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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
2章:ユミル王立士官学園
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17話 コールブランド

 深夜、ひっそりと静まり返った街。その中にある学生寮の窓からは微かな光が漏れ出ていた。


「ソール……お願い」

「うん、分かった。そのままジッとしててねセラ」

「ん……ちょっと強いよ」

「あ、ゴメン。もう少しゆっくり入れるね」

「そう。その調子。ゆっくり。急いじゃダメだよ」

「うん。でも、ちょっと辛いかも」

「ダメ。我慢して」

「分かったよ。う……くっ……ど、どう?」

「うん。いいよ。いい感じ」

「ん……と、全部入ったよ」

「そうみたいだね……ありがとう」

「初めてだと神経使うね」

「そうかな? 慣れてくると、案外簡単に出来る様になるよ。じゃあ、そのまま注いで」

「分かった」


 コンコン

 と、そこで控えめに扉がノックされた。


「え? って、うわぁ!」

「あ、ダメ! そんな急にしちゃ! きゃあ!」

「ご、ゴメン! 大丈夫?」

「もう、ソールってば。急にいっぱい入れるから溢れちゃったじゃない」

「うん……ゴメンよ」

「君達は何をしてるんだい」

「あ、カスミ」


 扉の方を見ると、呆れた顔のカスミが立っていた。


「ほら、お茶と夜食だよ」

「わーい。お菓子? お菓子?」

「スコーンとはちみつだよ」

「ふぅ、とりあえず一旦休憩にしよっか」

「で、今日は何してたんだい?」


 カスミはお茶に口をつけながら僕らを見た。


「うん、魔導弓の矢を作ってたんだ」

「魔導弓……前に言っていた、魔術を射出する弓の事かい?」


 魔導弓とは、ユミルに――というか世界に3つしか存在しない武器のことだ。矢に特殊な魔術式と魔力を編み込み、着弾時に魔術を発生させるというものだ。魔術を使えない者にも扱える代物なのだけど、製法が難しく、量産ができない。いまある3つも全て国が所有しているのだ。


「そうなんだけどね。ちょっと違うんだ」

「ほう。どういう事だい?」

「魔導弓は通常の弓同様、人の手で矢を番えて引き絞って射つのに対して、いま作ってるのは半自動で矢が供給されて、放つものなんだ。まぁ、簡単に言うとボウガンだね」

「へぇ。そんな物が作れるのかい?」

「設計だけならできたんだけどね。思った以上に繊細でさ。さっきも矢に魔力を注ぎこむのに失敗しちゃって」

「あぁ、先刻さっきの意味深な会話は其れか」


 意味深?


「否や、何でも無いよ。気にしないで」

「よっし、ごちそうさま! さぁソール。続きだよ!」

「えっ、速っ! もう休憩終わり?」

「ほらほら、早く早くっ」

「わ、分かったから引っ張らないで」


 僕は急いでスコーンとお茶を口に詰め込んだ。


「ふぅ。では私は先に休むとするよ。君達も程々にね。お休み」

「ん、ほはふひははいおやすみなさい


 カスミは微笑むと扉の向こうに消えていった。


「ほら、ソール!」

「ほ、ほっほはっへほちょっとまってよ


 カスミの忠告むなしく、僕が開放されたのは空が白み始めてからだった。






 翌日は7日に一度の休息日だった。授業は例外を除いて、全て休みである。だから、僕もゆっくり休める……かと思うと全くそんなことは無い。

 序列戦で順調に順位を上げているとはいえ、奨学金が出るまではまだまだ遠い。それまでは収入がないので、稼ぐしか無い。

 というわけで、休息日はアルバイトの日なのだ。


「うぅ……結局寝れなかった。太陽が眩しい」


 僕は眠気に耐えながらバイト先へと向かっていった。




 僕が働いているのは「コールブランド」という学生向けの食堂だ。場所的にはメインストリートから少し離れた所に建っている。あんまり目立たないけど、値段がリーズナブルな上、それなりに味がいいので、それなりにお客さんは来る。

