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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
3章 ユミル王立士官学園 第二片
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禍根

前回は月曜に更新してます。最近は週二更新になっているので、前の話を読んでない方はお気をつけください

 結局、その日の内にライオネルは戻ってこなかった。でも、戻ってこなくてよかったかもしれない。僕が顔を合わせづらいのもあるけれど、それ以上に教室の空気が……。

 僕が怒ったことについては然程気にされてはいなかった。それと言うのも、皆の関心はそれよりライオネルが情けない姿を晒したことについてだった。

 僕に凄まれて、情けなくも腰を抜かして、更に膝を震わせて立つことすらままならなかった。挙句、一度は振り払った取り巻きの手を借りて逃げた。

 その事実が嘲笑の的になっている。

 ライオネルが普段から威張り散らしていて、周囲の不興を買っていたのが拙かったのだろう。

 ホームルームが終わり、下校になってもそれは続いた。

 うん、戻ってこなくてよかった……。


 ちなみに僕も何故教室に残っているのかというと、壊した机の修繕をさせられているからだ。

 うーん、スカジの家で日曜大工をしていたのを思い出すなぁ。あそこは何もかもが手作りだったし。椅子なんかは成長に合わせて、高さも変えていったから、何度作り直したことか。机は、自分用の勉強机なんかも作ってた。木材はそこら中にあったし――っと、こんなものかな。

 僕は修繕を終えた机を見回した。


「すごーい、ソールってば机も作れるんだね!」


 横でずっと修理するさまを見ていたシシリーが大げさに手を叩いて喜んだ。


「これくらいなら、シシリーも作り方さえ分かれば簡単だよ」

「そうかなぁ」

「なんなら、今度一緒にやってみる?」

「ほんとっ?」

「駄目です」


 ヒルダがピシャリと止めた。


「シシリー様、そのような事は専門のものにさせればよいのです。御身はそのような事をするためにあるのではないのです」

「えー、いいじゃない」

「駄目です」

「うー、ケチ」

「ケチで結構です」

「ま、まぁまぁ。別に机を作るくらいいいじゃない」

「貴方は黙っていてください」

「ご、ごめんなさい」


 うぅ、ヒルダ怖い。

 まぁ、日曜大工は折を見て、教えられそうなら教えよう。


「とりあえず、やることもやったし帰ろうか」

「うん、そうだね」

「遅くなっちゃったけど、シシリーは大丈夫だった?」

「うん。私は学園終わっても部屋に戻るだけだから」

「あ、そうか」


 迂闊に出歩いては問題になりかねないもんな。基本はずっと自室、あるいは学園内になるのか。


「じゃあ、また明日ね」

「うん、また明日」


 その笑顔を見送りながら、いつか一緒に遊びに行きたいと思った。




 翌日からライオネルは登校してきてたけれど、当然近くに来ることはなかったし、目を合わせることもなかった。合わなかっただけで、めっちゃ見られてる気配はしたけど。

 一応、昨日は暴力に出てしまったことを謝りたかったのだけど、ひたすら避けられてて叶わなかった。

 そうして大したことはないまま時間は過ぎ、放課後も近くなったとある休憩時間。一人になったタイミングで、ライオネルといつも一緒にいる男子生徒が声を掛けてきた。


「ライオネル様から伝言だ。放課後、第一三訓練場に一人で来い。分かったな」


 彼はそれだけ言うと、足早に立ち去ってしまった。

 訓練場に一人でか。なんだろう。なんにせよ、良い予感はしないな。

 と言っても、僕は誰にこの事を話すでもなく、皆に断りを入れて、一人で学園に残った。

 第十三訓練場は、訓練施設の中でも奥まったところにあり、人目につきにくい。

 訓練場の入り口には、さきほど僕に伝言をした男子生徒――名前は、えーっと、なんとかルグくん――が立っていた。


「来たのか……」


 なんとかルグくんは少し残念そうに目を伏せ、


「こっちだ」


 俯いたまま場内へと入っていった。このまま着いていかなかったらどうなるかななんて思ったけど、さすがに悪いので後について歩く。

 そしてすぐに試合場が見えた。その中心にライオネルが立っている。


「ふん、逃げずに来た事は褒めてやろう」

「うん、僕も用事があったからね」


 その言葉に彼は眉を僅かに動かした。


「昨日、君が言ったことは僕には許せないことだったけど、すぐに暴力に訴えてしまった事は悪いと思ってるんだ。ごめん」


 そうして軽く頭を下げる。

 これで水に流してくれたらいいなぁ。僕も昨日言われたことは、これ以上気にしないようにするし。

 そう思いつつ顔をあげると、ライオネルの顔が紅潮して震えていた。


「貴様――」


 あれ? なんか凄く怒ってない?


「おい、出てこい!」


 ライオネルが大きな声を出すと、周囲に隠れていた人がぞろぞろと出てきた。全員が全員、手に何らかの武器を持っている。ここから見る限りだと、一応刃引きがしてある訓練用のものみたいだ。

 うーん、なんてベタな展開。


「ソール! 今なら貴様が地べたに這いつくばって、これまでの非礼を全て謝り、今後俺に忠誠を尽くすと誓うなら、許してやってもいいぞ」


 これまたベタな!


