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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
3章 ユミル王立士官学園 第二片
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マザコンの上にシスコン疑惑まで浮上

 本屋の後は雑貨屋に入った。店内は先ほどの本屋と打って変わって、非常に洒落た内装をしていた。品数よりもレイアウトに重きを置いているといった風だった。

 女の子向けの可愛らしい置物や髪飾りなどが並んでいる。

 その中に、一風変わった物を見つけた。

 一本の細長い棒の先に丸い飾りがついている。


「これは……かんざし?」

「カンザシ? なんなのそれ?」


 フィスが僕の横から覗き込んできた。


「これ、多分かんざしだと思う。要は東洋の髪留めなんだけど」

「へぇ、可愛いわね。デザインがとっても不思議。カスミも知ってるかしら」

「どうだろ。多分、海皇国のものだし、知ってるんじゃないかな」

「さっきの本もだけど、裏通りって東洋のものも扱ってるのね。珍しい」


 確かに珍しい。僕らはスカジに色々な所に連れて行って貰ったけど、海皇国語の本や簪を見るのは初めてだ。なんだろう。この国か、あるいはこの街が特別東洋に縁があるんだろうか。


「よし。カスミにこれ買っていってあげましょう。赤いからカスミの黒髪にきっとよく似合うわ」


 フィスはそう決めると、一直線に店員へと向かった。人見知りでも、こういうのは話しかけられるらしい。

 店員さんが用途の確認と、一応使い方を軽くレクチャーしてくれている。サービスいいなぁ。

 その間、軽く店内を見回ってみる。

 うん、女性ものばかりで僕が使えそうなのはないな。

 少ししてフィスが戻ってきた。


「ソール、終わったわよ。次のお店行きましょ」




 しばらく色々なお店を回っていると、何時の間にか太陽が傾き始めていた。

「姉さん、そろそろお昼にしない」

「そうね。言われてみれば、とってもお腹が減ったわ」

 というわけで僕らは遅めの昼食を取ることにした。




「いらっしゃい。おや、ソールくんにウェネーフィカくんじゃないか」

「どうも、ケイ先輩。まだランチってやってますか」

「うーん、もう終わってるけど、二人なら言えばマスターが作ってくれるさ。さ、好きな席に座るといいよ」

「はい、ありがとうございます」


 僕らが選んだのは、結局コールブランドだった。

 というか時間が遅いせいで、ほとんどのお店でランチが終わっていたのだ。正直、ここなら何とか食べられるのではないかと思って来た。


「ふぅ、よかったわ。もうお腹すきすぎて死んじゃうかと思ったわよ」

「あはは、ごめんね」

「なんでソールが謝るのよ。悪事してないのに、すぐ謝るのはソールの悪い癖よ」

「あー、ごめ……あはは」


 また謝りそうになってフィスに睨まれたので、慌てて口を止めて愛想笑いで誤魔化した。すぐ謝るのは日本人の気質というかなんというか。生まれ変わって12年経つけど、中々抜けないなぁ。

 少ししてやって来たランチに舌鼓を打ち、さらに食後のデザートを楽しみつつフィスと今日回ったお店の感想などを言い合っていると、やけに騒がしい一団が入店してきた。

 物凄いきゃいきゃいと黄色い声が飛んでいるけど、僕に関わりのあることじゃないし、と思って見ないようにしていた。店内で問題になったら何かしようとは思うけど、騒がしい女の子の集団なだけでは何ともあるまい。

