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問1,勝手すぎる生き物は?

作者: 夜駆 慧茄

問1,勝手すぎる生き物は?


深い深い森の奥、小さな泉の中央の岩に1人空を見るにこやかな青年は、森に迷い込んできた小さな少女に唐突に聞いた。


「その問題、答えあるの?」


少女は年の割にはサバサバしていた。答えが定まらないことを知っているのだろうか、なかなかその先を答えようとはしない。


「あるよ。けどそれは人によって違うと思うけどね」


そうだろうと思った、と言わんばかりに、少女は肩を落とした。


「森から出たいの。あなた、道を知ってる?」


少女の問いに、青年は言った。


「知ってるよ。けどその問いに答える前に、僕の出した問いに答えて」


少女は青年の言っていることが理解できないようで、首をかしげた。


「答えなら人によって違うと思うって、わかってるじゃない」


青年は笑いながら答えた。だからわからないのだ、と。

少女はそんな青年に対してイラつきを覚え始めた。どうもこの話は終わりそうにないし、青年が道を教えてはくれなそうだ。


「私お稽古があるの!先生のところに向かっていたらいつの間にかこの森にいたのよ。道を教えてくれないなら街のある方向でいいわ、それだけすぐに教えてよ!」


「君はまだ森からは出られないよ。僕が招いたんだから、答えをくれるまで返さないよ」


いつの間にか、バラバラに生えていた木が、青年のいる泉を取り囲むように隙間なく並んでいた。小さなねずみでも通れる隙間は無さそうだ。

少女はいよいよ不安になってきた。だが、そんな少女をよそに、青年は相変わらず空を見上げている。心なしか、青年の上だけは雲が切れて光が降りてきているように見える。


「ねぇ、どうだと思う?獣も鳥も魚も同じように生きてるけど、人間みたいに大々的に自然を壊したりはしてない。そう思うと、勝手すぎる生き物は人間じゃないかなって、僕はそう思うんだ」


「あなたも人間じゃない」


森が返してくれる気になるまで、少女はこの奇妙な青年に付き合おうと思った。泉の前の草の上に腰をおろして、まだ半ば嫌そうに青年を見つめた。

青年は少女の言葉に口元を歪めて笑うと答えた。


「違うよ、僕は神様なんだ。だから君たち人間がなんでこんなに勝手すぎるのか知りたいんだ。」


「勝手すぎるっていい方は間違ってると思うわ。私たちはより良く快適に便利に暮らせるように…」


少女は言葉をつまらせた。青年が初めて少女と顔を合わせたからだ。そしてその眼は、『だから勝手すぎる』とでも言うように少女を……いや、人間を哀れんでいるように見えた。


「…確かに森にいる獣も海にいる魚も空を飛ぶ鳥でさえ、人間ほどは勝手じゃないかもしれない。人間は勝手かもしれないけど、一番勝手なのは、あなたじゃない?」


予想外の言葉に、青年は目を見開いた。

少女は言葉を続けた。


「私を招いたって言い方はいいかも知れないけど、これは誘拐になるんじゃない?予定があるのに勝手に私を呼び込んで、勝手に木を動かして閉じ込めて、一方的に話し続ける。きっと今のあなたは人間よりも自分勝手よ。勝手すぎるわ」


「僕が、一番勝手すぎる、のか…」


その言葉に呆然としながらも、青年は満足げな表情を浮かべていた。確かに、言われてみれば今一番勝手すぎるのは自分自身である。否定はできない。けどもそんな答えよりも、勝手すぎると思っていた人間に、それもまだ小さい少女に『勝手すぎるのはお前だ』と言われたことが、面白くてたまらない。


「あぁしまった。こんなことを思ってるから堕天させられるんだよな…」


少女にはその言葉は聞き取れなかった。猛烈な睡魔に襲われて、糸が切れた操り人形のようにくたっと芝生の上に倒れ込んだ。


「君とのおしゃべり、楽しかったよ」





少女が目覚めたとき、目の前には心配そうな顔の母親がいた。母の話では、少女は3日ほど行方不明になっていたらしい。発見されたのはお稽古の先生の家に向かうための小さな路地。案外誰でも使う路地なのに、3日間少女を見つけることはできなかったのだという。

心配している母親をよそに、少女はただ雲に覆われた灰白の空を眺めた。自らを神と呼ぶあの奇妙な青年は、夢だったのか、それとも本当に会ったのか、少女にはわからなかった。


「…ねぇお母さん、勝手すぎる生き物ってなんだと思う?」


唐突な質問に母親は驚いていたが、一時置いてから悟ったようにこう答えた。


「その質問で、あなたが3日間どこにいたのかわかったわ。けど貴方が3日で解放されなたなら、きっと彼が満足したのね」


少女はあまり驚かなかった。昔、母も行方不明になっていたがあったと聞いていたからだ。そして母があの青年を知ってるなら、きっとその時の犯人もあいつなんだろう。


「今思えば、あの自称神様の彼が1番勝手だったわね」


「……そうだね」


少女はため息混じりに微笑むと、そっとカーテンを閉めた。





「勝手すぎるのは僕、か…。やっぱり面白いな。けどその何倍も愚かしい考えだな。善悪は人間の考え方で、神様は全てが善なのに。うん、やっぱり面白過ぎるな、人間はさ…」

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