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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
3章 ユミル王立士官学園 第二片
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ノスフェラトゥ


 何が起こったんだ。

 ライオネルは確かに死んだはず。

 でも、それならあそこに立っているのはなんだ。

 いや、いまはそれよりもエイン達を助けないと。

 視界は定まらない。頭はクラクラする。身体が軋む。膝が震える。

 けど、行かないと。

 僕が、僕がなんとかしないと。

 ――動け。

 動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!


「うご――けぇ!」


 動かない身体を、魔力を放出することで推進力にし、無理やり進ませる。


「あああああああああああああ!」


 ライオネルが反応するが、もう遅い!

 渾身の力を込めて肩からぶつかると、ライオネルの身体が車に轢かれたように跳ね飛ばされた。


「ソール!」

「エイン。僕はいいから、ベノワを」


 ベノワは腹部を剣で貫かれたまま倒れた。意識を失っているようだ。


「みんな!」


 そこへシシリーとヒルダが駆け寄ってきた。


「シシリー、ベノワが重症なんだ。治癒魔術は使えるよね?」

「う、うん。分かった」

「剣はすぐに抜かないで。治癒魔術を掛けたまま、ゆっくりと抜いて。エイン、お願いできる?」

「あ、ああ」

「ヒルダさん、防御障壁は」

「張れます。シシリー様は私がお守りします」

「うん、じゃあよろしく」

「って、お前はどうするんだよ」

「僕? 僕はライオネルの相手をする」

「無茶言うなよ! お前、さっき思いっきり殴られて吹っ飛ばされてたじゃねぇか。今も立ってるのがやっとってツラしてるぜ!」

「それでも、誰かがやらないと」

「それなら、俺がやる!」

「ううん。エインはヒルダの防御障壁の中にいて」

「でもよ!」

「お願いね!」


 僕は返事を聞かず駆け出した。

 っつ――肋が痛む。さっきので折れたか?

 正直、腕も足も背中も痛い。油断してたせいで、ダメージが思った以上に深刻だ。

 前方ではライオネルがゆっくりと立ち上がるところだった。首がいつの間にかくっついてる。


「ああああアあアアアあaあアああAあ!」


 ライオネルの身体が蠕動ぜんどうしている。


「ぞぉルゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ!」


 怨嗟の籠もった絶叫に近い金切り声が上がったかと思ったら、ライオネルの身体が爆発的に膨らんだ。まるで某緑の肌のヒーローみたいに。あるいはゾンビ退治のゲームに出てくるバイオ兵器か。見た目の醜悪さで言うなら、断然後者か。

 もうあれをライオネルと呼んでいいのかすら分からない。

 ただ分かることは、いまは全力を持ってアレを止めないといけないということだった。

 さっき吹っ飛ばされた時に落としていた剣を拾い、それを構えたままライオネルへと突進していく。


「ライオネルッ!」

「ゾォォォォヴゥゥゥゥゥ!」


 木の幹のような腕が振り降ろされるが、それを身を捩って回避し、すれ違いざまに斬りつける。刃は腕へと沈み込み、真っ直ぐと逆側へ抜け、腕を切断した。

 続けて胴を薙ぐ――浅いか。

 剣を振り切った僕へと、残った腕が振るわれる。

 更に踏み込んでそれを避け、前に進み出た勢いのまま心臓がありそうな位置へと剣を差し込んだ。

 どうだ――?

