焚き火の向こうで確かめあったもの
さて、6人編成の小隊とは言っても、この世界のこの時代に細かな陣形はない。隊伍を組むくらいのことはするけれど、役割分担なんてものは無い。精々、指揮官が一人いるくらいだ。
だから僕は前世の俄知識による編成を提案した。
「整列して歩いても不用心なだけだから、役割を分けよう」
「え、なんで?」
「どういう事?」
いきなりの提案に疑問の声が上がる。当然のことだ。
「ほら、今は何もない平原――割合安全が保証された場所を歩いているけど、漫然と歩いているだけじゃ駄目だと思うんだ。これも訓練なんだから、実戦のつもりでやらないと」
「言いたいことは分かるけどよ、具体的にはどうすんだ」
「前衛と中衛と後衛に分かれて全方位を警戒しながら進むんだ」
「それって、どうやるの?」
「まず前衛に一人、この人は前方を警戒する。次に指揮官で、その両隣に左右を見る人、それで後方警戒及び殿に一人。前から見ると、1、4、1って配置になる」
言葉だけじゃ分かりにくいと思って、地面に図を書いて示した。
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○ ○○ ○
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「前衛は目がいいエインで、指揮官にシシリーと補佐にヒルダ。その左右にレヌアールとベノワ。後衛は一番足の早い僕がやるよ。間隔は10mくらいかな」
確かアニメとかはこんな感じでやってた気がする。浅い知識だけど、それなりに有効だと思うんだけど。
「凄いね、ソール! 軍師みたいな事も出来るんだね!」
「へぇ、こんな事考えたこともなかったぜ」
シシリーとエインは手放しで褒めてくれた。けど、ヒルダは少し訝しげに図を見ていた。
「少し気になるのですが。シシリー様を中心とした陣形を張る事には賛成ですが、これは距離が開きすぎではないですか。10mも離れては、一息で加勢に行けません。下手をすれば孤立します」
「う、言われてみれば」
「私達全員が魔術などの飛び道具があればいいですが、これなら密集した方がいいでしょう」
「う、うう」
ヒルダの目が辛いっ。
確かにその通りだ。僕には詠唱なしで放てる魔術――炎弾――があるけれど、普通はそうも行かないもんな。そもそも、あの陣形って銃ありきの近代戦のアニメでやったんだっけか。
「ですが、ある程度は有効でしょう。距離を詰めた陣形でいきましょう」
「はい、分かりました」
素直に頷くしかなかった。
そんな遣り取りを経て、適度に休憩を挟みながら僕らは順調に進み、予定地点で行軍を止め、キャンプを張った。
少々手間取って、準備が終わる頃には日が沈みかけていた。
「さって、飯も食ったし、寝るとするか!」
「ちょっと待ってエイン。見張りの順番決めないと」
「あ、そっか」
さすがに野外で全員一緒に寝るわけには行かないので、ローテーションで見張りと休息を交代する事になっている。夜明けまで推定で六刻(12時間)の間、見張りは2人で、おおよそ一刻毎に交代する。もっと長くすればゆっくり休息が取れるが、あんまり見張りの時間が長いと集中力が切れるからだ。
というわけで最初の見張りは僕とエインになった。
他の4人は、一応いつでも動き出せる格好をしたまま休息に入った。
朝から歩き通しで疲れていたんだろう。すぐに寝息が聞こえてきた。
僕とエインは皆に気遣って声を出さないようにしていたが、あんまり退屈だったせいか、どちらかともなく小さな声で話し始めた。
「授業でこんな事言うのもなんだけどよ、結構楽しいなこれ」
「そうだね。遠足みたいだ」
「遠足?」
あ、こっちにはそういう風習ないのか。
「何人かで遠くに出かけることだよ。まぁ、基本的には日帰りだけどね」
「へぇ、お前は本当に色んなこと知ってるよな」
「そんな事ないよ」
「いやいや。今日だってそうだぜ。隊列? んな事知らねーし、授業でも聞いたこともなかったぜ。どこでそんな知識仕入れてくんだよ」
どこで。
困った。どう答えよう。まさか本当のこと言うわけにはいかないよね。信じてもらえないだろうし。
「うーん、僕の知識のほとんどは師匠に教えてもらったんだ」
「師匠?」
「そう。スカジって言って、フィスの母親なんだ」
「あ、やっぱフィスの親もすげーんだな」
「そりゃもうね。世界一強いんじゃないかって思うくらいだよ。それに何でも知ってる」
「はー。そりゃすげぇ。普通なら眉唾か言い過ぎだって思うけどよ。お前やフィスを鍛えた人ってんなら、納得しちまうよ。そうか、そんなすげぇのか……」
エインが空を仰いだ。
なんだか少様子がおかしいような。エインはそのまま空を見上げている。
