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10.寝る間も惜しんで

 アンデッド量産開始…と言いたいところではあったが洞窟の体積を考慮し、5体ほど新たに死体をアンデッド化させる。ゆっくりと彼らは立ち上がり、トムジェリ同様にその場で立ち尽くしているが彼らには別の利用目的がある。


[弱点は克服するもの]


村人Aをトムの前に立たせ、トムは相手を見据えているようにも見えるが剣を握りながら落ち窪んだ眼窩は相変わらずどこか遠くを見ているように思える。

 

『首を切り落とせ』


 無情な命令と共に緩慢ながらも力強い剣戟がAの首を振り抜き、首を失った死体は力なく地面へと倒れ伏す。他の同胞はその状況を気にする様子もないことを確認し、しばらく倒れたAを観察していた。しかしいくら待てどもピクリとも動くことはなく、『起きろ』と命じようと決して起き上がることはなかった。


「…首を切り落とせば再起不能、は王道だったか」


 SFに出てくるモンスターを倒す方法は首を切り落とすこと、そしてAはルールを守ったかのように終わりを迎えた。自らの首を触りながらそのような終わりが迫ってこないことを祈り、残る村人BとC、そして兵士AとBに視線を向けると横たわる様に念じ、その横にトムが立つと同時に剣を村人Bの頭部へと振り落とす。

 ……Bは僅かであるが、いまだに動いていた。本来脳がある場所、眼窩より上を切り落とさせたが立たせて徘徊させても問題なく行動していた。アンデッドに脳は不要なのかもしれないが、不気味な外観をしながらもまだ動ける範囲の負傷であったことには驚きを隠せない。さらに検証すべくその状態のBにトムの剣檄は繰り返し放たれ、輪切りの要領でゆっくりと眼窩に始まり下へと徐々に切り落とされていく。


「ん~、口から下があればまだ動けるのか……『壁の手前で停止しろ』」


 鼻から上を消失した無残な姿のBは、本来あるべき聞くための耳と見るための目を失っている。しかし彼は剣戟前と同様の動きを見せ、前進を始めると壁にぶつかる手前でピタリと止まる。彼らもまた黒と白線の世界で活動しているのだろうか、驚きの空間認識能力を披露されたのも束の間、忠実なトムは命ぜられるがままにBへの輪切り作業を再開する。

 やがてBの渇いた肉片が地面に散乱され尽くした時、彼の短いアンデッド生に幕は下された。彼らの完全な死体を見下ろし、トムジェリに頼ることなく自らの手で地面に穴を掘って村人AとBを埋葬する。


「……君らの分までアンデッドします、だから安心して土に還ってくれ」 


 手を合わせながら黙祷を捧げ終え、再び視線を上げるとそこには残った新参のアンデッドが3体。その背後には剣を握りしめるトムが佇み、次の命令を待っている。埋葬された遺体をもう一度だけ見下ろし、深い息を吐くと同時に放たれた言葉によって狂気は繰り返された。


 疲れと眠気、そしてこの世から忘れ去られた転生者の成れの果て。彼はその後も不定期に死者が遺棄される洞窟の最奥に居座り続け、いつ終わるとも分からない狂気染みた[実験]が繰り返された。







 日がほとんど差し込まない森の中、足元と周囲を警戒しながら慎重に前進する一行がいた。弓をもつエルフ特有の金髪に尖った耳をもつ女性が前衛を、それに続くように杖や剣を持った4人の男女が彼女に倣って生い茂った草を踏む分けていく。


「おい、本当にこっちで合ってるのかよ?」


「ミフネ、周囲に敵の気配は?」


「……何も引っかからない…」


「なぁ、合ってるのかよ?」


「ティアラ、前方はどうだい?」


「今の所は……何もないな」


「うぉい!!」


 剣を持った逞しい体つきの男が慎重な行動を台無しにするかのように大声をあげるが、全員が各自の人指す指を口の前に当てることで遺憾に思いながらも再び静かに歩き続ける。任務中とはいえ会話もなく、先程から敵と一切遭遇していない状況から緊張が薄れてきていた。

 ついに後方を歩く杖を持った少女の1人が腰を掛けるのによさそうな岩を見つけ、飛びつくように走ると我が物顔で座り込む。


「アミルそろそろ休憩にしよ~?さっきからずっと歩き通しだし、お馬鹿様が大声で叫んでも何もないなら大丈夫でしょ?」


「誰が馬鹿だ!誰が!!」


「あんたよ、このバカチンが!!」


「ミネア、ボルトス。休憩にするから喧嘩はやめてくれ、な?ティアラとミフネもいいか?」


 また始まったと言わんばかりに溜息をつくアミルと呼ばれた青年の提案に渋々うなずき、ミネアが座る岩の周囲に集まるとアミルは燻製肉を全員に差し出す。水筒を回し飲みし、身体を休めてはいるがその目は鋭く森の中へと散発的に向けられている。敵との遭遇はなくとも長年の冒険者としての彼らの経験は自然と警戒するようにと自らを導くが、やがてボルトスがその様子を見ながらため息を吐く。


「おいおいおい、ミフネとティアラが周り警戒してくれたんだし、別に大丈夫なんじゃぁねぇの?今までだってそれでどんな強い奴でもとっちめてきたんだからよ、休める時にしっかり休めとけって」


「…不意打ちでね…」


 かれこれ5年程の付き合いになる彼らも一度依頼を受ければほぼ負けなしと多くの実績と尊敬を集め、今回森へと足を向ける要因となった依頼は捜索であった。冒険者の新人教育のために遠征に出かけた教官計7名が戻ってくるべき期日を1週間過ぎても音沙汰がなく、彼らを探すよう冒険者ギルドから直々に依頼が出ていた。

 快く依頼を受けた彼らは行方不明の冒険者たちの形跡を辿り、そして今現在の状況へと至っている。1週間、という期日はすでに生存が絶望的なものであったがそれとは別の不安がミネア、ボルトス以外の3人に重くのしかかる。


「……ところでこの依頼、本当に大丈夫なのかアミル?」


「…引き返すことも選択肢に含めた方がよさそうだな」


「ちょ、何言ってんよ!さっきから敵が全く出てこないんだし、ちょー順調じゃん!?」


「…それが…そもそもおかしい…の」


 憤慨するミネアを顔が瓜2つのミフネが静かに窘める。森に1度でも入れば魔獣や魔物、場合によっては他の冒険者にも必ずと言っていいほど遭遇するはずである。ゆえに森を通らなければならないが戦う力のない一般人は森を迂回するか、護衛を雇って移動するのが常識であった。

 しかし森の奥深くへと足を踏み入れる度に生命の気配が薄れていき、ついには鳥の囀りさえ聞こえなくなっていたことにティアラ含め、残る2人は不気味に感じていた。

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