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119.報復

 魔術学院改めシュエン王国の奇襲、そして魔王軍の進行。



 歴史上ファムォーラはもっとも脅威に晒された国でありながらも、一部の流通網を除いて再び街には活気が戻っていた。さらに人間の間で密かに噂になっていた[最も安全な都市]の名も証明されたことにより、いままで以上に商売や生活に精を惜しまぬ日々が続いていた。

 その一部の流通網とは、かつての魔王軍最期の跡地を示していた。3日3晩の死闘の末、魔王軍大将デボンの最期の戦死場となった地。魔王軍を束ねていただけのことはあり、次々と迫るアンデッド魔王軍を返り討ちにしていたが所詮は[生者]。倒せども倒せども際限なく召喚され続ける魔物の群れに勝ち続けることは叶わず、最後には全身にあらゆる武器が突き立てられた状態で地面に倒れ伏していた。生き残った魔族たちはリゲルドと共に魔境へ帰還してもらったが、デボン含む魔王軍の成れの果ては全てリッチの傘下へと下ることになる。



 脅威を跳ねのけたのち、英雄として民に崇められることになると同時に襲撃の際にたまたま訪れていた冒険者たちまでもがこの国に移住したがるなど、ハノワにとっては嬉しい誤算が発生していた。新たな住民の受け入れや被害の確認を終え、ようやく感謝の意を伝えるためにリッチの元へ訪れることが出来た。


「リッチ様のおかげで皆無事に今日を生きることができました」


「俺は大したことしてないよ。礼ならアウラと結界張ったみんなに言いな」


「後ほど伺う所存です……しかしグレン殿から伺いましたが何故シュエン王国が我が国を攻撃対象にしたのでしょうか」


「自分たちの国以上に力を持ってんのが許せんのでしょ。あそこは昔からそういう所は変わらんよ」


「…シュエン王国をご存知なので?あの地は入国が大変厳しいと聞いておりますが」


「まぁね」




ーー貴様はまるで使えんな。防護魔法だと?ならせめて前線で盾にでもなってこい!




 必死に勉強し、ようやく覚えた魔法を役立たず扱い。挙句に何の訓練も知識もなしに国土を広げるためと戦地に放り出され、そして終わりを迎えたかつての不死王。前提として魔術を習得するためのスペックがそもそもなかったことを告げられ、女神たち、特に月花神を責めたくなるも今となっては遠い昔の話……


 しかし時を経てなお、かの国はリッチだけでなく彼の家族をも脅威に晒した。その事実に全身より青い靄が殺気立つかのように吹き出し始め、ハノワの必死の呼びかけによってハッと意識を現実に戻される。表情はいつも通りのものであったが、先程の緊張感をほぐすために無理矢理話題を変えようとする。


「シ、シュエン王国もですが式典に参加されなかった他の有力者たちもおりますし、まだ我々の都市を認知するつもりのない国もあるようですね…」


「安心しな。その件に関してはすでに手を打っている」


「へっ?」


 各国のギルドマスターから式典への不参加の通知を受けた時の落胆を思い出していたが、リッチの不意の一言に思わず顔を上げる。君主の目には炎のような赤が灯り、その目に映るものを全て焼き尽くすほどの意思が宿っていた。



 初めて明確に感じた[魔物]としてのリッチの姿に恐怖を覚えるも、彼は構わずにゆっくりと語る。




 魔法陣の襲撃に合わせるように侵攻した魔王軍。恐らく示し合わせて襲ってきたことは間違いないが、デボンが、そして何よりもあのシュエン魔術学院の面々が互いに手を組むとは思えない。ゆえに仲介を申し出た者がいるはず。


 荒れた魔王軍の最期の土地をニーシャたち妖精部隊に修復させたのち、回収したデボンの屍よりこれまでの情報を収集した。

 ・魔王が復活する遥か前、突如接触してきた者がいた

 ・魔術を行使して存在を誤魔化していたが、人間であることは間違いなかった

 ・その者から人間界のあらゆる情報を入手していた

 ・見返りに魔王軍ではもはや使える術者もいない魔術の数々を伝授した

 ・その内の1つの魔術が古都ファムォーラに用いられること


 このことから、仲介者がシュエン魔術学院と魔王軍を手玉に取っていたことは把握できた。その誰か、は知る術がなかったが[情報源]はまだあった。



「……おっ、やっと着いたな」


「はい?」


「じゃ、始めるとしようかな」


「……あの、何を始めるのでしょうか?」


 秘密裏に行っていた行動の数々を話していたかと思えば、まるで別の会話相手がいるかのように話し始める。しかし今応接室にいるのはハノワとリッチの2人のみ。恐らく他のアンデッドから何かしらの情報を得ているのだろうが、傍から見ていると奇抜な独り言にしか見えない。その後もしばらく情報を確認しながら多数の相手と会話を繰り広げていたが、一段落するまで口を出さないことにした。


 やがて一息をついたところで再び同様の質問を投げかけるが、視線を向けるとまるで全てが手の平に収まったように邪悪な笑みを浮かべていたことに嫌な予感を憶える。



「さっきの魔法陣のお礼、全力でお返しするのが礼儀ってもんだろ?」


「…何をされるので」






「シュエン王国改め、シュエン魔術学院を滅ぼすんさ」








 その頃、シュエン王国は緊急迎撃態勢をとるために慌ただしく動き回っていた。先程まで何もなかったはずの荒れ地に突如出現した、地面を覆い尽くすほどのアンデッドの軍勢が不気味に揺れながら向かってきていた。

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