 だけど、ライオネルは心臓を貫かれたことなど意にも介さず、僕を振りほどこうと暴れまわった。

 なんとなく効果がない気はしていたので、すぐに回避行動に移り、また剣で斬りつける。

 腕、足、胴体、胸、肩、首、顔。

 回避を繰り返しつつ、次々と斬撃を加えていくが、ライオネルが怯む様子はない。それどころか、いつの間にか切断したはずの腕が元通りになっている。

 戦闘中にとんでもない速度で再生したのだ。

 それだけじゃなく、さっきからずっと斬った端から再生していっている。

 心臓を貫いても、首を切り落としても死なない。傷はすぐに再生する。

 ――不死身

 その言葉が脳裏を過ると共に、昔の記憶が再生される。




 スカジは僕とフィスを座らせて、いつものように講義を開始した。


「世の中には不死者と呼ばれる存在がいる」

「え、死なないってこと?」

「そうさ」

「そんなのいるの?」

「あぁ。数多くいる魔獣やそれに類する者の中でも特に厄介なのさ」

「死なないって。そんな奴が出てきたらどうしたらいいの」

「今日はその対応について説明するよから、よく聞くんだよ」

「「はーい」」


「実は不死者と言っても、場合によっては殺すことが出来る」

「え、それじゃ不死者じゃないじゃないかって? そうだね。確かにそうなんだけど、不死者っていうのは、死という概念から逸脱したモノの総称だからね。死なないにしても、滅ぼしたりは出来るんだ」

「一番ポピュラーな所で言うなら、ゾンビやウィスプかね。ゾンビは動く死体とも言われて、そいつらは心臓を破壊しようが、頭を切り落とそうが動き続ける。だけど、あくまで人の構造をしているから、手足を失えば、もう動くことができなくなる。ついでに燃やして跡形もなくせば消滅する。ただ、ゾンビの場合は死霊術師ネクロマンサーが操っている場合がほぼ全部だからね、そっちをなんとかすれば、ゾンビは動かなくなる」

「ウィスプは霊魂だと思われがちだけど、実はアレは魔力体なのさ。人の魂ってのさ依代もなく現世に留まれるほど強くはない。だから魔力で魂を覆い繋ぎ止めてるのさ。物理攻撃の一切は効かないが、所詮は魔力の塊だから、魔力で吹き飛ばせば簡単に霧消する。そうすれば魂も晴れてあの世行きだ」


 そんな感じで様々な種類の不死者について教えてもらった。


「次は再生能力が高い不死者だね。肉体をいくら損傷させても、すぐに再生しちまう類のやつさ。あいつらには大体の場合、核と呼ばれるものが体内の何処かに存在していて、それを壊せば倒せる。逆に言えば、それを壊さない限りは再生を続ける。核の場所は、どう再生するかに依って判断できる」

「核がある位置を中心に再生するからね。例えば、頭に核がある場合、頭を切り落せば、頭から身体が再生されて、切り離された身体は動かないまま。逆に胴体に核があれば、首を切り落せば、胴体から頭が生える」

「ま、ほとんどがどっちかにあるけれど、性格の悪いヤツなら、何故か腕とかに仕込むからね。その辺は切っていけば、どのみち判断付くさね」




 その話を思い出しつつ、僕はライオネルの足を斬った。すると胴体から足が再生してきた。実はさっきから試していて、そろそろ当たりが付けられそうになっている。具体的には胴体のどこか。


「って、デカイんですけど」


 肥大化した影響で、ライオネルの胴体は大人でも抱えきれないほどに大きい。そこから核をピンポイントで突くのは結構厳しい。

 そこで、スカジから学んだもう一つの対処法。


「要はダメージを与えればいいんだから」


 僕は大ぶりの攻撃を躱し、懐へ入り込んだ。そして再び剣を胸に突き立てる。


マトイ――カヅチ!」


 魔力は電気へと変換され、僕の全身が帯電し、そしてそれは剣を伝ってライオネルの身体へとはしった。

 ライオネルは声を発することなく大きく痙攣すると、全身を焦がして倒れた。

 スカジの教え、それは。


「何処か分からないなら、丸ごと攻撃すればいい」


 という、なんとも脳筋な戦法だった。

 もし核が何処かにあるタイプなら、今ので相当なダメージを負ったはず。

 少し間合いを取って様子を見る。さっきみたいな油断はしない。ついでにこの間に自分に治癒魔術を掛けておく。ぶっちゃけそろそろ脇腹の痛みが無視できないレベルになってきたところだった。多分、折れてるかヒビが入ってるかしてるなコレ。


