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104.旧知の訪問

戴冠式も無事に終えた[古都ファムォーラ]に冒険者や商人が足繁く通うなか、勇者としての責務から解放された旨を伝える為に勇者一行はそれぞれの故郷へと戻っていく。リオンやガイアたちは戴冠式当日に来ていたそれぞれの王や王女に報告したが、今後について話し合うためにいずれも故郷へと戻ることにした。

 一方でリゲルドはデモンゴと共に魔王城へと戻り、正式に魔王軍を解体するためにデボンと話をつけに行く。何かあればいつでも頼るように伝えたが、余にお任せ下さい!と鼻息を荒くして去っていった。




 戴冠式は確かに無事終わった。出来れば誰にも邪魔されず、空でも仰ぎながらゆっくりと宙を漂っていたい。しかし祭りの後始末は魔物の討伐の数倍は大変なものになってしまった。

 不死王によって問答無用で捕えられた王族貴族を返還せよとの問い合わせを連日受けるも、[ルールはあらかじめ明確に伝えたはず]と押し返して大半は黙らせることに成功する。それでも宣戦布告染みた封書も受け取ったが悉く無視し、繰り返し送り込まれる間者も捕縛されてはアンデッド化する。


 クレーム処理の対応には辟易するも、ファムォーラ固有の[徴兵制度]がうまく機能していることに人知れず満足していた不死王はしかし、もう1つ個人的な問題が残されていた。



「…王冠脱ぎたい」



 ネックレスは死んでも外す気はなかったが、全ての指にはめられている指輪も含めて外してしまいたい。生前、ネクタイや腕時計を決して身に着けなかった身としては重苦しいことこの上なかった。そのうえ式典後にクルスたちからカンジュラ土産に鳥と鼠が彫られた腕輪を複数渡され、まるで手枷のように両腕にはめている始末。


 アウラも足輪としてお揃いの物を身に着けており、こちらも決して外すわけにはいかない。



「なぁ、本当に王冠と指輪外しちゃダメなんかね?」


「王冠は我らが王として、さらには古都ファムォーラの君主としての象徴です。指輪は…我らがこの姿になるまで私含め、9名の幹部たちによって身に着けていた我らの祈りが込められております。御見苦しいものと存じますが、我らがリッチ様と共にいることを象徴するために…何卒お願い致します」


「……事前説明もなしにそんな重い物渡すなよ…」



 不満はありながらも複数の思い入れのある装飾品を重ねて渡され、外すに外せない現状を受け入れるしかないと深いため息を吐く。その反応に小さな笑い声を上げたグレンを睨みつけると、

深いお辞儀をしながらグレンは王座の間を去っていった。

 宙で頬杖をつき、ふともう1つ手渡された装飾品の存在を思い出す。



「…そういやこの杖も邪魔だな」



 [クフーシカの聖杖]。サンルナー教の創設者の持ち物であり、光魔法を使うことが可能となったがいずれにしても攻撃の類は一切できないとグレンから判決のように言い渡されている。守られているばかりではなく、少しは戦える君主として渡された際には大いに期待していたが現実は非情である。

 やがて現実逃避をしているとハノワからそろそろ戻るようにと呼び出しを受け、再びため息を吐くと渋々王座の間へと転移した。








 アウラはリウムたちやクルスたちを引き連れて久々の狩りに出かけたが、[お父さん]は仕事があるため留守番をさせられている。

 王族関連の対応がメインであり、いい歳をここうがこいてなかろうが[クソガキ]だと判断できる者は速やかにアンデッド化していた。しかしなかには真摯に反省して牢の隅で怯えている者もおり、ソレの回収に来た外交官たちとの交渉をハノワと共に行っている。

 まるでやる気のでない流れ作業であったが、不死王の威厳を醸すために飾られた甲冑のようにそばで立っているリロはたまったものではないだろう。面倒事に巻き込んでしまったことへの労いをかけるべく、真剣に話し合っているハノワと特使をよそにリロにそれとなく話しかける。