 開店するのはランチの時間からなので、まだ早いのだけど、仕込みやらなんやらでスタッフは早めにお店に入ることになる。


「おはようございまーす!」


 裏口から入り、大きな声で挨拶をすると、既に来ていた同じアルバイトの子が顔を上げた。


「おはよう、ソール君。今日も朝から煩いくらいに元気がいいねぇ」


 人の良さそうな顔をしつつ、穏やかな口調で軽く毒を吐いたその人はケイ。武術科の四年生。つまりは先輩だ。ここコールブランドでも先輩になる。そして、朝一から来るのはもう一人……って。


「あれ? マスターはまだ来てないんですか?」


 いつもキッチンで仕込みをしているはずの店主マスターの姿が見えなかった。


「マスターが来てなかったら、僕が店内に入れるわけ無いだろう? マスターは食材の仕入れに行ったよ」

「そうなんですか。でも、この時間にお店に戻ってないのは珍しいですね」


 僕の言葉に思うところがあったのか、ケイが手を止めて思案顔になった。


「確かにちょっと遅いね。うーん、何かトラブルがあったのかもしれないな。ソール君、ちょっと様子を見てきてくれないか。いつもなら裏通りの市に行っているはずだ」

「分かりました」

「場所は分かるかい?」

「一度連れて行ってもらったので大丈夫です」

「よし、なら宜しく頼んだ。間違ってもミイラ取りがミイラにならないように」


 僕は返事をすると、回れ右をして店を出て走りだした。

 数分も走ると目的地だ。もう既に市は閉まりかけていた。まだ残っていた人に声を掛けた。


「バド? もう随分前に買い物に来てたぞ。とっくに帰ったんじゃないか」


 バドとはコールブランドのマスターだ。


「もう帰った……ですか」


 その人の口ぶりでは既にお店に戻っていてもおかしくないくらい前の話のようだ。どういうことだろう? 店からここまででバドの姿は見てないけど。

 すると横から声が掛けられた。


「バド坊なら街の外に行ったんじゃないかい」

「え、本当ですか?」

「あぁ。アタシん所で必要な食材が不足してたみたいでねぇ。オドタケっていうキノコなんだけどね。今日は仕入れ自体が少なかったからねぇ。街の外の森まで取りに行こうかなんつっててねぇ。魔獣も出るし危ないから止めておきなと言ったんだけど……」


 もしかしたら行ったのかもしれない、と続いた。

 こんなに遅いとなると、間違いなく行ってるだろうなぁ。


「分かりました。ありがとうございます!」


 僕は今度は街の外へ向けて駆け出した。制止の声が聞こえたけど、聞こえないふりをした。






 街の外は平原が広がっており、森といえば北部の山の麓くらいしか無い。1時間もあれば行って帰ってこられる距離だ。街に近いこともあって、騎士団が魔獣を頻繁に討伐している。だから比較的安全ではある。

 あるけれど、魔獣が少ないだけであって、根絶されているわけではない。

 自衛手段を持たない人間が森に入るのは非常に危険だ。

 ちなみにバドは戦いに関してはズブの素人だ。魔獣に遭えば、為す術もないだろう。

 僕は足を速めた。






 清閑な森の中に突如悲鳴が響き渡った。


「うわあああああ!」


 悲鳴を上げたのは中年の男だった。彼は重そうなリュックを大事そうに抱え、森の中を駆け抜けていた。


「なんでっ。どうしてっ。運がっ。悪いんだっ」


 悪態をつきながら、右へ左へ、木々を避けてひた走る。

 そして数m後方を猿が走っていた。

 猿とは言っても体長は成人男性くらいはあり、顔つきも非常に凶暴だ。長い手を器用に使って草木をかき分けながら、中年の男性を追っていた。


「だっ。はっ。も、もう限界っ」


 男性は必死に逃げていたが、疲労は色濃く、足の動きも鈍くなっていた。その証拠に、猿との距離がみるみる縮まっている。


「ひっ。ひっ。ひ――うわぁ!?」


 そしてついに足をもつれさせて転倒してしまった。

 チャンスとばかりに猿が跳躍した。着地予想点はもちろん転んだ男性だ。


「うわぁああああああああああああ!」


 男性は終わりを感じ、叫びながら目を閉じた。


(あぁ、私の人生もここで終わりか。こんな誰もいないような所で誰にも知られずに死んでいくなんて。結婚、したかったなぁ。でも、自分の店を構えられただけ幸せだったかもしれないな。従業員のみんなには申し訳ないけど、給料は支払えそうに……って、長くない?)