「た、倒したの?」


 恐る恐るシシリーが声を掛けてきた。


「いや、まだ分からない。そこから動かないでね」

「う、うん」


 さてどうだ。動くか。動かないか。


「動いてくれるな」


 しかし祈りも虚しく、ライオネルの身体はゆっくりと起き上がった。身体の所々に火傷を負っているけれど、活動を停止するほどではないようだ。


「ぐ、ががが、があ、ぁぁあああああああ」


 しかも、更に身体が膨張した。


「嘘……だろ……」


 エインが呟いた。

 同感だ。なんだこれ。

 ライオネルの身の丈は、いまや3mにも達していた。質量保存の法則とかこの世界にはないのか。まぁ、ないだろうなぁ。


「うっがっ。ぞぉる。ぞぉぉるぅぅ」

「うーん、相変わらず僕しか見えてないぽいな。これ嫌われてるっていうか、逆に好かれてるんじゃない」


 ちょっと軽口でも叩かないとやってらんない。


「ぞぉぉぉぉぉるぅぅぅぅぅう!」


 ライオネルが巨体を揺らしながら突進してきた。図体の割に速い。けど対応できない程じゃない。

 丸太という表現でも生易しい程のおおきな腕が叩きつけられ、地面に亀裂が入った。なんて馬鹿力。速いし強い。これは厄介だ。

 僕だけを狙ってるから大丈夫だと思うけど、万が一にもシシリー達の方へ向かわせたらダメだ。多分、ヒルダの防御障壁じゃ一度耐えられたら御の字ってくらいだろうから。

 よし、まずは機動力から奪う。

 叩きつけを躱したまま背後に回り、足に斬りつけた――が、刃が通らない。剣は数cmだけ足に食い込み、そこで止まっていた。


「嘘でしょ。速度、腕力だけじゃなくて防御まで上がってるの」


 けど動揺している暇はない。それならそれで、次の手を打たないと。


「これならどうだ。纏雷マトイカヅチっ」


 さっきより強めの電流を流し込む。


「ギャアッ」


 ライオネルの身体が大きく跳ねるが、それだけだった。すぐに僕を振り払いに掛かってきた。


「電流に対する耐性も上がってる? まさか、さっき受けた攻撃に耐性がついてってるのか」


 そんなの厄介どころの騒ぎじゃない。

 多少のダメージはすぐに再生して、さらに受けた攻撃について耐性が付いていく。おそらくこの調子なら、まだ巨体化とそれに伴う腕力の増大もあるだろう。

 こんなのどうしたらいいんだ。

 スカジ。スカジは何か言ってたか。思い出せ、思い出すんだ。

 ただ回避に専念して、スカジが言っていたことを思い出す。


「――あ」


 思い出した。

 そういえば、言われていた。核の破壊も困難な相手への対処法。


「けど、それには時間が掛かる」


 準備が必要だ。数十秒――いや、数秒でいい。ライオネルの動きを止めて、攻撃にのみ集中できる時間が欲しい。

 だけど目の前の相手は、その数秒すら待ってくれる様子はない。今も我武者羅に腕を足を振って攻撃してくる。スタミナ切れも駄目だろう。むしろ、こっちが先にバテそうだ。


「これはどうだ――隆起壁アースウォール!」


 ライオネルの周辺の土が殺到し、身体を拘束――出来ない。一瞬で抜け出されてしまった。くそ、土や岩程度じゃすぐに壊されるか。

 前にやったみたいに水蒸気を発生させるか?

 ダメだ。まかり間違ってシシリー達の方へ行ってしまったら目も当てられない。

 目眩ましがダメなら、やっぱり拘束するしかないか。でも、ここには使えそうな頑丈なものはない。土じゃすぐに壊される。土の強度を上げるには、それまた時間が必要だ。時間を作るために、時間が必要になるなんて、冗談にしても笑えない。

 くそ、こんな時にフィスがいてくれたら拘束してもらえるのに。というか倒してしまえそうだ。


「だー! 無いものをねだっても仕方がない! いまは僕が一人でなんとかしないと」




「くそ! 俺たちには何も出来ねぇのか!」


 ソールが戦っている時、エインは自分の不甲斐なさにほぞを噛んでいた。


「わ、私たちで力を合わせれば少しくらいは役に立て――」

「無理です姫様。私達では足手まといにこそなれ、役に立つことなどないでしょう」

「で、でもっ」

「あんな嵐のような中に飛び込んでいけるとお思いですか? ソール様が簡単に回避なさってるように見えますが、私達が立ち入ろうものなら、一瞬でボロ屑のようになるだけです」

