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100.それぞれの思惑

「け、木偶の坊が驚かせやがって」


「アンデッドなんざ所詮こけおどしだっての」


「案山子の方がまだ役立つっての!」


 冒険者ギルドに向かう途中であったのか、歴戦といった風貌ではなく裏通りで育ったかのようなガラの悪い冒険者の一団が案山子の如く立ち止まっている1体のアンデッドを薄ら笑いを浮かべながら取り囲んでいた。

 彼らの言う通りでこの世界で従来知られているアンデッドはゆったり動く、タフだけが取り柄の雑魚と相場が決まっていた。出会うことは稀だが、場合によってはひっ捕らえられて兵の訓練用の的として使われてしまうこともあった。しかし唯一彼らが知らないとすれば、この都市を住まうアンデッドは全て不死王の加護にある従来のアンデッドではない。



 一通り眺めつくした後、邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばす。



 いや、蹴り飛ばそうとした。



「な、なんだよ!?」


 微動だにしなかったアンデッドは蹴り上げようとした足がガッシリと掴んでおり、そのまま相手を逆さまに持ち上げてしまう。宙吊りにされ、突然視界が反転したことに驚いた男は慌てふためくなかで周囲にいた彼の仲間たちが加勢をしようとそれぞれ武器を引き抜く。しかしいくら引こうと一向に武器を取り出せず、腕に鈍い痛みが走っていることに気付いた彼らが背後を振り向く。

 そこには様々な装備に身を包んでいるアンデッドたちが虚ろの目で彼らを見据えており、その干からびた枝のような手は各自の腕をしっかりと握りしめていた。身動きができない状況に悲鳴をあげ、周囲に助けを求め始めるが彼らの行為を目撃していた者たちはむしろ距離を取ろうと足早にその場を去ろうとする。やがて侮蔑の言葉から謝罪の言葉へと怒声が変わり始めた頃、抵抗しなくなった彼らは担ぎ上げられ、全員めでたく王城の地下室へと運ばれていった。


「…申し訳ありません。冒険者といえど、あのような行動は…」


「いいんだよ。俺のこの式典での唯一の仕事だし、配下も増えるんだからああいう馬鹿がいても問題はないさ」


「…本当に申し訳ありません」



 その後も相変わらず小競り合いや似たような案件が発生していたが、身分差別なく全ての罪人は荒くれ冒険者同様の末路を辿ることになった。なかには断固として連れ去ることを反対、もしくは戦争の勃発を仄めかす付き添いの者もいたが、無言で[3つの法]を記載された洋紙をアンデッドに突き付け続けられた彼らはそれ以上の発言をすることはなかった。それでもなお剣を振るった護衛の騎士たちもいたが、強化されたアンデッドに勝てるはずもなくあっという間に独房行きとなる。


「むふふふ。部下を増やすのにこんな効率的な方法があったなんて!やるなハノワ!」


「…そんなつもりで式典を開催したわけではないのですが」



 市街を満喫したのか、王族や貴族といった出で立ちの人々が次々と王城へと押し寄せてくるようになった。体裁を重んじるため、招待状を持つ者しか入城してはいけないことになっているが、それ以外の者は王城前の立食パーティに舌鼓をうつ手筈になっていた。そして演舞場にて不死王ともども待機するハノワは、好奇心と恐怖を胸に秘めた次々と訪れる王族の挨拶という名の[洗礼]を受ける羽目になる。



「は、はじめましてリッチ=ロード殿。私はカタン王国の…」


「おー、素晴らしい王国でありますな!ワガハイの王国にも引けをとらぬ…」


「是非我が国との貿易を…」


「同盟を…」




 想定通りの言葉のやりとりにウンザリしながらも交易関連はハノワに丸投げし、同盟に関しては片っ端から断っていった。誠意以前に見ず知らずの相手に、しかも魔物相手に怯えながら友好関係を結ぼうなぞ片腹痛い提案であった。なかには後学のために人を寄越したいと提案する者もいたが、法を守るなら好きにするようにと流れるように挨拶を済ましていく。



 しかしそれだけの数の[挨拶]をしていれば、中には面白い輩もいた。



「はじめまして不死王よ。クレセント王国の王エファルトと申す。この度をお呼び立て頂き感謝します」


「…お前さんに息子はいるか?剣が得意な感じの」


「お、おりますがどうしてそれを…」


「似た魂の……顔の冒険者を知っていてね。今都市に来てるんよな」


「レオルが来ているのですか!?」


「レオル?」


 その後、過去にリオン(レオル)と同様の女神の加護を受けたある男の英雄譚を脚色して伝えると感嘆していた彼の親バカ話が始まった。勇者として産まれてから一度も泣くことがなく、初めは不気味がっていたが壊した花瓶を拾い集めて直そうとする姿を見て癒された、オフレコであるが許嫁に従者の娘をくっつけようと画策しているが初めて会った時の初々しい反応が可愛かったなど本人も聞かれたくないであろう内容がいくつも披露されたが、魔物と言えど同じく父親としてエファルトとの会話は大いに盛り上がった。


「はははは。魔物が統治する国と聞いて警戒してきたがどうやら杞憂だったようだな!民は水を得た魚のように生き生きとしておる!しかし魔物というのは奥方のハーピーと兵のアンデッドだけであったのか?」


「森に行けば妖精に会えるが?」


「本当か!?」


「後で行くといいよ。俺の名前出せば森の中案内してもらえるだろうし、ついでにリオ、レオル君とそのお友達ともそこで引き合わせてやるよ」


「感謝する!」



 互いの子供の話をしただけで彼との歓談は終わりを迎えたが、書面はなくとも確かに古都ファムォーラとクレセント王国の間では密かに同盟が結ばれることとなった。エファルトは謁見の時よりも幾分か若返ったかのように笑顔で会釈をすると、軽い足取りで王城を後にした。

 初めての親バカ会話に満足しつつ、去っていくエファルトに手を振っていると不死王として目覚めて以来、もっとも気になっていた重要人物が檀上をゆっくりと上りながらその姿を現した。




「お初目にかかります。妾はカンジュラより参りました王女シィラと申します」

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