 フィスは最初から興味が無いようで、ほとんど反応せずに会話を続けていた。

 そこで、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


「へぇ、ここが最近噂になってるカフェなんだね」


 反射的にそちろを向くと、その声の主と目が合ってしまった。

 何人かの女生徒に囲まれたイケメンは、トリスタンだった。先日の序列戦でフィスに告白をしたアイツだ。ていうか、フィスに告白したのに女の子を侍らすなんて、なんて奴だ。


「おや、君は確か……っと、貴女はミス・ウェネーフィカではないか」


 名前を呼ばれたフィスが、ここで初めて反応した。


「え? アンタ……えーっと、そうトリスタンじゃない」

「名前を覚えていただいて光栄だよ。えっと、それで隣の彼は……」

「ソールですよ、トリスタン先輩」


 僕はずいとフィスとトリスタンの間に割り込んだ。


「あぁ、そうか。いや、すまない。男の名は中々覚えられなくてね。君は確か、学園が襲撃された時に戦っていたよね」

「ええ」

「ふむ」


 なんでかトリスタンはこっちをジッと見てきた。

 なんだろう。

 この人、なんか苦手なんだよな。

 この間、周りの女の子はずっと騒ぎ続けてるが、トリスタンは意に介した様子もなく、何かを考えている。

 うん、苦手っていうか、気に入らない。イケメンリア充滅ぶべし。

 いや、フィスに振られたからリア充ではないか。

 どっちにしろイケメン滅ぶべし。

 そう思って呪いを送っていると、


「君はミス・ウェネーフィカの恋人かね?」

「はぁ!?」


 とんでもないことを言い出した。


「おや、違うのかい? てっきりデート帰りか何かかと思ったんだが」

「お、弟です」

「そうなのか? しかし全然似てないな」

「大きなお世話です」


 確かにフィスは美少女で、僕は割と平凡だけども。

 そもそも血は全く繋がってないから、似てるわけがない。


「ふーむ。弟なら問題ないか」


 トリスタンは僕越しにフィスを見て、さらにとんでもないことを言い出した。


「ならばミス・ウェネーフィカ。これから俺とデートに行きませんか?」

「「はぁ!?」」


 この、よりにもよって僕がいる前でフィスをデートに誘うとは。


「お断りです。トリスタン先輩」

「君には聞いてないよ。俺は彼女に聞いているんだ」

「えー、トリスタンせんぱぁい。わたしたちはー?」


 取り巻きの女の子たちが口々に不満を露わにしている。そりゃ連れの男が急に他の女の子を口説きだしたら、文句の一つも出ようってものである。


「この埋め合わせは今度きっとするよ。ごめんね」


 バキューンと効果音が突きそうなウインクが飛んだ。

 女生徒たちは黄色い声上げて喜んでいる。

 うわ。やはりイケメン許すまじ。

 僕の中のイケメンへの偏見と敵意が膨らんでいく。

 ひどーいとかきずつくーとか女の子たちが言い続けているが、やはりトリスタンが意に介する様子はない。


「どうかな、ミス・ウェネーフィカ。正式な交際はもちろん俺が勝ってからだが、親睦を深めるのは今からでも構わないだろう」


 いいや、構うね! 構いまくるね!


「姉さんは僕と遊んでるんです。ご遠慮ください」

「だから、君には聞いていないと言っているだろう。というか、どいてくれ。彼女が見えない」

「知りません。どきません。お引き取りください」

「君は恋人でも何でも無い、ただの弟だろう?」

「ただのじゃないです。仲の良い家族です。なので、僕の目の前で姉さんは口説かせません」

「はぁ。全く、何なんだね君は。あれか? 弟のくせに姉が好きなのか?」

「えっ!?」


 好き?

 好きかって?

 いや、それは好きか嫌いかで言われれば好きだけどでもそれは家族としての好きであって決して女の子として好きとかそういうわけではなくてそうこの心配も純粋に弟として姉の恋人にコイツがふさわしいかどうかが疑問なだけであって僕がフィスを好きだから邪魔をしてるとかそういうことは一切なくて単純に家族として姉を慕う気持ちがってなんだかこれさっきも同じ事考えたような――


