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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
3章 ユミル王立士官学園 第二片
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When you knocked that(hope lost)door

 穴の奥は光が届かない真っ暗闇だった。


「ちょっと待ってて。よっと」


 掌に火球を生み出す。それは僕の前方1m付近までゆっくり進み、停止した。僕が前に進むと、火球も同じ速度で前に進んだ。さらに同じものをエインとセラの前にも出した。


「便利なもんだな。そんな魔術もあるんだな」

「いや、こういうのはないかな。これは僕がいま自分で作ったんだ。術者の前方1mを常に保つようにって」


 エインが感心したように唸った。セラは明かりが出来たことで、僕らが今いる場所を興味深げに観察していた。


「自然にできた割れ目かと思ったけど、そんな事なかったみたいだね」


 僕も周囲を見回した。

 その、そうキチンと整備された通路はまだまだ奥へと繋がっていた。


「補強に使ってる技術はそんなに古いものじゃないね。10……15年? それくらいかな?」


 セラが木組みなどを見ながら呟いた。

 確かに僕が見ても、補強に使われている木は湿気で所々腐ってはいるものの、いますぐ崩れるような感じはなく、まだ確りとその形を保っていた。


「これ、もしかしなくても進まないほうがよくね?」

「同感」


 謎の洞窟なんて冒険心をくすぐられるけど、厄介事に巻き込まれる予感しかしない。


「やっぱ引き返そうか――って、セラ!」


 気付けばセラが一人でどんどん奥へと進んでいっていた。


「待てって」


 エインもそれを追いかけていく。


「ちょっと2人共!」


 そして結局僕らは揃って奥へと進んでいくはめになっていた。




 数十mも進むと、その通路は突然終わっていた。

 その先には小さな部屋があった。


「ここは倉庫?」


 部屋の中を見回すと、棚や樽が所狭しと並べられ、そこかしこに何かの残骸が散乱していた。次いで振り返ると、横倒しになった棚があった。

 配置的に、この通路を隠していたようにも見える。


「これは石炭かな……?」


 セラがいつの間にか樽の中を探っていた。好奇心が旺盛過ぎる。


「石炭って、燃えるんじゃねぇの? これやばくね?」


 エインが火球を指して言った。


「障害物は避けるように出来てるから大丈夫だと思うよ。直接ぶつけたりしない限りは」

「だそうだ。セラ、石炭投げたりすんなよ」

「んー……」

「ダメだ。聞いてない」

「僕らで注意しよう」

「そうだな」


 セラが何かに集中している時は、まず人の話を聞かない。今まで数ヶ月の同居でそれは身にしみて分かっているので、僕らは早々に手を上げた。

 セラは一通りの樽の中身や、棚に残っていたものを調べると、当たり前のように部屋から出て、さらに奥へと進んでいった。


「とりあえず人や魔獣の気配はしないから大丈夫だとは思う」

「分かった」


 エインにそう伝え、僕らはセラの後を追った。

 通路に出たらススだらけだったけど、それはこの部屋の前だけで、他はまだ綺麗なものだった。

 自然の洞窟を利用したなんらかの施設。

 セラについて回って感じた印象はそれだった。

 いくつもの部屋と、整備されていた痕跡のある通路。そして、様々な何かを保管していた倉庫。石炭の部屋以外は比較的綺麗なままだったけど、逆にモノがほとんどなかった。僅かに残った物質と、ものを置いてあったであろう痕跡から色々と想像を働かせただけだ。


「ここは居住スペースだったみたいだな」


 いくつか目の部屋でエインが言った。

 今までに比べて広く作られた間取りに、並べられたベッド。とは言っても、ここで寝るのはごめんだってくらいに汚れ傷んでいるけど。


「泊まり込みで、何かの研究をしてたってことかな?」

「なんの研究をしてたんだろう」


 珍しくセラが返事をしたのかと思ったけど、たまたまタイミングの合った独り言だった。

 さらに施設内を見回ると、一つの奇妙な部屋に辿り着いた。

 かなりの広さが取られていて、その中央にポツンと大きな机が設置されていた。人が寝転ぶのに最適な広さの机だ。

 やはり真っ先にセラがそこへ近付き、みるみる表情が変わっていった。


「ソール、ちょっときて! これ見て」


 促されるままにそれを見た時、ここで何の研究が行われていたかが分かった。


「錬金術……」


 机には魔法陣が描かれていた。それもかなり複雑な。


「これ、私達が作った魔装手甲壱型ガントレットに使った陣に似てない?」

「え、ほんとに?」

「ほら、ここ。ここで魔力の流れを作って、そして保存する」


 言われてみれば確かにそうだった。魔装手甲壱型ガントレットに魔力を供給し、それを保存する時に使った式にそっくりだった。ただ。


「完成度が段違いだ」

「うん。これ作った人は間違いなく天才だよ」


 それは素人目に見ても天才的で、複雑で膨大かつ精緻な陣だった。これほどの陣なら、相当量の魔力を対象に蓄積させられるはずだ。


「他に……なにか……」


 部屋を見回したセラは壁際に並んでいる机を見つけ、すぐさま駆け寄った。

 ただ、机には実験用の器具が並んでいるだけで、何かの手がかりになりそうなものは何もなかった。しかしセラはそれでも丹念に机を見回している。


「何か分かるの?」

「うん。器具に配置を見るだけでも、なんとなくその人の好みとか癖が分かるの。今は少しでも情報がほしい」


 僕の質問に答えたと言うより、自分の行動の理由を整理するために呟いた。そんな調子だった。

 これはまた集中モードに入ったかな。そう思って振り返ると、エインが辛そうに机に突っ伏しているのが見えた。


「エイン、大丈夫!?」


 いそいで駆け寄ると、エインは返事の代わりに手を上げて応えた。


「うわ、顔色真っ青じゃないか。どうしたのさ」

「あー、いや、実はここ入った時からずっと頭が痛かったんだけどな。我慢できる程度だから放っといたんだけど、ここにきて急に酷くなってきてよ」

「洞窟の中やここは涼しいから身体を冷やしたのかも」

「うー」


 エインは何とも言えないように唸った。


「それとは違う気がする……」

「違うって、どういうことだよ。とりあえず何にせよもう戻ろう」

「そう、だな。すまん」


 項垂れるエインを了解も取らずに負ぶさる。普段は嫌がるけど、抵抗する様子もない。相当辛いようだ。


「セラ、戻るよ!」


 セラはある机の前で足を止めて悩んでいた。呼び掛けても返事はない。


「セラ!」

「え、なに?」


 肩を掴んで揺さぶって、セラは初めて呼ばれていたことに気がついたみたいだった。


「なんだかエインが体調悪いみたいなんだ。まだ調べたいことあるかもしれないけど、戻るよ」

「あ、うん。そうだね」


 てっきり粘るかと思ったけど、セラは存外素直に頷いた。

 それでもまだ少しぼうっとしているセラの手を引き、エインをおぶったまま、僕らはその施設を後にした。

次回は9月18日7時更新予定です

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