「謝るのは、いま謝ったじゃないか」

「あの程度で足りるか! 俺が味わった屈辱――その程度で贖えると思うな! 本来なら! 死をもって償わなければならないが、慈悲深い俺が、命までは許してやろうと言っているのだ!」


 僕はぐるりと囲んでいる連中を見回すと、決めた。


「うーん、僕はこれ以上は謝る気はないし、君に忠誠を誓うつもりもない。でも、確かに負い目はあるから、殴るなら好きにすればいいよ。僕からは決して反撃はしない」

「なん……だと……。貴様、何を言っている」

「聞いての通りだよ。殴って気が済むなら好きにすればいい。でも、そうしたら、これっきりにして欲しいんだ。この前のは手打ちってことで」


 僕の提案に、ライオネルはもうこれ以上無いってほどに顔を赤くすると、堰を切ったように叫んだ。


「いいだろう! ならば貴様の望みどおりにしてやる! お前ら! やれ!」

「い、いいんですかい?」


 ライオネルと周りの奴等はちょっと温度差があるみたいで、私刑にちょっと怖気づいている。


「いいからやれ! これは命令だ!」

「う、うっす!」


 けど、だからと言って止めるわけもなし。

 全員が一斉に僕へと殴りかかった。いくつもの武器が僕の身体を痛打する。激しい打ち付ける音が幾重にもなり、訓練場内に響いた。

 次いで、武器が地面に落ちる音が続いた。

「ってぇ」「し、しびれ」

 僕に殴りかかった奴等が次々に武器を落としている。

 対して僕は、最初の状態から微動だにしていない。


「な、な……貴様! 何をした!」


 状況が飲み込めていないライオネルが叫んだ。

 簡単なことだ。

 単純に、防御障壁を張ったに過ぎない。僕だってさすがに無防備な状態で殴られたら命にかかわる。これくらいはするさ。


「くそ、お前ら! 何をやっている! さっさと殴れ! 早くしろ!」


 ライオネルが檄を飛ばし、それに追従する形で武器が振られるが、やはり全て僕の身体――防御障壁――に遮られる。

 ライオネルがどれだけ叫ぼうと、周りがどれだけ殴ろうと、僕は微動だにしない。

 身体強化ブーステッドもなし、上級魔術もなしのまま破られるほど、やわな防御はしていない。

 そうして数分程度で、僕の周りに動けるものはいなくなった。

 硬いものを全力でがむしゃらに殴り続けるというのは、実は相当に疲れる。数分間もやり続けてたら、学生程度ならバテるだろう。手も痺れて、武器なんて持てる状態じゃないはずだ。気になる方は、金属バットでコンクリか金属製の頑丈なものを叩いてみると同じ気持ちになれると思う。

 そんな状況に業を煮やしたライオネルが、腰の剣を抜き放った。


「情けない奴等目! いいだろう、俺自らちゅうしてくれるわ!」


 彼が抜いた剣は、刃引きのなされていない――真剣だった。


「ちょっと待てライオネル」

「ライオネル様だ!」

「刃引きをしてある剣で殴りかかってくるのは、まだ許容する。けれど、真剣はダメだ。真剣で斬れば相手がどうなるか分かるだろう?」


 それは完全に命に関わってくる。


「くくく、なんだ? 怖気づいたのか?」

「そうじゃない。真剣を使うってことは、相手の命を奪う意思をもって武器きょうきを振るうということになる。そうなれば、もう話が変わってくる」

「はっ、命乞いか」

「だから違うって。真剣の、相手の命を奪う武器を使うってことの意味、分かっているでしょ?」


 別に真剣を使われた所で、ライオネル程度の攻撃ならやはり障壁は破れない。でも、これはそういう問題じゃないんだ。


「分かっているとも。安心しろ。俺が貴様を殺した所で、大した騒ぎにはならん。貴様は俺を怒らせたことを食いながら、死ね」


 ライオネルは抜き身の剣を持ったまま近付いてくる。

 本気か。

 それとも、その重さを分かってないのか。

 ――どっちにしろ、剣を向けられるなら僕も話は変わってくる。


「分かった。ライオネル。それなら、覚悟をするんだ」

「は?」

「相手の命を奪おうとするなら、自分の命も奪われるという、当たり前の覚悟だ」


 凶器さついを向けられて、平静を装えるほど、僕は達観していない。

 そもそも、スカジには殺意を向けられたら、反射的・・・にスイッチが入るよう訓練されているんだ。

 僕は腰を落とすと、素手のまま構えた。

 そして――殺意を向けてくるライオネルに、同じように殺意を向けた。


「えっ」


 するとライオネルは情けない声を出して、その場に崩れ落ちた。そしてカタカタと震えながら、ズボンを濡らした。

 昨日の怒りと違って、今回は純粋な殺気だ。慣れてない、あるいは覚悟が足りてなければ、戦意は失われる。

 すっかり気の抜けたライオネルを置いて、僕は踵を返した。


「ライオネル、約束は守ってもらうよ。僕は好きに殴らせた。だから、君は僕にはもう関わらないで」


 背中を向けたままそれだけ言うと、棒は訓練場を後にした。







 僕が去り、従えていた生徒たちにも逃げられ、一人になったライオネルは僕の背中を幻視していた。

「あ、あああ、あああああ、あああああああああ」

 声にならない声はやがてきょうきを為していく。

「コロスユルサナイコロスユルサナイコロスコロスコロス――」

 訓練場に怨嗟の声が木霊していた。

次回更新は6月19日(月)7時予定です

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