「トリスタン先輩。店の入口で突っ立たたれると迷惑です」


 僕がぐるぐる考え事をしていると、何時の間にかやって来てたケイが横から声を掛けてきて、僕の思考もそこでストップした。


「ふむ、君は確かキャ――」

「ケイです、トリスタン先輩」

「あぁ、そうだ、ケイ。武術科の女生徒の中で最も強い生徒だったか」

「褒めてくれているのなら有難うございます。でもそれは私にとっては侮辱です。二度と言わないでください」

「おっと、これはすまない。決して他意はないんだ」

「分からいました。分かりましたから、さっさと席に着いて注文をするか、そのつもりがないなら出てってください。邪魔です」

「ふーむ、そうか」


 トリスタンは少し考えると、顔を上げて僕の目を真っ直ぐ見て、またもとんでもないことを口走った。


「では場所を移そうソー……ルくん。そして、決闘だ。君が僕と彼女の邪魔をするというのなら、決闘でシロクロつけようじゃないか」

「はぁ!?」




 そして何故だが決闘をすることになりました。

 本当になんでだ。


 まずケイに邪魔だからまとめて出て行けとお店から蹴り出された。比喩じゃなくて物理的に。

 次に街頭で決闘を高らかに宣言しつつ煽ってきたトリスタンを移動させるために、人気のない所――学園へ移動。

 フィスへと視線をやると、そろそろブチギレしそうだったので早期収拾を付けるため、トリスタンの申し出を受諾。

 そして今に至る。

 なお女の子は途中で帰った模様。というか最初から居なかったし、コールブランドにそのままいるのかもしれない。




「さて、決闘を始める前に確認しておこう」

「何をですか」


 僕とトリスタンは模擬戦用の剣を持って向かい合っていた。


「俺が勝ったら、俺はミス・ウェネーフィカに改めてデートを申し込む。その時、君は邪魔をしない」


 フィスは憮然とした表情で、離れたところから僕らを見ている。


「ソー……くん。君が勝ったら、俺は今回は大人しく引き下がろう」


 こいつ、さては僕の名前ちゃんと覚えてないな。


「その、この場限りだけの事でわざわざ決闘するんですか」


 決闘にするにしては軽すぎないだろうか。いやまぁ、重くても嫌だけど。


「うむ、良い質問だね……きみ


 ついに名前出てこなくなったか。


「この決闘で真に掛けられるは我らの矜持、そして想いだ」

「はあ」


 なんのこっちゃ。


「確かに、約束自体は今回限りのものだ。だがしかし、この決着はどちらが彼女を想い、そして相応しいかを見極めるものになるのだ。これで負けた男が、厚顔にも今後ずっと彼女と共にいるなど出来まい?」


 うーん、正直言って何言ってるか分からないし、共感とか出来ないけど。


「これで勝ったら、貴方が姉さんに近づかなくなるというのは分かりました」

「それでいい。ふっ、よい闘気だ」


 お互いに剣を構えて臨戦態勢に入る。

 今回、審判はいない。開始の合図を告げる者はいない。

 ここからお互いのタイミングで仕掛けるだけだ。

 深く息を吸って、ゆっくり吐く。

 視界の端にフィスが映る。

 どうであっても、フィスは大事な人で、その大事な人が見てる前だ。

 ならば、僕は全力で勝ちに行こう――




「ただいまー」

「お帰り。二人共、随分遅く迄遊んでいたんだね」


 寮に帰った僕らをカスミが出迎えてくれた。


「色々あってねー。あ、そうだカスミ! いいものがあるのよ!」


 フィスは嬉しそうにカスミの方へと寄っていった。


「おぅ、おかえり」

「ただいまエイン」

「なんだ、疲れた顔してんな」

「色々あってね……」


 本当に色々。


「? そうか。まぁ、なんだ。寝る前にあったかい茶でも飲んで一息つくか?」

「そうだね。そうするよ」

「おう。じゃあ、待ってな。いま淹れるトコだからよ」

「うん、ありがとう」


 こんな感じで最後の休校日が過ぎていった。

 明日からは授業再開だ。




 一方、学園の救護室。

 トリスタンは天井をじっと見つめていた。


「ふ、ふふふ。まさか……まさか俺が何も出来ずに一撃で倒されるとは」


 その目は天井よりもずっと高いところを見ていた。



次回更新は6月12日(月)7時の予定です

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