表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/98

6話 身体強化魔術

「それでは本日から身体強化魔術について教えます」


 魔術の授業が始まると、フローラは僕とシシリーにそう告げた。

 あ、やっぱりそういう魔術あるんだ。


「シシリー様は既に初級魔術を修め、ソールも中級魔術については教えられることは教えました」


 そして今は上級魔術を習ってるんだけど、これまたさすがに難しくて習得に手こずっている。魔力量は足りてるみたいなんだけど――これも5歳時にしてはありえないらしい――魔力のコントロールが難しくて、どうしても制御が僕の手を離れてしまうのだ。

 フローラいわく、逆に魔力量が多すぎるせいで制御し切れていない、と言われてしまった。

 なお、暴走しかけた時はフローラが相殺してくれている。上級魔術を事も無げに霧消させてしまう辺りは、さすがの一言である。


「身体強化魔術はランクとしてはくう属性の中級に当たります。シシリー様はまだ中級に手は出ていませんが、見る限りでは問題ないでしょう」


「やったっ」


 中級レベルでも大丈夫だと言われたシシリーが小さくガッツポーズをした。可愛い。

 5歳になったシシリーは相変わらず幼女らしく可愛いのだけど、たまに綺麗と思わせられてしまうことがある。末恐ろしい幼女である。

 魔術や剣の訓練中は、普段はコロネみたいなもみあげを後ろの髪と纏めて括っている。


「ではまずいつも通りに準備運動から始めます」


「はい」「はい」


 魔術の授業では最初に必ず魔力操作から始める。

 初級魔術を生み出せる魔力を捻出し、それを右手に集める。そして次は右足、左足、左手、頭と身体を一周させ、最後にまた右手に集めて魔術を放つ。


 使う魔法は回復系の初級魔術ヒールだ。最初は自分に掛けてたんだけど、シシリーがヒールを覚えてからは互いに掛けあっている。お互い怪我をしてない状態でヒールを掛けても仕方ないのだが、攻撃魔法を放つわけにも行かないので、ヒールになっている。

 ただ怪我をしていなくともヒールを掛けられると気持ちがいい。ぬるま湯に使ってるような、そんな気持ちよさがあるのだ。シシリーも心なしかうっとりしてるように見える。


 ちなみにシシリーだが、得意属性は回復だ。魔力のイメージは心臓のあたりに光球があって、そこから溢れてくる感じらしい。


「はい、終了」


 フローラの声で頭から考え事がとんでいく。


「それでは身体強化の魔術を教えます。身体を強化するには2つ方法があります」


 フローラが指を1本立てた。


「一つは詠唱をして、身体強化の魔術を使うこと」


 そしてもう1本指を立てた。


「もう一つは魔力を強化させたい部位に集中させること」


 ふむふむ。


「身体強化魔術は腕力、脚力、視力を強化する魔術と、防御力を上げる魔術があります。使い方は他の魔術同様、詠唱をして魔術を発動します。これの利点は発動してしまえば魔力が尽きるか解除するまでは消えない、ということです。欠点は詠唱が必要であることと、強化できる場所が限られていることです」


 ゲームで言うバフ系魔法ってことかな。


「次に魔力強化です。これは強化したい部分を魔力で満たすことで身体能力を上げる術です。利点は、思いのままの部分を強化できることと、継続時間が魔力さえあればずっと続く所です。欠点は、常に魔力操作に意識を割いていないといけないことです。集中が乱れると強化も失われます」


 こっちは魔術師より戦闘系のキャラが使いそうな強化だな。漫画とかなら闘気とか念とかオーラとか言うタイプだ。

 漫画なんかでは区別されるけど、この世界では魔力と闘気は同一のものっぽいな。


「はい、先生」


 シシリーが元気よく手を上げた。


「なんですか、シシリー様」


「よく分かりません!」


 これまた元気が良かった。

 まぁでも、確かに僕は頭は20歳+5歳でかつゲーム知識があるから理解できたけど、5歳時に今の説明は厳しいよね。

 フローラも今の説明で理解されるとは思ってなかったみたいで、特に動揺はしていない。


「一気に説明しましたからね。ソールは大丈夫ですか?」


「あ、はい。なんとなく分かります」


「さすがソール!」


 シシリー姫からお褒めの言葉を頂いた。

 訓練を始めた頃は割と対抗心を燃やされていたのだけど、今では尊敬されることが多い。そりゃ5歳時に比べたら出来る事は多いしね。ただ、完全に対抗心が無くなったわけではなくて、どちらかと言うと目指す目標として見られてるっぽい。


「ではシシリーに説明しましょう。ソールは魔力を操る練習をしてて」


「はい」


 言われたとおりに魔力操作の練習をする。

 これを教えられてから2年が経つけど、やればやるほど奥が深い。

 今では魔力をほぼ10割まとめることが出来るけど、それでも完璧じゃない。それと、魔力の移動も慣れれば速度が出る。最初は右手に集めるのに数十秒かかってたけど、いまは2秒位で出来るし、その魔力を左手に移動させるのも2秒位で出来る。きっと熟練すれば1秒を切れるはず。というか、フローラは出来るらしい。

