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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
3章 ユミル王立士官学園 第二片
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雷霆の咆哮

 もう一度、隆起壁アースウォールを唱えてライオネルを拘束した。地面から伸び上がった土の柱は、ライオネルの巨体を覆い尽くすように周りを囲み、次の瞬間には崩される――が、それでは終わらない。


水渦旋流ウェアリングウェイブス!」


 本来は激しく渦巻く水流を発生させてダメージを与える魔術だけど、今回は発生地点をライオネルの足元に設定した。地面の下に発生した大量の水と流れは、隆起壁アースウォールで散々掘り返されて柔らかくなっていた地面をシェイクし、泥沼と化した。

 急に地面の感触を失ったライオネルは、その自重で泥沼へと深く沈み込んでいった。


「拘束する強度を持つものがないなら、むしろ柔らかくて壊せないもので拘束すればいいってね」


 狙い通り、泥沼に身体の殆どを埋めたライオネルは抜け出そうにも抜け出せず藻掻いていた。

 とは言っても、これもそんなに時間を稼げるわけではないだろう。すぐにでも出てくるはずだ。

 けれど、今はその僅かの時間こそが求めていたもの。

 勝利を手繰り寄せるための光明。


「ヒルダ! シシリー! 防御障壁を二人掛かりで可能な限りの強度で張って!」


 そう叫ぶと、僕は返事を待たずに自身に集中する。

 さっきライオネルの攻撃を躱し続けていた時に、ある程度は魔力は練り上げている。

 剣を納め、両手を頭上へと掲げる。


「此の身に宿るは天を翔ける雷霆なり。其は神罰を与える、白き閃光なり」


 体内の魔力が両手へと集まる。


「全てを打ち払え。悉くを討ちたおせ。あまねくを灼き払え」


 掌から放出される魔力は電雷となって、まるで武器のように形作られていく。


「其は裁きを下す、神の鉄槌なり」


 昔は制御できずにただ暴れ狂うように放出されていた魔力。それがハッキリとした形をもって、僕の手に握られていた。

 ここでライオネルがついに泥沼から抜け出した。辺りを見回し、僕に気付くやいなや、咆哮を上げて突進してきた。


「みんな! 目を閉じて!」


 僕は最後にシシリー達へ向いて忠告すると、間近に迫るライオネルを見据えた。


「ごめん。だけど、倒させてもらうよ」


 僕は手の中の武器を振りかぶった。


「打ち砕け! いか――――――づち!」


 振り降ろされたいかづちは真っ直ぐにライオネルを捉えた。制御しているとは言え、一度放たれた雷はある程度の指向性はあるものの、視界を埋め尽くすほどに駆け回り、触れるもの全てを蹂躙していく。やがて世界は真っ白に染まり、音をも奪いさっていく。


