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101.種明かし

「素晴らしい国ですわね!」



 周囲の王族から集まる目を気にすることなく飛び跳ねるように奇声をあげる王女を前に、遥か昔に救った某お姫様の記憶が沸き起こる。彼女の遺伝子はしっかりと後世まで伝わっているのだと眺めていると、彼女は手を合わせて言葉を続けた。


「こちらの国旗ですが[蒼い羽根と鎌]を基調とされているのですね!こちらにはどういった意味が?」


「空飛んでたハーピーが、まぁ俺の嫁なんだけどこの国の守護鳥なんだとさ。鎌は死神、ようはアンデッドを現してるんだとか。市民に任せたらあんな感じに仕上がった」


「まぁ!空を舞うハーピーの姿にも感動させられましたがそういったご関係で!我が国では蒼い鳥と夢幻のねずみを記しているのですが…[蒼の伝説]をご存知でしょうか?」


「よーく存じ上げているよ」



 むしろシナリオを書き上げた元凶の1人だよ、と心中で毒づいているとおずおずと上目遣いで問いかけてくる。



「あの……リッチ=ロード様は永い時をその身に刻まれているのだと思いますが…もしかしたらこのお話を実際その目で見られたり…していたりなんかは」



 いきなり核心をつかれ、一瞬身体を硬直させる。果たしてこの娘に対して話していいものなのだろうか、不死王の黒歴史を……悩みに悩んだ末、むしろ伝えた後の反応を知ることに彼の好奇心はあっさりと苦悩を上回った。


「そのお伽噺の役者の1人だと言えばお嬢ちゃんは信じるかい?」


「役者…とは?」




 本人もいい加減語り飽きた、しかし話すたびに切れ味も増すかつての冒険者とアンデッドの英雄譚。国の根幹を支える伝承が魔物によって支えられたと聞いて冷静でいられる愛国者はいるだろうか?それを試すかのように包み隠さず、時節王女の反応を窺いながら語り続けるも、彼女は表情1つ変えることもなければ言葉を発することもなく、真剣に聞き入っていた。

 やがて物語は降臨日と呼ばれる祭りが制定され、[大いなる眠り]へとアンデッドが堕ちることで幕を閉じる。



 冒頭から終わりまで当初の熱意は何処へ消えたのか、ついに一言も話すことなく黙りこくる王女の姿を見たリッチは彼女の反応を待つ。否定されるか、はたまた不浄の者として戦争と発展するか。どちらに転ぼうともアンデッドとなった彼にとってはどちらでもよく、辛抱強く返答を待ち続けるつもりであった。



 しかし返答の早さも彼女の答えも、リッチにとっては予想外のものであった。



「……やはり伝承は正しかった」


 誰に語るでもなく俯きながら言葉を発するが、すぐに顔を上げてリッチの目を見据える。



「かつて勇敢な冒険者と蒼き鳥、夢幻の鼠によってこの地は救われ、以降もその夢物語によってこの国は支えられてきました。しかし王家には真実がしかと記録され、代々国の最大の秘密として語り継がれてきました」




 5人の冒険者と蒼き御使いによって救われた街カンジュラ。サンルナー教の布教も跳ね除け、独自の国教を貫き続けた異質な国。蒼き御使いと2人の冒険者が去り、フェリペとセシルが子を授かることで国が更なる安定を見出した頃、再び2人の元冒険者と2匹の変わることのない小さな獣が街を訪れた。赤子を抱えた両親として変貌を遂げた2人をかつての仲間たち、そして王たちも歓迎するが、内密な話があると王城の寝室へと通される。





 そして真実が明かされた。






 洞窟の中で出会ったのは[使者]ではなく[死者]であったこと、そして背後にあったアンデッドの様々な暗躍を。

 1匹の魔物、それもアンデッドに国を救われ、言い様に扱われたことに当然ながら驚愕する王家の2人はしかし、それを否定することは決してしなかった。見たこともない[神]の使者よりも、人の心を知るかつての生者による加護と考えた方が余程現実的であったことを笑いながら話していたという。

 


 そして英雄としての彼らの話を真摯に受け止め、様々な便宜を図ってくれた。エルフの提案にあった彼の武勇伝を語り残す[絵本]も当時は今以上に高価であった書物の出版に迷わず手を貸し、山、しいては森への侵入を厳しく規制するなど、国の恩人への取り計らいに決して妥協はしなかった。




 いつかの活躍によって栄えた国を訪れることができるように、[彼]の眠りを妨げぬように。



「貴方がお話されたこと、人名から何まで王家に伝わる伝承とも一致しますわ」


「寝ている間にそんなことが…」



 初めて[冒険者]を名乗れた忙しなくも楽しかった日々、その冒険者たちはアンデッドである彼の存在を受け入れ、3000年の時を経てなおその功績をカンジュラに刻んでいた。


「この世界で初めて出来た[お友達]って奴かな…みんなあの後でどうなったのやら、てかティアラたちはやっぱりくっついたのか」


「聖騎士ボルトス様と宮廷魔術師ミネア様は婚姻され、同じく宮廷魔術師ミフネ様は魔術学院へと出向いて院長になったと記録が残されておりますが」


「あの脳筋2人が結婚したの!?」



 王家の伝承以上に驚愕を隠せない、3000年後の衝撃的な事実に動揺しながらも王女は話を続ける。


「本人たちには話しておりませんがボルトス様とミネア様の子孫、そしてミフネ様の子孫が…その、今は勇者を名乗っております」


「…もしかしてガイアとカンナと、スターチだっけ。その3人のこと?」


「ご存知なのですか!?」


「今街にいるし」


「へっ!?」



 魔王はリッチの側へ誘致し、それによって勇者の役目を事実上終えた彼らが新たな目的を見出そうとしていること。この際全て手札を見せるかと、何の気なしに語るもそこには先程の毅然とした王女の姿はどこにもなかった。恐怖の対象であるはずの魔王がいつの間にか復活しており、それどころかこの都市で、さらには勇者とも[交流]がすでにあるというあまりの異常事態に放心するしかなかった。



「ま、あと気にしなければならないのは魔王軍そのものと、いまだに戦三昧の人間たちの動向くらいだね」


「……はぁ」



 つまり平和が訪れた、と捉えていいのだろうか。カンジュラを支えた王女として時代の節目が間近にあることを戸惑いながらも薄々と感じていた。そしてその中心にいるのは紛れもなく目の前の…



「リッチ=ロード様。ファムォーラの王として…いえ、我が国の英雄として1度是非お越しくださいませ。そのための努力は決して惜しみません!」



 本当はいますぐにでも来てほしいのですが、と口を濁すが致し方ないことではある。過去の英雄であろうとアンデッドであることに変わりはなく、まずは彼らの存在が世間で認められること、しいては彼が治めている都市が認められることがもっとも重要な事柄であった。




 互いに驚愕し通しの談話を終え、出会った頃よりも肌に艶がかった若き王女は退散の準備を始める。



「それではリッチ=ロード様、妾はこれにて失礼いたします。古都ファムォーラの繁栄とこの後の一大イベントへの祝福を簡素ながらもお祝いを申し上げさせていただきます。今後ともどうかカンジュラへの加護とともに我が国との永き付き合いが出来ますことをお祈りいたします」



 深々と頭を下げ、やがて王族たちの人だかりの中へと消えていく………







「……一大イベント?」

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