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106.エルフの里

「…お前たちは本当に強いんだな」



 リッチの有無を言わさぬ命令に近いお願いに、仕方なくその子供たちを同行させることになったわけだが決して甘味で買収されたわけではない……しかし…


 クルス、クロナ、リウム、アニス、カトレア。

 双子の兄妹とハーピーの三姉妹。いずれもあの男の子供たちであるらしいが、アンデッドが子を成すことなどできるのであろうか。視線に気付かれないよう、最新の注意を払って世にも奇妙な兄妹を隙を見計らって盗み見ようとするが、その機会も戦闘によって十分に垣間見ることができた。


 風魔法や接近戦を巧みに駆使し、俺でさえ命懸けで渡った森林地帯もあっさりと駆け抜けていく。1人1人観察していればわかる。人数ではなく、個々がこの一帯の魔物よりも、恐らく俺よりも…強い。エルフの里一番の戦士たる俺は果たしてこいつらを連れ帰ってもいいのだろうか。疑問が疑問を呼ぶが、もっとも気になっていたことを苛立ちながら聞いてしまう。


「本当にあの男は君たちがいるところならばどこでも来れるのだろうな?」


「僕たちも知らなかったのですが…このネックレスがあれば何処にでも父上は自らを召喚できるそうです」



 2人の巣立ちの時、渡されたネックレスには万が一に備えてリッチが駆けつけられるよう中央の飾りに死者の喉仏が埋め込まれていたことをつい最近知らされた。その言葉に思わず引きそうになるが、父親を近くに感じると喜ぶクロナたちの反応を見ていると気味悪がるにも気味悪がれない。ぎこちない笑顔で答えたが、俺の真意が伝わってしまわないか不安であった。しかし彼女たちは気分を害する様子もなく、ほっとしているとハーピーたちが話しかけてくる。



「ところで~えるふのさとってどこにあるの~?」


「結構、移動、して、る、よね」




 食糧は現地調達で十分だと豪語するクルスたちに非常食を無理矢理持たせ、早々に出発した彼らは魔境に向かって西へとひたすら向かっていた。魔境に近付くほど魔物も凶悪になっていくが、彼らからすれば食糧にしか見えていないという、狩られる側にとっては恐ろしいことになっていた。俺にとっても死ぬ思いでかいくぐってきた苦労が一瞬で水の泡になる思いだ。


「リゲルドが魔王軍抑えてるらしいし、この辺は随分安全なんだね」


「……安全、ね…エルフの里はこの森の奥にある」



 快進撃を繰り返す彼らに護衛される形で住処に向かっていることに恥辱を感じながらも、薄暗い森の中を進んでいく。リッチがかつて支配していた森とは段違いの平穏を維持しており、魔境に近付いていながら場違いな光陽が周囲を満たし、動物がチラホラと姿を現し始めると徐々に魔物の姿も見えなくなっていく。



「可愛い動物さんたちがいますね」


「…食べちゃダメ~?」


「駄目だ。里はもう少しだ」




 他種族を里へと呼び込むのはエルフの歴史を紐解いてもこれで2度目、時間軸が遥かに違う俺の故郷は一度踏み入れれば外の世界ではかなりの時が過ぎる。ゆえに誰も招き入れることはせず、エルフの里を実際見た人間など1人もいない。


 …少なくともそれがいままでの内情であった。



「うわ、何ですかあれは?」


「光っ、て、る」



 周囲に自然と木が佇んでいる中、1本だけ仄白く光る木がまるで木々の王とでもいうかのように堂々と立っていた。神秘的な光景に見惚れていることも構わず、フィントは迷わず光る木へとズンズン向かっていく。


「ほら、グズグズせずに行くぞ」


 そのまま躊躇なく真っ直ぐ木へと向かっていくと、まるで水面に飲み込まれるように波紋が広がるとフィントの姿は掻き消えていた。唖然としてその様子を窺っていたクロナたちであったが、現実に引き戻されるとクルスはすぐにフィントの後を追った。


「あ、待ってください!」


「お兄様!」


「「「やっほ~い!」」」



 神々しさのへったくれもなく、飛び込むように次々と光の渦へと入っていくと先程までの大所帯はあっという間に世界から姿を消した。











「…うわっ」



 先程までは確かに森に囲まれていたはずであった。光に包まれ、眩しさから腕や羽根でそれぞれ目を瞬時に覆い隠す。しかし少しずつ視力が回復し、ぼやけた映像が鮮明になり始めた時…



「そこを動くな」


 …かわりに木の棒を突き付ける複数のエルフたちに5人は囲まれていた。その先にはフィントが立っており、冷たい目で彼女らを見つめている。


「ここは俺たちの住処だ。大人しくついてこい」



 敵意に晒され、カトレアたちが牙をむき出しにするが、何とか3姉妹を制するといつでも戦闘態勢に入れる状態を維持しながら黙ってフィントの後をついていく。道すがら、多くのエルフが不安そうに珍しい客人を遠目に眺めているが、クルスたちも先程の不快感はとうに消え、もの珍しそうに周囲を観察する。

 草原が一帯に生えており、木の上には枝を組み合わせたような家が立ち並んでいる。ハーピーならともかく、家は地面に建つ物と認識しているクロナたちにとって新鮮な光景であった。もっとも彼女らもかつてはアトランティス大陸でもっとも高い山に住んでいた時期もあったわけだが。





 やがて木々も家も数が減ると、一軒の簡素な石造りの家に辿り着く。

 ファムォーラでも見るような建造物に一瞬唖然とするが、入り口へと近付いて行くと強い口調で止まるように命じられる。



「長を呼んでくる。大人しくしていろ」



 勝ち誇ったようにフィントは建物の中へと入っていき、不満に思いながらもクルスやクロナの指示に従う3姉妹であったが、その時間も1つの怒声によって一瞬で終わりを迎える。



「何をしているのだーーー!!!」



 轟音と共に建物からフィントが弾き飛ばされ、咄嗟にクルスが囲まれていることも厭わずに抱き留める。弱弱しいうめき声を上げているが意識ははっきりしているらしく、うっすらと目を開きながら先程までいた家を見る。



「客人は丁重にもてなせとあれ…ほど」



 家の中から出てきたエルフは優雅に髪を腰まで伸ばし、これまでに見たエルフたちがまとっている茶色の布とは違い、白いドレスを着こなした絵にかいたような美しい女性であった。しかしその女性が同族のエルフを吹き飛ばしたことは事実であり、何が起きているのか理解をしようとするが、その前に彼女がクルスたちの前に不思議そうに進み出る。




「…あなたたちは一体、どなた?」

最近色々と本作の修正などで奔走していましたが、やっと一段落つきました。

思い付きで始めた小説ではありますがその分、話数の設定や内容の簡素さが目についたので思い切って修正してみました……全80部に手を出したことに後悔しそうでしたがブクマの数だけ頑張れました。

本作を読まれている方々には大変お騒がせしております。


これより通常運行に戻る予定ですので、これからもUNDEADを読んで頂ければ幸いです!

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