 色と音のない世界。


 だがそれが永遠に続くわけではない。


 一瞬の後に、僕の視界は開けた。

 どこまでも広く開いた。






 ソールに目を閉じろと言われ、私達は疑問を口にする余裕もないまま、言われるがままに防御障壁を張りながら目を閉じた。

 瞬間、私達を襲う轟音。

 瞼を閉じている事を忘れそうになる程の閃光。

 そしてそれは直ぐに終わり、痛いくらいの静寂が訪れた。あまりにもの変化に耳鳴りが止まらない。視界もチカチカしている。

 なんとなく、もう大丈夫かなと思って目を開くと、目を閉じる前と変わらない位置に、ソールが立っていた。ソーリ自身も変わった所はないようだ。


 ただ――


 ただ、世界が変わっていた。

 ソールの前方には何もなかった。

 無くなっていた。

 確かにここは森の中で、少し開けた場所とは言え、周囲を木々に覆われていたはずだ。

 けれどソールの前方には何もなかった。

 あったはずの木々は消滅していた。

 燃えたとか、壊れたとか、そういう生易しいものじゃない。

 灰となって、消え去っていた。

 ライオネルの姿も――無い。

 両隣に居る二人――エインくんとヒルダも目を見開いて呆気にとられていた。


「は――はは、これではどちらが化物か分かったものじゃないですね」


 ヒルダの零した言葉に、胸がちくりと痛んだ。


「おい、ソールをそんな風に呼ぶんじゃねぇ」


 エインの怒る声が聞こえた。


「……申し訳ございません。失言でした」


 ヒルダは素直に謝った。その心情までは分からなかったけど。

 私としてもソールをそういった扱いをして欲しくはなかったから、エインに心の中でお礼を言った。

 でも、私もソールに抱いた感想はもしかしたら似たようなものだったかもしれない。

 ソールがとても遠い所に行ってしまったような。そんな気がしていたから。






「よし」


 念のためシシリー達には防御障壁を強化してもらったけれど、雷鎚のエネルギーはちゃんと直進し、余波もほとんどはそちらへは向かなかったようだ。長年の訓練の結果、ちゃんと操れるようにはなっていたから自信はあったけど。それでも成功すればホッとする。

 ライオネルは文字通り、跡形もなく消滅した。

 スカジの対不死者対策の最後にして万能の手段。


 全部丸ごとふっ飛ばせば倒せる。


 相変わらずの脳筋戦法だった。

 でも実際に効果があるのだから馬鹿にするわけにもいかないか。

 それにしても、やっぱり方向は制御できるけど、規模までは難しいな。ちょっと数百m分ほどの森も消し飛ばしちゃったけど、緊急避難ということで許してくれないだろうか。

 今から戻せと言われても無理だし。

 ま、それは後回しにするとして。


「みんな、大丈夫?」


 シシリー達の元へと駆け寄った。


「お陰様でこっちは無事だぜ」

「ベノワはどうだった?」

「うん、治療魔術で傷も塞いだし、剣も抜いたから大丈夫だよ。けど、やっぱりちゃんとした所で休ませないと」

「そうだね。もうこうなったら実習とか言ってられないし、戻ろうか」


 その提案に皆が頷いた。




 ベノワをエインに頼んで、方角を確認しながら森を突っ切った。途中で魔獣の襲撃があったらと思ったけれど、森を抜けるまで出くわすどころか、姿すら見ることはなかった。

 そして森を抜ける途中で、意外な人物と出会った。


「ソール! 何があったの!?」

「姉さん!?」


 そう、姉さんことフィスだ。

 どうやら僕の魔力を感知して、飛んできてくれたようだった。


「アンタがあの規模の魔法を使うなんて、ただ事じゃないと思って」

「心配してくれたんだ。ありがと」

「か、家族なんだから当たり前でしょ!」


 何故か怒られてしまった。


「それよりも何があったのよ」


 僕は道すがら事の顛末を話したら、凄く怪訝そうな顔をされた。

 さらに森を抜けた所でカスミが待っていた。

 フィスが飛び出したのを追い掛けてきたそうだ。振り切られてしまったみたいだけど。それでも少ない情報から、何となくこっちに引き返してくるだろうと読んだので、森を抜けた所で待機していたらしい。

 さっきもした説明をカスミにもする。カスミも変な顔をしたが、どちらかと言うと、不思議というよりもあり得ない事を聞いたといった風だった。


「ライオネル。其の化物は間違いなくライオネルだったのよね?」

「うん。そうだけど、どうかしたの?」

「どうしたも何も、ライオネルが此処に居る筈ないの」

「え?」


 数人の声が重なった。


「カスミ、それってどういう」

「ライオネルは数日前に、度重なる権力の乱用が問題になって。停学処分を受け、其の結果自主退学。今は実家に軟禁状態に為っている筈なのよ」

「え、でも……」


 昨日まで普通に学園に通っていたはずだ。昨日の実習出発の時だって確かに……


「ちょっと待て。昨日、ライオネルいたか?」


 問われて気付く。

 昨日の出発の時、ライオネルの姿を見た覚えがない。


 え?


「いや、だからと言って。学園では確かにいたはず……」


 顔を上げると、カスミが神妙な顔つきで僕を見た。


「学園に居た彼。本当にライオネル?」














 

次回は7月31日7時更新予定です

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