 来ると思っていた衝撃が来ないまま、えらく長く思考をしていた男性は、恐る恐る目を開いた。そこには――




「マスター! 大丈夫ですか?」

「え、あ、そ、ソール……くん?」


 バドマスターは信じられないものを見ているような目で僕を見た。


「そうですよ。大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

「あ、うん。特に怪我はない、かな?」

「それは良かったです。立てますか」

「あ、あぁ」


 バドは僕の手を取ると、ゆっくりと立ち上がった。そしてキョロキョロと辺りを見回すと。


「えっと、猿は?」

「魔獣なら倒しましたよ。ほら」


 僕が指差す方向で、大きな猿の魔獣がのびていた。


「え、え、え? どうしたの?」

「どうしたのって。普通に殴ったんですよ。剣を持ってくれば良かったんですけどね。さすがに普段は持ち歩いてなくて」

「な、殴ったぁ!?」


 えらく素っ頓狂な声が出たな。


「まぁ、武術科ですから」

「そう、か。ユミル学園の生徒さんってのは凄いんだなぁ」


 と言っても、さすがに魔獣を殴り倒せる生徒なんてあんまりいないと思うけどね。


「とりあえず歩けるなら帰りましょうか」

「そうだね。随分遅くなってしまったし」

「はい、今からなら急げば間に合うでしょう。荷物半分持ち――っ!」


 バドから荷物を受け取ろうとして手を出した所で、不穏な気配に気が付いた。


「ありがとう。って、どうかしたかい?」

「……魔獣が来てます」


 複数の気配が猛スピードで近づいてきている。まだ距離はあるけど、このままじゃ囲まれかねないな。


「え、魔獣? 何にもいないけど」

「まだ遠いですからね。でも、ボケっとしてたら囲まれます。行きましょう」

「あ、あぁ」


 音も姿もまだないので、バドは訝しんではいたけど、素直に動き出してくれた。ただ、このままじゃ森を出る前に追いつかれる。


「この速度だと、あの大きな木を越えた辺りで接敵します。追われながら戦うとなると、地形的にも厄介ですね」

「えぇ!? 本当かい? ど、どうしよう?」

「迎え撃ちましょう。背中を狙われるよりマシです」

「そんなっ。大丈夫なのかい?」

「おそらく先ほどの猿型魔獣の仲間でしょう。数は……3体。それなら十分許容範囲です」


 素手でバドを守りながらでは少々つらいものがあるけど、なんとかするしかないな。


「では迎撃の準備をしますので、僕の言うとおりにして下さい」


 子供からの言葉にバドは素直に頷いた。




 大きな木の手前に僕は陣取った。バドには木の裏に隠れてもらっている。

 数十秒後、魔獣は姿を表した。やはりさっき殴り倒したのと同じ猿の魔獣だ。しかし、姿は一匹しか見えない。他の二匹は木の上で隠れながら様子を伺っているようだ。


「さて、こっちは急いでいるんだ。見逃してくれないかな」


 一応、声を掛けてみたけど、やはり猿は無反応だ。言葉は通じない種らしい。


「悪いけど、時間は掛けてられないん――だっ」


 身体強化ブーステッドを使い、一瞬で魔猿に肉薄する。


「まず一匹」


 そして驚く暇も与えず殴り倒す。魔猿は後ろの木まで吹き飛び、倒れた。

 樹上の魔猿が騒ぎ出す。が、降りてこない。混乱して位置的有利を失うような事はしないらしい。意外と頭いいな。


「仕方ない。こっちが木登りするか」


 地面を蹴って跳び上がり、一匹の魔猿と同じ枝に着地する。


「いや、これ木登りとは言わないかな?」


 魔猿は驚きつつも、長い手を振り回して攻撃してきたが、それを屈んで躱し、がら空きの胴を蹴り飛ばした。


