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114.陥落への切望

次話投稿中に話の流れから本話を後ろに移動させるのが自然と思い、移動させて頂きました。2016年9月8日時点の新規投稿は109話、110話となりますため、お手数ですが何卒宜しくお願い致します。

内容が前後するようなことはありませんが、話数変更など度々ご不便をおかけしております。


今後とも本作をお楽しみ頂けたら幸いです。

 ~シュエン魔術学院~



「これは見捨て置けませんね」


「御意」



 人類の繁栄においてもっとも魔術に秀でた国であり、そして魔術の普及に貢献してその地位を確立させた[シュエン魔術学院]。過去にも魔術学院より飛び出し、他国にて魔術を教えた者もいたが、主要な魔導知識のほとんどを独占することで他国に脅かされる恐れもなかった。

 そして王とは名ばかりに、実際の政策や軍事は全て魔術学院長が任命されていた。



 シュエン王国の力の象徴でもあるシュエン魔術学院のその最上階。学長室にて2人の人物が部屋の明かりも灯さずに机越しに会話を繰り広げていた。



「息子の報告から察するに、古都ファムォーラは我が国にすら脅威を及ぼせるまでに成長しつつあります。早急に対処する必要があります」


「左様でございますね」


 彼女が発する全ての言葉を肯定し続ける相手は黒マントに身を包み、くぐもった声のため性別すら把握することが出来ない。しかしそれでもドス黒い付き合いを長年築き上げ、重要な情報を授けていく相手を利用することでその存在を受け入れていた。

 彼女は迷いなく、相手に自らの思いのたけをぶつける。


「我らの都市は魔術を活かせる戦乱があってこそ繁栄出来たのです。あの魔物がどのような手を使ったかはいまだ理解できませんが難民を受け入れ、あまつさえ平和を築こうなど決して許せません」


「ご子息様も魔物に洗脳されておりましたし、一刻の猶予もございません」


「…しかし新たな魔術の提供、重ね重ね感謝申し上げますが貴方の目的は一体何なのですか?」



 何度目とも分からぬ同じ質問。いままでも他国よりも優位に立つために何度も存在すらしらぬ魔術を提供されたが、立場が危うくなるような取引を持ち掛けられたこともない。シュエン王国の勝利によって利益を得ていることだけは確かであったが、その事実がベールに覆い隠されていることに不愉快な思いはあった。

 だがここで意地を張り、他国に行かれてはまずい。それでも聞かずにはいられない質問に相手はいつもの返答をするだけ。



「全ては世界の秩序のため、ですよ」



 それ以上言及されないためか、そそくさと退出すると部屋に残された学院長は先程授けられた魔導書を片手に見つめていた。我が息子スターチの報告を受け、ファムォーラの殲滅を宣言するも邪魔をしようとし、数日の交戦の末ようやく幽閉することに成功した。捕える際に盛大に抵抗されたことは言わずもがな。しかし流石に母に手を出すことを躊躇ったのか、手加減してくれたことで部下に捕縛されてしまった。



「…腐っても勇者、か」


 誰もいない部屋で1人呟き、返答があるわけでもなく深いため息を吐く。

 だが今は勇者騒動よりも問題は授けられた知識。これまでも多くの知識を提供してもらうかわりに、有望な生徒を相手に斡旋したり情報提供をしたりもした。相変わらず明確な目的は分からないが、それでも過去に何度か滅びかけたシュエン王国を延命させ、こうして今も憎きファムォーラを滅ぼすための力を授けてくれた。考えることは山ほどあるが、相手が出現するタイミングはいつだってその余裕をそぎ落とす時にある。


 魔導書の複雑な術式に眩暈を覚え、早速準備に取り掛かるべく部下を呼び寄せる。必ず相手の目的を白日の下にさらすことを誓うも、まずは目先の都市を滅ぼす計画を優先する。








 ~魔境~



「魔王様は一体何を考えておられるんだ!」


 怒りに任せて机を殴る巨漢の魔族を含め、円卓を囲む者たちは同様の思いを募らせて殺気を滲ませている。「魔王軍は解散!余は魔境をより良い場所にするためのべんきょーでしばらく外泊する!!」

 そう言い残し、デモンゴと共にあっという間に姿を消してしまった。


[人間の殲滅、そして全大陸の支配]


 先代魔王、そして全魔族の悲願。

 それをあっさりと捨て、挙句の果てに魔境まで去ってしまった現魔王に不満を抱かない者は大勢いた。


「人間が勢力を伸ばしている今だからこそ、魔王様の存在が重要だというに!」


「しかしどうする?魔王様が不在の今、我らの存在意義が…」


 魔王復活に伴って収集された魔王軍であったが、王なき軍勢に果たしてどのような意義があるのか。すでに王は人間の殲滅すら視野に入れておらず、魔将たちには正式に解散を申し付けている。下手に情報を流せば兵の士気にも関わり、万が一人間がこの状況で攻め込まれれば恐らく混乱の内に魔境が滅びる可能性もある。

 かといって魔王リゲルドに魔王軍を再建させ、自らの立場を再認識させることができるだけの人材もいない。彼が受肉する以前に彼によって全員すでに灰にされてしまっている。


 先行きの見えない魔境にざわめくなか、デボンは手を叩いて彼らを落ち着かせると一身に全ての視線を受け止める。


「安心しろ。すでに手は打ってある」


 デモンゴが完全にリゲルドの世話役に徹する前に受けた最後の報告。ファムォーラという国に魔王が滞在していることは確認済み。同時に魔王を惑わし、かつて魔王軍に引き入れようとした忌まわしきアンデッドがその地を支配している情報も入手している。

 予想もしえない形で魔王軍を瓦解させた者の存在は憎んでも憎み切れないが、それでも冷静さを保てるだけの理由があった。とある情報筋から都市に凄惨な攻撃が加えられようとしていることを知り、そこに魔王軍が総力を挙げて追撃すれば都市を完全に焦土にすることができる。


 

 あの都市がなくなり、魔王軍の圧倒的な火力を目の当たりにすれば魔王もきっと目を覚ますはず。それでもなお、魔族の王としての自覚を持つ気がないのであれば……



「都市ごと奴を滅ぼし、私が王の座に…」



 最後の呟きはすでに魔王軍を動かす話によって活気だった幹部たちの声に掻き消され、誰に聞かれるでもなくデボンの脳裏にはこの世界に君臨する自身の姿が神々しく焼き付けられていた。

 これまでにない英気を得た幹部たちは即座に会議室を抜け、魔王軍の各隊に戦場の旗揚げを告げるために足早に去っていった。

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