108.冒険者のその後
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知人の息子が実は娘であったことが信じられず、本人の意思を無視して舐め回すように観察する。冒険者の無骨な服装により体型を把握することは出来ないが、耳は心なしかティアラの物より短い。中性的な顔からも判断が出来ず、ティアラに訊ねるように視線を向けると彼女はすぐに横を向いてしまう。口をきつく結んでいたが、僅かな綻びを見せるとボソっと呟くように告げる。
「……胸…」
「むね?」
「…胸が……エルフの里の女性よりも僅かばかりに大きい…」
その言葉に全員の視線がフィントの胸に注がれ、彼女は羞恥から腕で胸を隠そうとするが服の上からでは隠す必要があるか分からない程の差異。しばらく無言で眺めていたが、嘘を吐くような事柄でもないことを考えれば議題にあげるような内容でもない。自らの胸を溜息を吐きながら触れているティアラに視線を戻すと彼女は慌てて手をどける。
「アミルの血かね?」
「…恐らくな」
「別に胸が小さいことは悪いことじゃないだろうよ。なぁクルス?」
「何故僕に振るのですか父上!?」
突然話を振られたこの場唯一の生ける男は突然の出来事に赤面しながら慌てる。女性陣は[答え]を待つかのように自然と彼を注視するが、女性に関する話題は恐ろしいことを女所帯である我が家ですでに経験済み。後ずさりながら引き攣った笑顔で答えようとする。
「じょ、女性はありのままの姿が一番いいかと思いますが…」
答えを違えれば[死]、その一語が頭を駆け抜ける。その場合父親にアンデッドとして復活してもらえるかどうか、滝のような汗が背中を流れていくが予想外にもその答えを気に入ったリウムたちが押し潰すようにクルスにたかっていく。その様子を微笑ましそうに見ていたリッチはそろそろ本題に入ろうと、腕を組んでクルスの言葉に何度も頷いているティアラに話しかける。
「じゃあフィントちゃんはエルフの里を子供たちに案内してくれないかな?」
「えっ、お父様?」
「…フィント、宜しく頼む」
「……分かりました。お前たち、俺についてこい」
渋々家を後にする彼……彼女に急いでついていくクルスたちは一瞬リッチの方を残念そうに見ているが、笑顔で手を振ってやると笑顔でフィントの後についていく。
「…それで、ティアラのその後の話は?」
「子供たちを追い出してまで聞くことか?」
「何か恥ずかしがってたから出払ってもらったんだけどな…」
「相変わらず気が抜けるようなお節介が好きなのだな…先程も言ったが面白い話などないぞ?」
リッチと別れたのち、アミルと生涯を誓ったティアラは一度エルフの里へ彼を招待した。外界に興味をさしてもたないエルフたちはとくに彼の滞在を嫌がることもなく、当時の長も同様に彼の存在を認めると里の奥に家を建てることを許した。
本来であれば木の上に建てるのがエルフの風習であったがアミルが不便さを訴え、仕方なく石造りの家へと変更した。その後、家作りを終えて一息を入れる暇もなく、すぐさま[絵本制作]のためにカンジュラへと向かった。
道すがら大筋は話し終え、再びカンジュラを訪れた時にはすでに30年もの時間が流れていた。
悲壮と再会の喜びに出会えたかつての仲間たち、ミネア、ボルトス、ミフネ。ミネアとボルトスの結婚には大変驚かされたが、ミフネが魔術学院の教鞭についていたことにも驚かされ、彼らもまた歳をほとんどとっていないアミルの姿に絶句していた。
訪れるのがあまりにも遅すぎると叱責されたがそれでも快く迎え入れられ、彼らのこれまでの話、さらにはセシル王女やフェリペ王とも出会い、彼らの子供に囲まれながらティアラは絵本の相談を持ち掛けた。
かつてこの都市と王を、彼ら冒険者の今を、曲がりなりにも結びつけたとある[魔術師]へのせめてもの手向けと、皆自腹を切ってまで資金の援助や協力を惜しまなかった。それから絵本[蒼の伝説]は永い時を経てカンジュラに広まり、王家お墨付きの出版物として世に出回った。出来栄えに満足し、涙の別れを告げると2人はエルフの里へと戻ることになる。
そして外界も激しく変わり行き、時間の法則が乱れているエルフの里での終わりを迎えたアミルは最後に幸せであったことを伝え、この世を去った。
「ハネムーンは随分楽しんだようだね」
「私たちの精一杯の頑張りを伝えた感想がソレか」
「…いや、とっても嬉しいよ。ありがとう」
「…ふんっ……どういたしまして」
聞き慣れない感謝の言葉に顔を赤らめ、不器用ながらも返答をするティアラに思わず苦笑する。彼女らなりにこの血塗れた世界を逞しく、そして幸福のうちにかつての転生者仲間が生きられたことを知ると満足を覚える。
しかし、いくつか腑に落ちないことがあった。
「よく俺があの城の主だってわかったね」
「ふふ、魔物の城主が招待状を出すという噂から考えられるのがお前だけだったというだけの話だ」
「それもそうかね…外とココでは時間の流れが違うって聞いたけど3000年は経ってるわけだ。ティアラは何故まだ生きていられるんだい?」
「……私が魔族であると言えばお前は信じるか?」