「よし、これで二匹。あと一匹」


 ここからだともう一匹の姿もよく見えた。かなり狼狽えている。

 立て続けに仲間がやられた魔猿は、僕には敵わないと思ったのか、ターゲットをバドへと変えて向かっていった。

 あ、ヤバい。

 距離的に間に合うか微妙だ。

 バドならワンパンでやられかねない。

 けど、対策はしてある。


「マスター! 右のを切って!」


「お、おう」


 バドが言われるままに右手のナイフを振るうと、紐がプツンと切れた。

 すると、限界まで曲げられたまま紐で止められていた枝が、猛スピードで鞭のようにしなった。

 枝はドンピシャで魔猿の顔面に当たった。

 ギャッという悲鳴と共に魔猿が怯んだ。


「こんなに上手く決まるとは思わなかったよ」


 最後に一発決めて、魔猿は完全に沈黙した。


「よし、これでおっけー。さぁ、帰りましょうかマスター」

「あ、あぁ」


 この後は特に追ってくる魔獣もなく、僕らは無事に帰途についたのだった。






「マスター。仕入れに何刻掛かってるんですか? いい年して迷子ですか? アホですか?」

「け、ケイくん。ゴメンよ。ちょっと食材が足りなくて森まで……」

「迷子になって森まで行ったんですか? どれだけ方向音痴なんですか? 迷うのは人生だけにして下さい。あと、僕を巻き込まないで下さい」

「人生には迷ってないよ!? 迷って……ないよ?」

「いつまで突っ立ってるんですか? もう開店まで時間がないんですから、さっさと働いて下さい」

「は、はいっ。ごめんなさい!」


 帰ってからは無事ではなかったみたいだ。




 色々ハプニングはあれど、何とか準備を終え、無事に開店を迎え、昼飯時のピークも捌ききれた。

 あとはチラホラとお客さんが残ってるだけだ。


「ありがとうケイ君。仕込みをほとんど終わらせてくれていたお蔭で、何とかなったよ」

「マスターの為じゃありません。料理が出せなくて、この店の評判が落ちたら僕の働き口がなくなるからです。僕のためです」


 なんだ、そのツンデレ。

 そんな事言いながら一番一生懸命働くのケイなんだよなぁ。


「あ、ソール君もありがとうね。君がいないとお店開くどころか死ぬところだったよ」

「え? あぁ、気にしないでください。大したことじゃないですから」

「そうは言ってもねぇ……」

「ちょっと待って下さい。死にかけたって何ですか? 聞いてませんよ」


 おっと藪蛇だったかな。まぁ、藪をつついたのマスターだけど。

 さて、ちょっと一息つこうかな。


「あ、ソール君」

「はい、なんでしょう? 逃げようとなんてしてませんよ」

「……」

「……」


 余計なこと口走った!


「はぁ。君のお客さんが来てるよ。対応しておいで」

「あ、はい。了解です!」


 よし、大丈夫のようだ。


「それと、後で話をしようか」

「はい……」


 大丈夫じゃなかったようだ。




「ソール。こっちよ」

「あ、やっぱり姉さん」


 フロアに出ると、フィスに呼ばれた。同じテーブルにカスミとセラも座っている。料理は既に配膳済みだった。ケイが応対してくれたのか。


「やぁやぁ勤労少年。働いてるねぇ」

「何キャラなのさ。カスミ」


 フィスとカスミは割とよくこの店に来る。というか毎週来てる。

 ちなみにフィスは働いていない。何もしなくても高額な奨学金が入るのだから、当たり前といえば当たり前だ。カスミは序列上位に入っていない、というか登録すらしていないのだけど、働いている様子もない。けどお金は持ってる。以前、どうしてるのか尋ねたけど、誤魔化されただけだった。ちょっと怖い。