「何かすまんね、面倒事に巻き込んじまって」


「我が主のそばに仕えることがもっとも至福の時ですので」


「えっと…ありがとう?」


「とんでもありません!」



 誇らしく仁王立ちする姿は騎士としてまさに壮観ではあったが、時節ハノワが彼女に熱い視線をチラチラと職務の合間に送っている姿を見るのも楽しい物があった。重要な国交を聞き流し、2人の反応を見ながら時が過ぎるのを待っていると部下の目に不思議な者が移る。



「なんじゃこりゃ?」



 交渉中にも関わらず思わず素っ頓狂な声を上げてしまい、客人であるどこぞの国の王妃が青ざめた顔でこちらを見ている。恐らく交換条件が気に食わないと勘違いされたのだろう。今にも気絶しそうな彼女に何事もない旨を伝え、引き続き交渉を再開させるがもはや心は部下の視点に集中されていた。

 不思議な者は王城に向かってはいるようだが、周囲の出店に心を奪われまいと葛藤しながら歩いている様が容易に視認できる。



 仕方なく部下を差し向け、その者の前を立ち塞がる。



<見たことない魂してるね。この街には何か用かな?>



 悪意は感じられない、が警戒はしている。話しかけると同時に軽く身構えてはいたがアンデッドに敵意がないことを察したのか、ゆっくりと姿勢を正す。



「怪しい者…ではないつもりだ。不死王とやらに話がある」


<俺に?>


「…お前が不死王なのか?」



 警備にあたっていた一般兵の姿をしたアンデッドを隅々まで見ながら不思議そうにしていたが、業務中であったこともお構いなしにその者の前へと転移する。我儘王子の返還を求める王妃の相手をするよりもこちらの対応の方が俄然面白そうであった。













 何だこの歪な怪物は?

 俺が最初に奴と出会った時の第一印象だった。



「よっ!」


 先程話しかけてきたアンデッドと全く同じ声の男が突然目の前に現れた。陽気そうに現れた男は宙に浮き、豪華そうな装飾品に身を包んでいるが不可解な見た目に騙されることはない。

 明らかに危険だ。




「俺に用事があるんでしょう?」



 表情は出さないように努めているが、全身から流れる滝のような汗が努力を水の泡にしている。しかしこれは初めて遂行する使命。歯を食いしばりながら何とか目の前の怪物と向き合う。


「俺は…エルフ族一の戦士フィントだ。お初目にかかる」


「へ~エルフか、道理で魂が…。俺は不死王リッチ=ロード、古都ファムォーラの君主でもあるよ」


「……そうか」


「あ、リッチ様!戴冠式お疲れ様でした!」


「リッチ様!装飾品素晴らしいですね!」


「りっちさま~!死んだおじいちゃんもっと強そうにできないの~?」



 緊張感を知ってか知らずか、俺の会話を一切気にする素振りも見せずに周囲の人々が怪物に気さくに話しかけている。その男は手を振りながら愛想笑いで返しているが、こいつらは洗脳でもされているのか?


「で、用事ってのは?」


 一通り町民との交流を終えると再び俺を見据えている。舐められているのか、それとも敵だと思われていないのか、先程から無警戒で相手にされているのが無性に癪に障る。




「え、エルフの里の長がお呼びだ!今すぐ俺について来い!」


 緊張もあってのことたが、思わず高圧的に出てしまったことに後悔する。自らの失言に血の気が引き、気付けばいつでも剣を抜けるように身構えていたことにすら気付かなかった。相手の機嫌を損ねれば何が起きるか分かったものではない。少なくとも長は奴と決して敵対するなと強く念押しされている。

 もはや流れる汗もなくなり、しばらく考え込んでいる相手の動きを観察していると不意に頭を上げて俺の目を真っ直ぐに見てきた。 



「……エルフの里ってまだあるの!?」



 しかしそこには敵意の欠片もなく、子供のように目を輝かせながら尋ね返されることは全く予想していなかった。



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