 他にも魔力を分割して右手と左手に均等に分けたり、掌ではなくて指先に集中してみたりと、結構やれることが多くて楽しい。


「ということです。分かりましたか?」


「はい、分かりました!」


 魔力で遊んでいると、いつの間にか解説は終わっていたようだ。

 魔力遊びをやめて、フローラの方へ向き直った。


「さて、身体強化には2つの種類があることが分かったと思いますが、今日は魔術としての身体強化を学びます」


「今日はということは、今後魔力で強化する方も覚えるんですか?」


「そうね。集中さえ出来るのなら魔力で強化する方が便利だからね」


「では、最初からそちらを習得したほうがいいのでは?」


「それは難しいわね。まず身体強化のために魔力を集中するという現象が初見では想像しにくいのよ。前もって魔術を使った感覚を覚えていたほうがイメージがしやすいの」


「なるほど。有り難う御座います」


 確かにアニメや漫画のまんまならイメージは出来るだろうけど、実際にどうなるかは分かってないもんな。


「では、私がまず見本を見せます。まず腕力強化です」


 フローラは息を深く吸い、目を閉じて集中し始めた。


「源より生ずる破壊の力よ、我がかいなに無類の剛力を与え給え。腕力強化アームブーステッド!」


 詠唱が終わると共に、フローラの全身を淡い光が覆い、そして両腕に吸い込まれるようにして消えていった。


「ふぅ。今のが腕力強化の魔術です。分かりましたか?」


「はい、なんか先生の回りに光がパーってなって、腕にスーって入って行きました!」


 シシリーが見たまんまの分かりやすい感想を言ってくれた。言い方はともかく僕も大体同じ感想だ。


「そうですね。一応、どれくらい強化されてるか試してみましょうか」


 フローラはそう言うとどこからともなく鎧を取り出した。

 いや、ホントにどっから取り出したんだよ。

 鎧は筒状になっていて、おそらく上半身――それも胸のあたりだけを守るための比較的軽めのもので、かなりボロボロだった。


「大分傷んでますが、金属製ですからまだまだ硬いですよ。触って確かめてみてください」


 差し出された鎧を遠慮無く受け取ってベタベタと触ってみる。僕に倣ってシシリーも触りまくって、しまいにはガンガン叩いている。ただ言われたように強度はそれなりにあるようで、僕やシシリーみたいな子どもがどれだけ叩いてもヘコみすらしないだろう。というか、前世の僕でも無理だと思う。

 シシリーは殴った手が痛いのか涙目でうずくまっている。


 強度を確認した所でフローラに返す。


「普段の私では殴ったところで手が痛いだけで傷ひとつ付きませんが……はぁ!」


 フローラは鎧を床に置くと、瓦割りでもするかのように思いっきり鎧を殴った。

 重く鈍い音が室内に響き渡る。

 ど、どうなった?


「まぁこんなものです」


 フローラが鎧を持ち上げて僕らに見えるようにしてくれた。


「うわ」「おおー」


 若干引いたのが僕で、感心したのがシシリーだ。

 鎧は真中部分が大きく凹んでおり、くっきりと拳形がついていた。

 これじゃあ鎧着てても意味ないな。普通に死んじゃう。


 鎧を持つフローラの手を見てみるが、拳のほうは無事なようだ。赤くすらなっていない。


「腕力を強化すると、腕の強度も上がるんですか?」


「ん、いい質問ですね。結論から言うと上がります。ただ、これくらいの薄い鉄ならいいけど、もっと硬いもの殴ったら普通に拳が割れちゃうから気をつけて下さいね」


 じゃあ、言うほど硬くはならないのか。


「そういえば、さっき防御力強化の魔術もあるって言ってましたけど、それを一緒に使えば大丈夫ですか?」


「おお、更にいい質問ね。そうね、防御力強化の魔術を使えば腕のほうが壊れるってことは中々なくなります。ただやっぱり場合によったら手の方が負けちゃいますけどね」


「なら防御力を上げるなら硬いものを用意したほうがいいのでは?」


「んー、砦とかならそうなんだけど、いざ戦闘になると強度が高過ぎるものは必然重くなるから、のろのろ動いている間に他の方法でやられてしまいます。相手が腕力だけで攻撃してくるとは限らないですから」


「確かに」


「ただ、やっぱりある程度の強度の防具はあったほうがいいですね。ダメージの軽減にもなりますし、強化されてない攻撃なら弾くことも出来るかもしれませんから」


「なるほど、分かりました」


 フローラはいいとこのお嬢様だったはずなのに、実戦経験が豊富っぽいことをよく言う。

 いや、魔術の天才だって話は聞いたけど、貴族の娘が実戦に出たりするんだろうか?


 コレに関しては後ほどメイドさん――前に桃炎の暴姫の事を教えてくれた人だ――に聞いた所、よく屋敷を抜けだしては冒険者についていって魔物退治をしていて、前出の通り名もその過程で付いたとか。そしてスタルスと出会ったのも実は魔物退治をしていた時だとか。それ貴族の出会いじゃねぇよ。


「それでは早速やってみましょう。腕力ができたら脚力。それが出来たら視力。そして最後に防御力と進みます。呪文を覚えられなかったら聞いて下さいね。詠唱を間違えると意味無いですから」


「はい」「はい」


 よし、じゃあ早速始めよう。

 まずやることは、


「先生。呪文教えてください」


 1回で覚えられるわけないでしょう?




 僕もシシリーもこの日の内に脚力強化までは進めた。

 ただ、視力強化は思った以上に繊細で習得に手間取った為、明日へ持ち越しとなった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