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133.アウラタイム

ブクマありがとーございます!

 デートという名目で誘拐され、逃げ出す気が皆無であるにも関わらず逃がさないとばかりに腕にしっかり抱き付いている。しかしアウラの夫は常時浮遊しており、風船を抱きしめるような形になっているが当の本人は満足そうに寄り添っている。

 以前であれば羽根を掛け布団のように覆うことしか出来ず、サキュバスの姿だからこそ可能となったことで抱き寄せる腕にも力が入る。


 

 その様子に一言も苦言を申し立てまいと大人しくしていたが、、彼女の横を浮遊していると景色が少しずつ閑散とし始めていることに気付く。

 商店街にでも繰り出すのかと思いきや、時節アンデッドの巡回と遭遇することはあってもゴロツキがたむろするような路地裏を黙々と進んでいくことに疑問を抱く。



「…どこに行くの?」


「デート…なんだけど人がいるところだと2人でゆっくりできないでしょ?この辺は孤児院の子供たちに教えてもらったの」



 嬉しそうにリッチを引っ張っていく彼女の言葉がふいに記憶を刺激し、子供たちが秘密基地の如く楽しそうに走り回っていたのをアンデッドの視界で確認していたことを思い出す。人がいるところで遊ぶのは迷惑がかかるというグレンの教えをしっかり守っているようだ。

 彼らが元気に走っている姿を思い起こし、微笑んでいるとアウラが鼻唄を歌いながら歩調を速める。



 そのまま路地裏を進んでいき、嫌がらせのように入り組んだ道を進んでいくとやがて妖精の森の裏口へと辿りついた。

 誰とも遭遇せずに移動するための秘密の抜け道であり、こっそり妖精に会って子供たちが物々交換をするための取引現場でもあることを楽しそうにアウラは語る。



「随分とあの子たちと仲良くしているようだね」


「この姿だと前みたいに迷惑をかけることもないしね…それに最近あなた忙しそうだったし」



 そう言うと突然顔が曇りだし、先程の上機嫌な笑みが消える。


 最近は特に外交のためとハノワに引っ張り出だされ、たまに魔境へとリゲルドの補佐をしに出かけてしまう。忙しいのは分かっているため、なるべく邪魔をしないようにと自分を紛らわせるように商店街や妖精の森へ出かけるようになったが心のモヤモヤは一向に晴れない。溜息を吐きつつ、何の考えもなしに王城へと飛んでいると屋上にいたリッチの姿を確認した。そして気付けばアウラは彼の前に降臨し、反射的に掴んでしまったと懺悔するように話した。



「…寂しかったんか?」


「…うん」


 リッチの肩に頭を乗せ、互いに雲1つない青空を黙って見つめる。やがて風に乗って雲が空を覆う頃、ようやくリッチが口を開く。



「約束、破ってるのかな」


「ううん、破ってないわ。私が我儘言ってるだけだから」


「じゃあ今からアウラタイムに入ろうか。アウラは何がしたい?」


「アウラタイム?……じゃあ喧嘩してみたい!」


「…へっ?」


 頭を上げ、胸の前で両の拳を握りしめる彼女に思わず驚きの声を上げる。一瞬バトルでもしたいのかと焦ったが、そういうことではなかった。


 曰く、鍛冶屋の奥さんが頻繁に旦那と喧嘩をしているが別れたことはない。それが長い結婚生活の秘訣であり、たまに起きる衝突がいい刺激になる。その話を聞くと彼女は途端に不安を覚えた。いままで1度も喧嘩という喧嘩をしたことがない夫にいつか愛想を尽かされるのではないか、魔王種になってどれほど長生きできるかは知らないが生きている時間にまた1人になるのが何よりも怖かった。そもそも旦那を喰らってしまう種族として男女仲の仕組みに関しては一切分からなかったが、人間の生き方の楽しさを知った今では試さない理由がない。

 いままでの思いをまくし立てるようにリッチに言い聞かせると、本人は困惑しながらも状況を理解しようとする。



「…つまり夫婦仲が円満になるように俺と口喧嘩がしたいってこと?」


「そう!」


「ええけど何について?」


「………え~っと……む~」



 空を仰ぎながら目を固く瞑るが、何1つ思いつかない。考えてみればいままでの無茶振りに全て応えてもらい、いまさら文句を言うようなこともない。いや、きっと何かあるはず。カトレアたちや街の名を考える時以上に頭を使い、世界の真理が見えそうになった時に1つの結論が脳裏を走る。



「最近私に構ってくれなさすぎ!」


「…じゃあ、いつもみたいにベタベタくっつけばいいんじゃないかな?」


「……いいの?」


「何でダメなのさ?」


「…仕事の邪魔になるかと思って。街守ったり、街滅ぼしたり……リッチを連れて行こうとするとハノワが頭振って泣きついてくるし…」



 バツが悪そうに顔をしかめ、慎ましく俯いていると髪を梳くように頭を撫でる存在に気付く。顔を上げると穏やかな笑みを浮かべる夫がおり、久しぶりに撫でられたことを思い出しながら目を閉じて身体を完全に預けた。


「別に外交の席に一緒にいてもいいんだからね?俺は名目上は君主でも君臨する気はないんだから」


「…うん」


「ただ荒事があったら決して出向いたらダメだからね?子供たちもそうだけど、お前さんが傷つくのが一番嫌だから」


「それは無理」


「…無理なのか」





 森の裏口前、アンデッドとサキュバスの2人は空が星に覆われるまで語ることなくいつまでも寄り添い合っていた。




 その様子は背後からこっそりと眺めていた妖精たちが微笑ましそうに眺め、王城では外交疲れのハノワが悲鳴を上げながらリッチの帰還を待っていた。

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