「セラは元気そうだね……」

「ふもっ!」


 ご飯を口いっぱいに頬張りながら、適当に返事をされた。よく寝たであろう事に対する皮肉でもあったのだけど、気付かれなかったようだ。

 なおセラは仕送りと、自身で作成した魔道具の特許で生計を立てている。


「ねぇ、これ新作よね」


 セラをジト目で睨んでいると、姉さんが皿の一つを指して言った。


「あ、うん。ラビオリって言うんだ。伸ばしたパスタ生地で野菜とかチーズを包んであるんだ」

「これもソールが考えたの?」

「あー、うん。考えた、かな?」

「何よ、はっきりしないわね」

「いや、僕が提案したんだよ。うん」

「ふーん。相変わらず、よく考えるわね」


 正直、前世にあった料理をそのまま使ってるだけなので、自分で考えたというとちょっと語弊があるのだ。提案した、なら間違いではない。きっと。

 実は僕が提案した料理はこれだけではなく、他にもいくつかある。もちろん全部オリジナルではないけど。


「スカジ様も独自の料理得意だったよね」

「そうだっけ?」


 僕とフィスが揃って首を傾げた。


「んー、二人はスカジ様の料理が普通だったからね。でも、他では見ない料理ばかりだったよ。世界を旅して回られたとの事だから、色々な地方の料理かも知れないけどね」

「そうなのかしらね」

「そうさ」


 ふーん、そういうもんかな。確かに、自分ちの当たり前って、意外と当たり前じゃない時ってあるよね。


「そういえばソール。アンタ、またセラと部屋にこもってたの?」

「うん、セラが全然寝かせてくれなくてさ。徹夜で仕事だよ」

「寝かっ!? ご、ごほん。なんだっけ。魔術の知識と魔力操作の技術が必要なのよね?」

「もふっ?」


 フィスが問いかけたが、セラは相変わらず料理に夢中で聞いていなかったようだ。


「うん、そうだよ。僕もずっと魔力操作してるし」


 代わりに答えておく。


「それなら私でもよくないかしら。別に魔術のことくらい教えてあげるわよ。魔法や魔力操作なら私のほうが得意だし。それならソールがずっとセラと一緒にいなくてもいいでしょ」


 そう提案してくれたが、僕とセラの間に流れた空気は微妙なものだった。


「いや、確かに姉さんのほうが腕は良いけど」

「けど、なによ」

「姉さんって天才じゃない?」

「そうね」


 臆面もなく頷いたよ。


「だから姉さんの説明って感覚的というか、抽象的というか」

「どういうことよ」

「えっと、例えば火球を撃ち出すとするでしょ? その時の魔力の流れや操作を姉さんはどう説明する?」

「どうって。魔力をこうぎゅーってやって、腕の方にすーっと流して、それで指先から火球に変換してぽんっと出すでしょ」


 ほら、完璧じゃない。なんて表情をするフィス。


「うん、分からん」


 カスミとセラも頷いている。


「なんでよ! この上なく分かりやすかったじゃない」

「それはきっと姉さんと同じ感覚の天才だけだよ。凡人には分かりにくいんだって」

「訳がわからないわ」


 うん、僕らもわからない。

 一応引き下がってくれたものの、フィスはその後もぶつくさ言っていた。

 その後、日が落ちる前にバイトは終了。この後のコールブランドは酒場になるので、学生は立入禁止なのである。

 バイトを終えた僕はいつものように、ずっと待っていたフィスと帰宅する。カスミとセラは先に帰った。

 フィスと他愛ない話をしながら寮に戻り、エインや、たまにヴィヴィアンも交えてのんびりした時間を過ごし、休む。それが僕の休日だ。




 けど、その日の帰り道にいつもと違う雰囲気でフィスが口にした言葉があった。


「ねぇ、ソール」

「何、姉さん」

「最近、街の様子が少しおかしくない?」

「そうなの? 僕は特に何も感じないけど。最近来たばっかだしね」

「そう、そうね。でも確かにここ数ヶ月で何か変わったわ」

「何かって?」

「分からないわよ。分かったらもっとハッキリ言うわよ」

「でも、確実に何かおかしいんだ?」

「うん。だから気をつけなさい」

「……分かった」

「本当に分かった?」

「大丈夫だよ。心配症だなぁ、姉さんは」


 おかしなこと。

 フィスは天才ゆえに感覚的だ。

 感覚的ゆえに、その感覚は鋭い。

 だから本当に何かあるんだろう。

 きっと、何かが。

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