが、腕一杯に広げたその体積は出入り口への道をほとんど塞いでしまっている。



 広げられた手と壁の隙間を観察し、壁際に化物を寄せることが出来ればかろうじて1人はすり抜けられることを理解する。少なくとも頭を抱えて震えている囚人とあともう1人が囮となれば、1人は確実に逃がすことが出来るはず。そして斥候の役目とは例え仲間を見捨てることになろうと、必ず情報を本部に持ち帰る事。仲間に視線を向け、言葉を交わすことなく静かに頷くと腰を完全に抜かした男を抱え込む。男は母国の人間が救助を寄越したのかと、仮面を被った正体不明の人物たちが化物から守ってくれるのかと思わず笑みが零れる。

 しかし細見からは想像できない腕力で持ち上げられ、一瞬で化物の手前に放り投げられたことでその思いも霧散する。絶望と死を目前にあらん限りの悲鳴を上げようとするも、反射的に向けられた無数の腕に全身を掴まれると同時に口も塞がれた。


 やがて人の物とは思えない軋みが男の身体の内側から響き、塞がれた口から呻き声とともに赤い液体が勢いよく零れだす。

 地獄のような光景が目の前に繰り広げられ、1度喉を鳴らすもすぐに決意を固めるとその隙に2人は首にかけていたロザリオを取り出した。そして少しずつくぐもっていく奇声を上げる囚人と肉塊に向け、牢獄に響くほど声を張り上げる。


「「我が御魂を守り給え!!」」


 その言葉に応えるようにロザリオが怪しく光だし、瞬く暇もなく2対の光の矢が部屋を駆け抜ける。狙い通り目の前の化物を見事に射抜き、同時に囮となって最大の足止め役として貢献を果たした男の身体にも2本の穴がぽっかり開いていた。大きく見開かれた目は焦点が合わず、最期に大きな痙攣を残して1度は某国の王子に君臨していた男はピクリとも動かなくなる。

 そして肝心のアンデッドも元王子と連動するように動きを止め、しばらく凝視していたがようやく互いに安堵のため息を吐きながら俯いた。



 ビクッ




 一瞬、動いた気配に即座に顔を上げるが先程と同じ姿勢で固定されている。気のせいか、そう思おうとすると同時に軋むように緩慢な動きで肉塊が再び動き出す。咄嗟にダガーを構えるが、生者である2人に接近する様子がないことに眉を吊り上げる。

 しかし無数の腕が救いを求めるように物言わぬ男へと差し伸べられ、やがて万力のように手足や頭を捻りあげると鮮血が迸るとともに根元から引きちぎられる。


 残された胴体はゴミ同然に地面に落下し、アンデッドはしばらく手にした戦利品を掲げていた。そして自らの肉塊に飾る様に押し付けるとまるで最初からソコにあったかのように吸収され、開いていた穴がみるみる塞がれていく。再び視線が2人に向けられたように感じると前進を開始した。




 ーーあんな死に方はしたくない。



 五体を引きちぎられ、あまつさえ醜悪な化物の一部になるなど決して許容できない最期。

 気付けば足が震え、誉れあるサンルナー教の斥候としての自身を侮蔑しながら徐々に迫ってくる肉塊を睨みつける。


 一瞬動きを止めることに成功はしたが、ロザリオの威力への期待はあまりできない。

 魔力の消費量から連発するわけにもいかず、かといって2人の実力では化物を突破できそうにない。互いに今1度ロザリオを強く握り、やがて手の内より光が漏れ出す。



「「我が御魂を守りし御身の加護、我が敵を滅ぼさんがための奇跡を!!」」



 互いの手を突き抜けるほどロザリオが光だし、同時に手の焦げる匂いがするとともに2つのロザリオが化物に向かって投擲される。防ぐでもなく、迫りくる光源に臆することなく化物はただ侵入者を捕えようとその手を伸ばす。



 そして光り輝く2対のロザリオが肉塊に触れた時、独房から完全に暗闇が消し飛んだ。

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