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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
2章:ユミル王立士官学園
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20話 トリスタン・ツィ・リオネスの告白

 6つある試合場から人はいなくなり、立っているのはフィスとトリスタンと審判の先生の3人になった。生徒の実力から戦闘規模が大きくなると判断された場合、こんな風に広いスペースが確保されることがある。

 フィスは詰まらなさそうに。トリスタンはその端正な顔に楽しそうな表情を浮かべて、向かい合った。


「序列2位のトリスタン先輩か……。やっぱり強いの?」

「勿論。フィスが一位を取る迄、二年に渡って彼が一位を保持していたからね」

「それは凄いね」

「フィスの前は、彼が学園始まって以来の天才だ、と持て囃されていた位だからね。フィスに負けてからも、二位の座はずっと彼だった。彼と他の生徒の間には大きな実力差がある。実際、私から見ても強いよ彼は」


 カスミがそこまで言うなら間違いないんだろう。


「ただ、フィスとの実力差も明白だった。事実、彼はフィスに敗北してから今まで、一度もフィスに挑戦していない」

「え、じゃあフィスが一位になって初めての防衛戦って事?」

「其う為るね。一位交代から半年。挑戦せずに静観を決め込んでいた彼が今フィスに挑戦する。其の意味は」


 一度負けたものが再び挑む理由なんてそう多くはない。


「勝てる算段が着いたって事――」

「其ういう事だね」




 トリスタンは爽やかに微笑みながらフィスを見ていた。フィスは不快――というか興味なさげにトリスタンを視界に収めている。


「ミス・ウェネーフィカ」


 トリスタンが声を掛けた。その声には悔しさや怨みは全くと言っていい程に含まれていなかった。奇妙なほどに誠実な声音だった。


「なによ」


 フィスもさすがに無視せず返した。


「俺は半年前、貴女に敗れた。ショックだったよ。あの頃の俺は自信に溢れていた。驕っていたつもりはなかったけれど、同年代には負けないという自負があった。いや、これを驕っていたと言うのかもしれない。そんな俺が貴女に負けた。その時、俺はとてつもない衝撃を受けた」

「だから何? プライドを傷つけた私に謝れとでも言うつもり? 生憎だけど、私は――」

「あぁ、違う。違うんだ。早とちりしないでくれ。俺がショックだったのはね。貴女に負けたことじゃないんだ」

「?」

「負けたにも関わらず、貴女を美しいと感じてしまったからなんだ」

「は――はあ!?」


 それまで無愛想にしていたフィスの顔が崩れた。


「その態度は悠然としていて、その強さは憧憬すら覚えさせ、なのにその容姿は佳麗で可憐で清廉で。そのあまりにも美しい存在にショックを受けた。あぁ、こんなにも美しいものがこの世に存在するのかと。そう、俺は自身の負けよりも貴女の美しさに打ちのめされた」

「な……な……っ」


 フィスは突然の告白にわなわなと震えている。


「だが、俺にもプライドはあった。ちっぽけだけれど、確かなプライドが。愛する女性を守りたいというね」


 インパクトの有り過ぎる口上に会場全体がざわついている。一部の女子生徒からは悲鳴が上がっていた。美形だし強いしでファンもいたのだろう。

 そんな外野を気にもせず、トリスタンは続けた。


「愛する人を守るには、やはりその人より強くあるべきだ。だから俺は今日、貴女に勝つ。そうして試合後に改めて貴女に交際を申し込もう」


 そして最後にトリスタンは爽やかに笑った。



「な、何言ってんのさ。姉さんがそんなの受けるわけ無いだろ」

「おや、どうしてだい?」

「いや、だって姉さんだよ。恋愛に興味があるとは思えないよ」


 思わず席から立ってカスミに抗議する。


「其れは分からないよ。フィスだって女の子だ。熱い告白にときめくかもしれないよ」

「いや、でも」


 なんだろう、もやもやする。いや、これはイライラか? とりあえず変な気分だ。

 僕は納得出来ないまま座り直して、フィス達へと顔を戻した。



 フィスはわなわなと震えていた。そうしてトリスタンに指を突き付けると。


「わ、私はアンタなんかどうとも思ってないし、こ、こここ交際なんてするつもりはないわ!」

「ふぅむ。それは残念だ。しかし、それも仕方のないこと。なぜなら俺は貴女に負けた。弱い俺が貴女の目に映らないのは仕方のない事だ。だからこそ、この戦いに勝った後に改めて同じことを言わせていただくよ」


 バッサリ断られたにもかかわらず、トリスタンは動揺もせずに返した。その神経の太さは尊敬に値する。


「い、いいわ。どうせ私が勝つもの! そうすればこんな話は無しよ。無し!」


 そうだ。フィスが負けるはずはない。いくら強いとは言っても、一介の学生にフィスが負けるとは思えない。


「ふぅ、もう試合を始めていいかね?」


 会話が途切れた所で、審判がうんざりした顔で聞いた。


「はい、いつでも」

「いいわよ」


 二人が同意したところで、審判は少し下がって距離を取った。


「それでは序列1位フィス・A・ウェネーフィカと、序列2位トリスタン・ツィ・リオネスの試合を始める!」


 二人も少し距離を取って相対した。

 ざわついていた会場は静まり、空気が緊張していく。

 そうして話し声が完全に静まった時、


「それでは――試合開始!」


 合図が告げられた。

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