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124.敵城攻略

「敵は王城へと侵入したようですね」


 窓辺から見下ろしていた景色には、ソスロとその配下たちの最期が映し出されていた。逃げることもなく、犬のように死んでいった彼らのことをどうとも思うことはなかったが腑に落ちない点があった。自身を含め、王座に間にいる誰もが恐怖に押しつぶされそうだというのに兵たちは一様に笑顔を顔に張り付けていた。絶望を目の前にしながら何故そのような表情を作れるのか理解し難かったが、城の微量の揺れとともに自身の終わりが近づいていることだけはハッキリと感じ取れた。

 すでに敵の到着を待つばかりのカヌカに向け、それでもなお助かる道を探る王は彼女を叱責する。


「何を呑気なことを言っておる!?すでに王城に入られたのだぞ、何とかせい!」


「カヌカ殿!お主の魔術でこの危機、乗り越えることはできないのか?」


「敵を蹴散らすのだ!!それでも誇りあるシュエン魔術学院の学長か!?」


「頼む!我らを逃がしてくれ!お主なら出来るであろう?」


 カヌカが解決する前提に無責任な発言が飛び交う中、我関せずとした表情で王城に雪崩れ込むアンデッドの軍勢に再び目を落とす。


 

 --本当はただ勉強がしたかった。




 魔術を開発するということはいままで誰も解くことができなかった真理に一歩近づくという事。その快感に耽るために研究を続けてきたが、気付けば実力を買われて学院長へと任命されていた。その地位により全ての望みが思うままとなり、やがて国や軍と連携したことで戦争のための道具へと成り果てた。

 ファムォーラへの都市攻撃にしても魔術師としての独占欲と傲慢さ、何よりもシュエン王国に求められた学院長としての戦術が仇になった。今回はそのツケを、国全体で盛大に払う羽目になっただけのこと。蠅のように小五月蠅い重鎮たちの激をよそに、とうとう締め切っていたはずのドアが壁から引き剥がされるようにして床に倒れ込む。そして不自然なまでの静寂が王座の間を包み込み、部屋の外にひしめくアンデッドの凶悪の視線に失禁する者まで発生した。



 …しかしいつまで経っても彼らは襲う気配もなければ、入室する動きも感じ取れない。王は一瞬、カヌカが結界の類でも張ったのかと笑顔で彼女に振り返るが疑惑に満ちたその表情から当てが外れたことを思い知る。


 やがて入り口の虚空に青い靄が密集し始め、何事かと全員の視線が一カ所に集中していると杖を持った男が姿を現す。王冠を被り、様々な装飾品に身を包んだ男は空中を漂いながら視線を泳がせているうちに1人の女性に目が止まる。それだけだというのにまるで心臓を握られたかのような圧迫感に息をすることも忘れ、しかし魔術学院にある膨大な資料の中から相手の正体が言葉になって漏れ出した。



「…不死王リッチ=ロード……」


「大正解!!ドーモ、シュエン王国の皆さん。古都ファムォーラの君主にしてアンデッドの王、リッチ=ロードDEATH」




 愉快そうに、しかし明らかに敵対している語調に部屋にいる者は全員すくみ上るほかなかった。その状況の中、誰一人として言葉を発することはなかったが再び不死王が意地悪そうに言葉を紡ぐ。



「お嬢さん、シュエン魔術学院の学院長とお見受けするけど…合ってる?」


「…もうお嬢さんという歳でもありませんが、貴方のおっしゃる通り学院長のカヌカと申します。とはいっても貴方の手勢に先程学院を滅ぼされてしまったようなので今は地位も何もありませんが……何故私が学院長と分かったので?」


「魂を視ればそれくらい分からぁ」



 目が赤く光り、魂が穢されたような感覚に思わず身を引くも不死王は逃がさないとばかりにさらに近付いてくる。その口から放たれる言葉は質問の数々であったが、今更隠すこともないと堪忍して全て正直に答えることにした。



「あの魔法陣、使ったのはお前さんか?」


「……そうです」


「魔族に伝わる魔術だってことは知っていたかい?」


「…薄々気付いていました」


「魔術を渡してきた[仲介人]の正体、知ってるか?」


「確証はありませんが、おおよその見当はつきます」


「へー、じゃあ誰か教えてもら…」




 教えてもらおうか、その言葉を言い終える前にここぞとばかりに王が大声で怒鳴り始めた。全てはカヌカの独断であり、王たる自身は全く預かり知らないものであったこと。その力と軍勢を見込んで新たな学院の創設と共にその長の座を務めないかなど、生き延びるために必死で様々な案を張り巡らすが男が一度睨んだだけで案山子のように動かなくなってしまった。明らかな溜息を吐くと再びカヌカに顔を向け、不必要ではあったものの先程の王の戯言の確認を行う。



「ちなみに独断だったの?」


「……魔術学院といえど王国の一角に過ぎません。私が提案したことは間違いありませんが、王やその相談役たちの承認なくして行えるものではありません」


「…だそうだよ?」



 その目が一層赤く光り、何とか取り入って命だけでも助けてもらおうと画策していた一同はもはや逃げ場がないことを悟る。外に待機するアンデッドに倣い、ただその場で立ち尽くすほかなかった。

気付けば総合ポイント200pt超えていました!

いままでブクマ評価して下さった方々、新たにブクマ評価して下さった方々に感謝で一杯です!今後ともUNDEADの行く末を見守って頂けると、書き手の励みになります!!

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