「エイン?」
「ん? あぁ、すまねぇ。ちょっと考え事をな」
「悩み事なら聞くよ? 僕じゃ頼りないかもしれないけど」
「あー、いや、そうじゃねぇんだ。気にすんな。つか、お前は頼りなくなんかねーよ。むしろ、お前以上に頼りになるやつを俺は知らねー」
「いやいや、それは言いすぎでしょ」
「んな事ねーよ。マジで頼りにしてる。お前みたいな友達がいて、俺は幸せもんだよ」
「ダチ……」
「なんだよ。違ったか?」
「ううん、そうじゃない。何だかハッキリ言われると、何だかむず痒くって。でも、嬉しいよ」
「お、おう。そうか」
エインが照れたようにそっぽを向いた。
「まぁなんだ。なんかあれば、お前も俺を頼れよ」
彼は頭を掻いてから、悪戯げに笑った。
「頼りないかもしれないけどな」
「それさっき僕が言ったやつ」
そう返すと、僕らは顔を見合わせて笑った。
周りで寝ている皆を起こさないよう静かにしないといけなかったけど、つい吹き出してしまった。笑顔がこらえられなかったんだ。
ひとしきり笑ったあと、僕らは目を合わせた。
「俺達はダチだ。ダチってのは対等だ。お互いが困ってたら、お互いが手を貸す」
「うん、頼りにしてるよ、エイン」
「ああ」
僕らは握りこぶしを合わせて、また笑顔を作った。
「あ、もう時間だね」
「もうか。一刻も何すんだって思ってたけど、喋ってたら案外すぐだったな」
というわけで、次の見張り役であるシシリーとヒルダを起こすことにした。
「シシリー、起きてー。見張りの交代の時間だよ」
声を掛けると、シシリーはまるで起きていたかのようにすぐに目を覚ました。
「お、おはよー、ソール。見張りの交代かなっ」
「うん、そうだけど。シシリー、随分と寝起き良くなったんだね」
前は殺されそうになっても全然起きなかったのに。まぁ、あれは小さい時の事だし、そりゃ変わるか。
「えっ。べ、別にずっと起きてたわけじゃないよ。ソールとエインの話なんて聞いてないからね!」
「え?」
「え?」
まさか、ずっと起きてて話聞いてたの?
別に聞かれて困るような話はしてないからいいけど。
「ところでソール」
「なに?」
「明日の見張りは私としようね。それで、私もお喋りしたいなーなんて」
それはもはや自白も同然だった。
初日の夜は特に問題なく過ぎた。ちょっと心配だったので、僕はずっと深い眠りには付かず、半分起きてるだけの状態になっていた。お蔭でちょっと眠い。
「よし、それじゃあ出発しようっ」
準備が整った事を確認し、シシリーが僕らを見回して言った。こういう時に自然にリーダーシップを取れるのは、やはり上に立っている者ということなんだろうな。
2日目は森に入るルートだ。
森の中では速度が落ちることを考慮して、初日にすぐ近くまで来てキャンプをしていたので、歩き出してすぐに森が見えてきた。
「この地図によれば、あの森の薄い所を突っ切って、その先に折り返し地点があるみたいだよ」
本日の地図担当のレヌアールが指差して言った。
「そうなの? 結構深そうな森だよ。すぐに抜けられるかなぁ」
「えっ。で、でも地図ではほら」
「ほんとだ」
周辺の地形を考慮しても、方角は合っている。うーん、見る分には深そうだけど、実際はそうでもないのかな?
「ほら、地図のとおりに行かなきゃだろ」
「うーん、そうだね」
いまいちしっくり来なかったけど、地図を疑っても仕方ない。このルートは騎士団の人たちがチェックしてるはずだし。もし危険な方に行きそうなら、周囲を巡回している騎士団の人が止めてくれるはずだ。
歩いていくと、少しずつ木々が増えていく。木があると、避ける時に進行方向がズレたりするから注意が必要だ。
「ん? あれなんだ」
左側を見ていたエインが声を上げた。その視線の先に、何か鈍く光るものが落ちていた。
拾い上げたそれは、鉄製の何かの破片だった。
「これは、鎧の一部のようですね」
ヒルダが皆の疑問に答えた。
「こんな所に鎧の破片?」
「以前、この辺りの魔獣を討伐する時にでも落ちたのかもしれません」
その破片はまるで強い力でねじ切られたような形をしていた。こんな攻撃を受けたなら、その人も無事では済まないだろう。
「でも、ここ最近で騎士団に殉職者や重傷者が出たって話は聞かないぜ」
「ならば、もっと前の物でしょう。この辺りも昔から人間の領地というわけではなかったでしょうから」
「学園都市ならなおさら新しい街だもんな」
なるほど、と僕らは納得し、その破片を元の場所に置いた。そして――亡くなってるかは分からないけど――軽く祈りを捧げて、再び歩き出して森へと這入っていった。
今回は長くなると言ったな。あれは嘘だ。
すいません、今週も時間なくて短くなりました。
次回更新は7月3日7時の予定です




