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11.継続可否

 静まり返った森の中、仲間内でしばしの沈黙が流れたがやがてそれを打ち破る様にティアラが鋭く言葉を発する。


「悪いが私は今回の依頼は降りた方がいいと思っている」


「…おいおいおい、臆病風にでも吹かれたか?こんだけ体力温存できてんだから何が出てきても余裕だろ」


「そうよ、大体仕事内容だって新人の束を連れたベテランがこの辺で行方不明になったから探せってだけでしょ?どうせ新人に足引っ張られてヘマしたんだよ」


 3人の不安を意にも返さないようにミネアとボルトスは楽観的な言葉を返すが、相変わらずアミルたちの顔は曇ったままであった。その様子にミネアが噛みつくようにミフネを見つめるが、視線を受けたミフネは顔を伏せてしまったためにティアラが彼女を代弁するように話し始める。


「…体力温存できるほど何も出てこないのがおかしいと言っているんだ。かなり奥まで進んだが生き物と一切出くわさず、かといってそれらの死骸もここまで全く見なかった……それにここは…」


「ん?どうしたんだよ?」


「…ここ…昔アンデッドの……」


「そう、前に討伐したアンデッドの集団と出くわしたのもこの辺りなんだよ」


「だから何が言いたいの?」


「……死霊術の箱庭…」


 もともと静かな森であったが、沈黙がより一層周囲に流れる。[死霊術の箱庭]、物語に出てくる悪霊が次々と死へと誘う子供たちを戒めるために作られたお伽噺。しかし発言したミフネ本人も心なしか顔が青くなっており、当時の恐怖を思い出したように自らの身体を抱き留める。

 死と痛みを知らない魔物の集団、まるで物語に出てくるような出で立ちに当時討伐をする時に何度も失神しそうになったのを堪えた覚えがあった。そんな彼女を眺めていたミネアはミフネの元へと歩み寄り、額を軽く手の平で叩く。


「…痛い」


「ば、バカじゃないの?あんなお伽噺まだ信じてんの!?あれは夜出歩いたりしないように子供に言い聞かせるもんでしょ?小さい頃探しに行ったけどそんなもん何処にもいなかったわよ!」


「お前マジで探しに行ったのか!?すげぇ…」


 フフンと胸を張っているミネアを感心したようにボルトスは見ており、アミルは2人のやり取りにほくそ笑んでいたがすぐに神妙な表情を取り戻す。彼らのように楽観的になれればどれほど楽かと何度も思ったが、むしろ臆病な方だと自負しているからこそいままでも綿密な戦術を練って今日まで生き延びてきた。冒険者としても評価され、[行方不明者の捜索]といった大役を任されるまでに成長した。

 その慎重さを引き金に、記憶の引き出しを開けながら2つに分かれたパーティの方針を検証する方法を模索する。



「…死霊術は使用する本人も魂が朽ち、やがて生きたまま灰になる。昔は死霊術部隊を編成してアンデッドの軍を使役したそうだけどその副作用で一夜にして名のある国も滅んだ記録がある。ゆえに禁術とされ、人間はおろか魔族まで使っているところを目撃された例がない」


「もうアンデッドなのは確定なの?それはそれでさっさと排除できるでしょ?前にあたしらの手にかかって5秒と立たずに殲滅できたし」


「……私は降りたい…」


 ミフネの声はとても小さいものであったが、それでも静かな森の中では十分彼女の声がパーティに響き渡った。その言葉を聞き、憤慨したようにミネアとボルトスが彼女の弱音を責め立て始める。詰め寄りそうになる彼らをティアラとアミルが間に割って入り、ミフネは隠れようとするかのように帽子を深くかぶってしまう。。


「待て待て、仲間の意見は尊重するもんだ!お前らもこの前川に流されて風邪引いた時はしばらく依頼も受けなかっただろ!」


「「それとこれは別!!」」


「…アミル、馬鹿2人は放っておけ。それでどうする?正直私はミフネの案に賛成だがお前の意見が私達の指針だ」


 ティアラの余計な一言に噛みつく2人を放置し、ミフネをなだめるように帽子越しに頭を撫でながらアミルは熟考する。根拠が明確にあるわけではないが、気配察知を普段から任せている2人がここまで危険視するとなれば命に関わる可能性もある。アミルも彼女たちが察していることを敏感に察知しており、いますぐギルドに引き返して手練れを引き連れてくることもできる。

 しかしそれは原因も分からない不安を持ち帰り、応援として連れてきた冒険者仲間を更なる危険に晒すことにもなる。だからこそ……


「だからこそ俺らが行くべきだろう。捜索とはいえ、何の情報も持たずに引き返しては次に誰かが来る時にカモ撃ちになる危険性がある。原因が分かり次第速やかに撤収する」


 一息でそう言うと2人は諦めたように納得し、残る2人は出番がないことに文句を垂れていた。休憩しすぎたか、そう言って苦笑すると準備を整えすぐさま出発した。先程と同じ隊列をなし、一行はゆっくりと更なる森の闇へと溶け込んでいった。

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