「そんな……」

「そうだ! それなら弓とか魔術で遠距離から攻撃すんのはどうだよ」

「それも駄目です。もし仮に、それでこちらにターゲットが向いたらどうするのですか? ソール様はいま、自分だけが狙われているから、思うように動けているのです。私達を守らねばならないとなれば、いくらソール様と言えど厳しいものになるでしょう」

「うぅ。じゃあ、私たちはこのまま見てるしかできないの!?」


 それは悲鳴にも似た叫びだった。シシリーの悲痛な顔を見てなお、ヒルダは首を横に振った。振るしかなかった。


「私達に出来る事などなにもありません。出来るのは祈ることだけです」

「くそが!」


 エインの拳が地面に叩きつけられた。彼にはその拳が、あまりにも弱々しいものに見えた。昨晩、頼れと自分は言った。友達だから困ってたら手を貸すと。その時は本気でそう思ったし、実際に力になれると思った。しかし現実はどうだ。自分は他人が作った守りの中にいて、友達が闘っている様を見ることしか出来ない。

 力がない。

 自分には圧倒的に力がない。

 その事実がエインに重くのしかかっていた。


「私は何のために、ずっと鍛えてきたんだろう……」


 シシリーも悔しさに涙を滲ませながら、ソールの戦いを見ていた。

 最初は一緒に遊んでいる感覚だった。稽古が好きなわけじゃなかった。ソールと遊んでいるのが楽しかった。だから、剣と魔術の稽古をしていた。

 ソールが失踪してからは強くなるために剣を取った。大事なものを守れる強さがほしいと思った。ソールやフローラが襲われた時、彼女はその場にいなかった。だからどうしようも出来たはずもない。けれど、それが切っ掛けだった。自分が強くあれば、きっと守れるものは増える。それに剣の稽古はソールとの繋がりでもあった。だから彼女は剣の稽古に明け暮れた。強くなるために。ソールを忘れないために。

 だけど、今はどうだ。

 強くなった。同年代で敵うものは居ないほどに強くなった。

 おそらく大人とも対等以上に渡り合える。

 けれど、いまの彼女は何も出来ない。

 出来ることはなにもない。

 何も守れない。

 守られるだけの存在。


「私は何の為に――」


 滲む視界で、シシリーは壁の向こうを睨みつけることしか出来なかった。




「あー、もう。いっそ足でも引っかけて転んでくれないかな!」


 間断なく攻撃してくるライオネルに、ソールは悪態をついた。思った以上に隙がない。我武者羅に振り回しているだけだと思った腕は、実はそれなりに意味のあるものだった。知性のない化物ではない、人が創り出した体術のような動作。もしかしたらライオネルとしての知性が残っているのかもしれない。それを喜ぶべきか嘆くべきか。

 いや、嘆くべきだろう。なぜなら、


「もうさすがに殺さないって選択肢はないしね」


 出来るだけ殺したくはないけれど、事ここに来て、そんな甘いことをするような鍛えられ方はしてないし、育ち方もしてない。


「それはいいんだけど、このままじゃ本当にジリ貧だ」


 どうする。

 どうやって動きを止める。

 本当にいっそ足でも引っ掛けて転んでくれないかな。


「ん? 足……転ぶ……地面……あっ」


 そうだ、これは使えるかも!

 僕は少し距離を取って、再び隆起壁アースウォールを唱えた。ライオネルの足元の土がうねるように伸び上がり、まるで蛇のように足に絡みついた。


「がァッ!」


 だが、いとも簡単に蹴破られてしまった。


「もういっちょお!」


 同じ魔術を使い、同じように土で拘束に掛かる。そして当然それも簡単に破壊されてしまう。数秒どころか、1秒の時間稼ぎにだってなりはしない。

 けれど、それは計算通り!

 僕は次の魔術を唱え始めた。

次回更新は7月24日(月)7時の予定です

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