生える
庭先に、レンガで囲われた花壇がある。
土を囲っただけの小さく簡素なもので、そこには植え付けたばかりのパンジーが並んでいる。
この時期に植えておけば、冬から初夏にかけて庭に小さないろどりを添えてくれるはずだ。
そんなパンジーの苗と並んで千歳アメが生えていた。
色は紅白の二種類あり、数は十数本程度、割合は紅色がやや優勢だ。
いまは子供の指程度だが、一週間もすれば竹を超え、最終的には樹齢百年以上のご神木のような大きさと高さにまでなってしまう。
冬はいいとしても暖かい季節になれば、一面に甘いニオイを充満させたり虫を寄せ付けたり溶けたりと散々なことになる。
いつも見つけ除去するように次第心がけていた。
根をはらないため簡単に抜き去ることができる。
いつものように、ヒョイとつまんで庭の池に投げる。
千歳アメの着水と同時に、池で飼われているコイが我先にと奪い合いを始めた。
重なり合いぶつかり合いの末、一匹が運よくアメの端をくわえることのできた。
そして、水と一緒に一気に丸飲みにして戦いに終止符を打った。
初弾の行く末を見届けながら千歳アメを両手いっぱいに集め終えた。
今度は、池の広い範囲をめがけて千歳アメを一気にばら撒いた。
ふたたび水面で激しいしぶきをあげながら暴れまわる。
愉快なそれをながめながら軽く手を払った。
こんなふうに千歳アメをあげているせいか、最近コイの発色が良くなった気がする。特に紅色の部分が。
池を見ながら歩いていると、足の裏で背が高く細長い硬いものに触れた。
紅色の千歳アメだった。
二センチ程度、まだ生えたばかりのようだ。
抜こうと思い指を伸ばすが、不意に思い立ち、人差し指で押してみた。
――カチンッ!
地中でなにかのスイッチがはいる音がした。
まもなく、池の中心付近から激しく水の流れる音が響いた。
池のふちへいってみると、そこには、底の見えない大きな丸い穴が開いていた。池の大きさの四分の一ほどありそうだ。
鯉も千歳アメも水も、すべて滝を作って穴へ流れ落ちていく。
急いでもう一度千歳アメのスイッチを押すが、空回る感触があるのみで穴がふさがることはなかった。
スイッチの周りを掘り返してみたが地中深くまで根を張っていた。
こうしているあいだにも、池の水は、肉眼で底が見えるほど減ってしまっている。
土から掘り出したぶんだけ長くなった千歳アメを握り、今度は思い切り引っ張りあげた。
『やぶれかぶれ』とも『やけっぱち』ともいうような行為だった。
千歳アメはスポンッと抜けてしまった。
抜けた千歳アメは一メートル以上あり、その先端には『はずれ』という言葉とともに『コロン ハイフン アルファベットのピー』が書かれていた。
池からは完全に水がなくなり、打ち上げられたコイが元気よく跳ね回っていた。




