26話 学園都市襲撃 カスミ編
フィスが防御障壁を展開し、ソールが魔獣へと向かった事を確認した私は、訓練場を出て学園で二番目に高い建物の天辺へと上った。
大鐘楼。
此処は学園都市でも二番目に高い建物になる。
本当は一番高い所に上りたかったのだけれど、其処は王族専用の施設で、侵入が非常に困難な為に見送った。恐らく不可能では無いけれど、危険度と労力、時間を考えれば選択肢は無いに等しかった。
頭上に大鐘が在る事以外は、其処は非常に見晴らしが良く、周囲の偵察に最適な場所だった。鐘を鳴らす時間以外は人も来ないので、一人になりたい時も最適かもしれない。
あぁ、恋人同士で来るのも有りかもしれない。
フィスとソールが二人で此処に来る未来は在るのだろうか。否、なさそうかな。
そんな益体も無い事を考えて、少し頬が緩んだ。
とは言っても、私の手は思考とは別に迅速に動いていた。
魔法陣が描かれた巻物を取り出し、四方に設置。其々に魔力を注ぐ。そして中央に水を容れた皿を置いた。
「鳴ゝ 空よ風よ 我が声を聞き届け給え 我が願いを聞き入れ給え」
魔法陣と水に光が灯る。
「其の空は彼方を見渡し 千里を映す 其の風は草花の囀りを届け 数多を掬う 与え給え 与え給え 此の瞳に光を 此の耳に唄を」
次いで私の眼と耳も光を灯しだした。
「壁に耳あり障子に目あり」
最後の一言と共に術が起動する。
魔法陣からは――目には見えないが――空気の塊が浮かび上がり、私の目の直ぐ前にも水で出来た透明な膜が張られた。
私は鐘楼から頭だけを出し、周囲を確認した。
(彼処と彼処、其れに彼処。最後に訓練場の真上)
場所の当たりを付けて念じると、空気の塊は其の場所へ飛んでいった。程なくして、予定地点へ到着した。
「観測開始」
すると一気に音が耳に流れ込んできた。
此の魔術はネイルさんから教わったもので、離れた場所の音を拾う事が出来るようになるものだ。音というのは空気の振動で、その空気の振動を空気の塊が拾って、其れを自分の耳に届けてくれるとか何とか。正直、原理は良く分からないし、ネイルさんもスカジ様から教わっただけで、良く分かってないらしい。
そして、此の目の目にある水膜。之は少し曲がっている。お椀みたいな形をしていると言えば分かりやすいだろうか。
私が意識を集中させると、水膜は二つに分離した。之を通して見ると、遠くの物も近くに在るように見えるのだ。スカジ様は望遠鏡を魔術で再現してるだけさ、と仰った。そもそも学の無い私には望遠鏡が何かは分からなかったけれど、使う分には問題ない。遠くの物が見えるという事だけで十分だ。
此の二つの魔術で私は学園都市の偵察を開始した。
先ずフィスとソールの状況。
別れてから数分も経っていないが、状況は動いていた。
「魔獣の数が増えている? あの少年が喚んでいるのか。厄介だけど、ソールならハイディエイプが何匹来ようと問題は無いか。フィスの障壁が破られる事もない」
フィスのあれを破れるなんてB級魔獣でも無理なんじゃないだろうか。
うん、逃げ遅れた人も居ないみたいだ。ソールを除いて全員障壁の内側に居る。訓練場は大丈夫だろう。
其れならと、私は念頭に有った懸念を確認すべく、街の周囲へと目を向けた。
そして私の嫌な予感は当たっていた。
街が三方向から同時に攻められていたのだ。
ハイディエイプが八から十匹。街の東西南に現れている。学園が北に在ることを考えれば、四方向同時という見方も出来る。
ただ、貴族の子息も居る此の街の警備は決して薄くない。
敵影が確認されてから数分で迎撃態勢が整えられており、ハイディエイプが到着する頃には防備は確り固められていた。
結果は見るまでも無く――見たけど――街へ侵入される事無く、撃退完了。交戦時に少し怪我をした騎士がいたけども、其れだけ。損害は無しと言ってもいいだろう。
その後は追撃もなく、本当に何だったのか分からない襲撃だった。
その間に学園内も視ていたが、モルガナ王女やシシリー姫が変な奴等に囲まれていたが、多分モルガナ王女が一瞬にして消してしまった。
あれが何だったのか分からないが、無事かどうかという意味では問題なさそうだ。
問題は矢張り訓練場の方だ。
少し目を離した隙に、状況は進んでいた。悪い方向へ。
「大きい……ハイディエイプの頭かな? あの大きさならC級はあるかも」
しかも組織的な連携を見せている。厄介さではC級でも指折りじゃないだろうか。ソールも心なしか苦戦している。
「あぁもう、何で魔法使わないの。あ、もしかして被害を気にして? 確かにソールの魔法は広範囲ばかりで、狙った敵だけを倒すって出来ないけど」
せめて剣があればいいんだけど、何でか素手のまんまだし。フィスが剣を貸してあげればいいのにって、何でエインに? あ、エインまで戦いに参加した。あれはケイ先輩にセラまで。ベイリン先生も来ちゃった。あー、之なら大丈夫そうかな。
何時の間にか戦いに熱中していた私は、援軍の登場によって少し冷静になれた。
其処で気付いた。
「え……浮いてる?」
訓練場を見下ろす位置に人影が浮いていたのだ。
何時から居た?
どういった術で浮いている?
敵?
味方?
それとも――
様々な考えが頭を過ぎる。
そうこうしている内に人影が地上へと降りた。
「ソール!」
思わず叫んでいた。
人影――少女はソール達の目の前に立つと、ケイ先輩を倒し、ベイリン先輩も倒してしまった。
敵だった。拙った。早く気付いて警告すべきだった。
少女は続いてエインへと襲いかかったが、何とエインはその攻撃を防いでいた。此処から見るに、エインに戦える相手じゃないんだけど。ソール、早く助けてあげて――新手!?
ソールは新しく表れた男に足止めされていた。ソールが動けないなんて、相当の腕だと予想される。
更に此の状況に追い打ちを掛ける様に南瓜――もといヴィヴィアンが訓練場を走って横切っているのが見えた。
何を――と思っている内にソール達は白煙に覆われ、直ぐに晴れたかと思うと敵は誰も居なくなっていた。
「敵は本当に居なくなってる。白煙から逃げた人は居なかったし。煙の様に忽然と現れて消えた。スカジ様の転移魔術と同類のもの? 否、あれはスカジ様でさえ魔法陣を必要とする。少年等はそんなものを用いた様子はなかった。では一体……」
今回の出来事は私の中の知識を逸脱するものばかりだった。
其れでも考える。
今回の襲撃は何だったのか。
訓練場ではあれだけの戦力を投入してきたのに、その他の場所の御粗末さ。
あれでは精々が偵察程度しか出来ないだろうに。
「偵察――真逆」
威力偵察だった可能性。
魔獣の襲撃があった場合の対応の速度、騎士の練度の確認。
其れなら今回の戦力でも事足りる。
ならば学園は?
学園に最大戦力を投じた理由。
学園には今日何があった?
序列戦。否、違う。
誰が居た?
モルガナ女王とシシリー姫。否、モルガナ女王か。
モルガナ女王の目の前に表れた異形。
若しかしてあれが本命か?
訓練場は陽動?
「何だか、今回の襲撃には色々な思惑が隠れてそうね」
私は今後の情報収集をより密にしなければと強く思った。
間が空きすぎてキャラを覚えてないというお声を頂いたので、次話あたりでキャラ紹介しようかと思います




