青い春、白い春
あたしのクラスに転入生としてやってきたのは白岩春人だった。小学五年生のときだ。すでにあたしのクラスには青峯春喜がいたので、春人は《白い春》って呼ばれ方をしていた。
中学三年生になったとき、春人に告白されて、良いよって返事をした。同じ日のそのあとに春喜にも好きだって言われたのだけど、春人に返事をしちゃっていたから断った。
逆だったらどうだったかって言われても、結果は同じだったと思う。春喜は保育園時代からの幼なじみではあったけど、恋愛の対象には入っていなかったから。その当時はね。
こんなことを思い出してしまったのは、春人に呼び出された10年前の手紙が出てきたからだ。
あたしは結婚を前に住み慣れたこの家から離れる。今はその準備をしている途中だ。
「懐かしいな……」
大好きだった。
初めてはすべて春人だった。
全部楽しかった。
世界が華やいで見えた。
結婚するつもりだった。
お互いにそう思っていた。
涙が頬を濡らす。
彼の冷たい指先の感触が蘇ってきて、身体が震えた。欠けた指輪を見せられたとき、どうしてって運命を呪った。
フォトフレームの画面の向こう側の君は歳をとることはない。
婚約指輪を取りに行った春人は、交通事故に遭ってかえらぬ人になった。享年二十三歳だった。
「――飛鳥、春喜くん来たわよ!」
母が呼んでいる。あたしは涙を拭って部屋を出る。
「はーい!」
春人が亡くなって、慰めてくれたのは春喜だった。昔からそうだ。あたしが悲しんでいるとき、そっと支えてくれたのは春喜だ。春人と恋仲だった間も、愚痴にずっと付き合ってくれていた。
そして、ほだされてしまった。
あたしが未だに春人を想っていることを春喜は知っている。その上で結婚しようと言ってくれた。
だから、あたしは彼らに感謝しながら生きるって決めた。君はもういないけど、あたしは過去を抱き締めたまま未来を歩きます。
《完》