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137.決闘

「都市の方は大丈夫そうだね」


「ふふん!私とティアラたちが防護魔法を展開しているんだもの!!大丈夫に決まっているでしょ?」



 激しくぶつかり合う戦場の後方より投石が間を空けずに次々と放たれるも、防壁に触れる前に全て結界によって粉々に砕けていく。都市への損傷は報告を受けていなかったが、問題があるとすれば戦場の方であった。

 敵軍は決して倒れることなくアンデッドと相違がない様相で戦い続け、無限召喚を続けてはいるが倒されてから復帰するまでの僅かな時間に徐々に押され始めていた。しかし兵だけでなく、大将戦たるリロもまた敵将のもつ不可思議な武器に苦戦を強いられている。その様子を眺めていると同じく城壁に立っていたカヌカとスターチがチラリとリッチを見る。



「必要でしたら私たち魔術学院の責任者2人も出向きますよ?」


「…そこまでやる義理はないでしょうよ」


「いえ、俺たちの学院は今やリッチさんの姉妹都市。負けられても困ります」


「そりゃそうかい」


 シュエン王国すら滅ぼした最強とも思われた不死の軍の明らかな劣勢。


 しかしそれすら笑いながら流し、愉快そうに戦場を見下ろす不死王の姿を不思議そうに2人は眺める。その余裕はアンデッドとしてのおごりからくるものなのか、それとも奥の手があるのか。以前魔王軍を焼き尽くした巨人も地竜も使うつもりはないと豪語していたが、このような状況になってなお使う素振りを見せない。歯がゆい思いをしながら再び戦場に視線を戻すも、ふとリッチが続けた言葉によって思わず視線を戻す。



「敵の秘密の正体がわかったわ」


「…一体何ですか?」


「お前さんとこのお仲間にライラって子がいたろ?あの子が後方でずっとチートを使ってやがる。しかも味方全体に」



 その言葉に母を押しのけ、弾けるようにリッチの足元に辿り着くとその場でスターチが立ち尽くした。


「ど、どういうことですか!?彼女がそんな真似を…」


「目が虚ろだし、多分自分の意思じゃないだろうよ」


「…いますぐ彼女を止めてください……あんな使い方をしては彼女に負担がかかります!以前、仲間全体にかけてもらった時も倒れて数日意識を失っていました。このままでは彼女がっ!!」


「げっ、リロがやられた」


 スターチの言葉はしっかりと耳に届いているのか、予想していたものとは全く違う言葉が出てきたことに思わず顔をしかめる。しかし代わりに流れてくる言葉は勝利とは程遠いものであり、ライラどころではないことに気付くとすぐに彼の表情も崩れる。敵影も牛歩の速度ではあるが徐々に城壁へと迫ってきており、いかに強力な結界を張ろうと人を押しのけるだけの力はない。狂気に満ちた兵士たちが城内に流れ込めばどうなってしまうか考えたくもなかった。

 全員が不安そうに不死王を見つめるなか、仕方がないと言った様子で首を掻くと突然姿を消した。









「ふははははははっ!敵将を打ち取ったぞ!!残るは目の前の敗残兵と都市だけだ!皆の者、王を奪還す、るの……だ」



 勝利を確信し、高らかと頭上を見上げるもその表情も固まった。宙に青い靄が唐突に立ち昇り、生まれて初めて見る奇妙な光景に見入っていると中から幽体の化物が出現した。咄嗟に武器を構えるが、その姿を完全に視認するとすぐさま武器を下ろした。王冠や身に付けている数々の装飾品、すぐに真の敵将と理解すると切っ先を魔物に向けなおす。



「貴様が我が王を攫った首謀者だなっ!?我が名はっ…」


「いや、名前はもう聞いたからいいよ。俺はリッチ=ロード、よろしく。そんなことよりも面白い提案があるんだけど?」



 名乗りを強制的に中断され、怒りに我を忘れそうになるが男は笑いながらなだめてくることに調子を崩される。あまりの違和感につい士気を落としてしまうが、気付けば周囲の兵もアンデッドまでもが時間が止まったように制止していた。兵は異様な風体の敵将に言葉を失い、自国の将と敵将を交互に見つめる。

 戦場に似つかわしくない様子にやがて落ち着きを見せたヴァルマを確認するや、不死王が下降すると諭すようにゆっくりと彼に話しかける。



「俺はアンデッドの兵を無限召喚できる。君は倒れない兵士を持っている。このままじゃ埒が明かない…そうだろ?それに3日3晩戦おうなんて思っちゃいないでしょうよ?」


「例え何年かかろうと貴様を滅ぼしてくれる!!」


「……マジか。その熱心さは買うけどさ、ここは騎士らしくさっさと決着をつけるために一騎打ちと行かないかい?」


「…貴様とか?」


「いや、俺の部下。一番強いってわけじゃないけどもしソイツが負けたら俺の首でも何でも差し出そう。逆に君が負けたら俺の言うことを全て聞いてもらう。どうだい?腕に自信があるんだろ?」



 敵の提案に乗るべきか。アンデッドの魔物といえ、圧倒的な数の軍を保有し都市1つを支配する力をもつ敵将。しかし今は黒マントの人物による強力な支援、さらには悪を滅するために譲り受けた宝剣がある。

 しばらく考え込んでいたヴァルマであったが、やがてゆっくりとリッチに視線を向けると彼の提案に問いをかける。




「…私が一騎打ちに応じない場合は?」


「見てみるかい?」



 目の前に手を差し出すとそこから青い靄が立ち上り、青い水晶球を模り出されるとやがて水晶に栄えている都市が映し出された。子供が無邪気に笑い、商店は商売に今日も励んでいる。

 しかし王国として成り立つために何かが足りない。


 兵。


 そう、国を守るための兵が見当たらない。その国は何の因果か、兵が出払っているために完全無防備。今ゴブリンの群れにでも襲われれば一瞬で壊滅しかねない、その状態の都市が映し出されていた。



「これは…我がカンパネリ王国ではないか……貴様まさかっ」


「そういうこと。提案飲まないなら今すぐ帰るべき故郷を滅ぼしちゃうよ?」


「き、貴様っっ!!」


「どうする?このまま無駄に戦い続けている間に国が滅びるよ?君らの帰る場所はどこにあるんだろうねぇ~」


 

 血走った目をアンデッドの王に向けるも、しかし相手は意にも返さず意地悪そうにヴァルマを見下ろすだけ。彼の返答を辛抱強く待つつもりであったが、しかしすでに彼の中では答えは決まっていた。


「貴様の提案、受けてやろう…」


「おー、話が早くて助かるよ……とりあえず互いに全軍引かせようか」



 力強く、唇を噛み締めながら提案を引き受けると同時にヴァルマの号令によって兵は引きを収めると元の陣営へ困惑しながら戻っていく。アンデッド軍もまた防壁のそばまで移動し、両者の間には広々とした空間が残った。そこにはアンデッドの姿はどこにもないが、中には回復が間に合わずに息絶えた兵士の骸がそこかしこに倒れていた。



 その様子に再び唇を噛み締め、開けた空間に進み出るとリッチの手番を待つ。



 しかしそれほど待つこともなく、対面に青い靄が立ち上ると同時に巨大なアンデッドが召喚された。

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