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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
2章:ユミル王立士官学園
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16話 セラとメドラウト


 入学してから一ヶ月。僕とエインは学科も寮も同じ事から、行動を共にすることが多く、またシシリーも学内ではほとんど一緒にいた。フィスは出来るだけ一緒に授業を受けようとしていたけど、さすがに取得済みの授業と被る事が多いので、カスミに怒られてしぶしぶ自分の為の授業に出ていた。セラは学科が違うものの、昼休みなどは一緒にいたし、パーシィも同様に一緒にいることが多かった。

 僕の学園生活におけるリズムはおおよそ固まっていった。




 とある日の昼、基礎錬金術の講義を終えた所で、セラが駆け出した。


「ちょっと気になるトコあったら聞いてくるっ」


 そう言ってメドラウトを追った。

 こういった事はちょくちょくある。セラはよく授業後に分からないことを先生に質問している。普段からは想像もつかないほどに、錬金術に対しては真面目だ。僕は学生時代にはついぞ先生に質問する、なんてことはしなかったなぁ。

 僕とパーシィがのんびりと教室を出ると、廊下でメドラウトとセラが熱心に話していた。この後は帰るだけなので、パーシィを先に帰し、僕は話が終わるのを傍で待っていた。すると、少ししてフィスとカスミがやってきた。


「フィス。迎えに来てくれたの?」


「ちょっと授業が早く終わったから来ただけよ」


一寸ちょっと……?」


「なによ」


「何でも無いよ」


「ふん。ところでセラはどうしたのよ?」


「あそこ。メドラウト先生に質問してるよ」


「へぇ。相変わらず勉強熱心だね」


「錬金術って、そんなに楽しいのかしら?」


「うーん、僕は割と楽しんでるかなぁ」


「私も来期は受けてみようかしら」


 なんて話していると、やや語気の強い声が聞こえてきた。振り返ると、セラがメドラウトに詰め寄っていた。


「けど、セディラム鉱とケイオ鉄の比率は5:2にした方が魔力伝導性が向上するから、17%のロスをカットできるはずなの!」


「それじゃと耐久性が著しく落ちるじゃろう。伝導率を考慮するならば、まだエティウムを使ったほうが強度を保てる」


「エティウムじゃそんなに伝導性上がらないよ!」


「配合率によるわい。そもそも、それはお主の机上の理論じゃろう」


「でも理論的には――!」


 何か言い争ってる!


「セ、セラ!? 落ち着いて!」


 食って掛かるセラを羽交い締めにして止める。


「何? いま大事な話を――あ、フィスー!」


 振り向いたセラは機嫌が悪そうだったが、フィスの姿を認めるとあっと言う間に顔を綻ばせて飛びついた。

 セラはフィスの作る料理が大好きなようで、この一ヶ月の間にすっかり懐いていた。餌付けされたとも言う。


「ちょっとセラ。こんな所で抱きつかないで」


 フィスは嫌そうにしてるけど、本気で引き剥がそうとしてない辺り、本当に嫌ってわけでもないんだろう。


「すいません、メドラウト先生。セラが何か失礼をしたみたいで」


「ん? いや、よいのじゃよ。彼女は錬金術に対し、非常に真摯に向かい合っておる。その熱意が儂にはむしろ嬉しい」


「確かにセラは錬金術の事になると、他のことなんて目に入らなくなりますね」


「それに、儂と議論をしようとする者など久しくおらんかったからな」


 そう言うと、メドラウトは何か懐かしむようにセラを見た。


「さて、儂は行くとしよう。セラ君に伝えといてくれ。君の言った理論を検証してまた来てくれとな。そして、それを楽しみにしておると」


「あ、はい分かりました」


 そしてメドラウトは柔和なほほ笑みのまま歩き去っていった。



 セラにメドラウトからの言葉を伝えると、


「そうだねっ。やっぱ論じるより、まず実践だよね! よぅし、こうしちゃいらんない!」


 そう言って一人で走り去っていった。寮に帰ったのだと思う。思うけど、出口と逆方向に走ってったぞ。


「私が送ってくるよ」


 そしてカスミが追い掛けてくれた。ナイスフォローである。

 残ったのは僕とフィス。


「んー、とりあえず僕らも帰ろっか」


「そうね……じゃないわ。待ちなさい。その前に用事があるの」


「用事?」


「そうよ。ソールが入学してから一ヶ月が経ったわよね。だから、序列戦の登録に行くわよ」


「あ、そっか」


 総合序列は学年序列と違って登録制だ。在籍してれば貰えるものじゃない。序列争いに加わりたくない生徒もいる事への配慮らしい。

 ちなみに登録直後の順位は、完全に登録順で早い者勝ちだ。なので新入生で登録したい人は、本日中になるべく早く登録しようとする。


「エインとシシリーは先に行ったわよ」


「了解。僕もすぐに行くよ」




 で、やっぱり遅れたせいで結構な人数の列が出来上がっていた。授業終わってすぐにこればよかった。


「お、ソール。遅かったじゃねぇか」


「あ、エイン――とシシリー。もしかして、もう登録終わったの?」


「うん、さっきね。ソールは遅かったね?」


「うん、ちょっとあってね。2人は何位になったの?」


「俺は266位だったぜ」


「私は267位だったよ」


「……思ったより、登録者少ないんだね」


「そうかぁ?」


「だって、この学園の生徒数って2000人くらいいるでしょ? それなのに新入生が200位台って、少ないと思うんだけど」


「言われてみれば確かに」


「錬金科と普通科の生徒がほとんど登録しないのと、中退する者が多いせいでしょう」


「あ、ヒルダ。ヒルダは何位だったの?」


「貴方に話す義務はございません」


 う、相変わらず僕にはキツイな。


「もう、ヒルダってば。ヒルダは登録してないの。私の下に入るって」


「あー、なるほど」


 総合序列には個人の強さを計る以外にも、もう一つの強さを計る要素がある。

 それは、人を率いる能力だ。

 ここには騎士団の士官候補生もたくさん在籍している。彼らに求められるのは個人の強さは元より、人の上に立つ資質だ。だから、総合序列では、部下を多数率いて闘うことが許されている。一対多数が普通に有り得るのだ。人を使うのも能力の内。そういう事だ。

 実際、上位陣の多くは個人ではなく、団体だ。

 ただ、デメリットも当然ある。

 序列上位の恩恵。それに預かれるのは代表者のみだ。部下には何もない。その辺りも、代表者の手腕が問われるとういことだろう。


「新入生の順位が高いのも、そういう事でしょう。噂では、50名からなるチームもいるとの事ですから」


「ご……」


 マジでか。それはもう数の暴力なのでは。でも、50人をまとめるってのは、それはそれで確かにすごい。


「そういう訳ですので、ソール様は頑張って並んで下さい。さぁ、行きましょうシシリー様」


「え、一緒に待っちゃダメ?」


「駄目です。シシリー様はただでさえ耳目を集めるのですから、このような場にはあまり長居されるべきではありません」


「えー、いいじゃない。ね、ヒルダ?」


「駄目です。公務も残っているでしょう。さぁ、行きますよ」


「うぅ。じゃあね、ソール。また明日順位教えてね」


「うん、また明日ね」


 そうしてシシリーは涙目になりつつ離れていった。公務かー。やっぱそういうのあるんだな。


「悪ぃけど、俺も先に帰るわ。夕飯の準備とかしてぇし」


「おっけ。じゃあ、また寮で」


「おう、じゃあな」


 エインも行ってしまった。

 まぁ、大人しく待つか。


 僕が登録を終えたのはそれから1時間後だった。

 順位は371位だった。




 翌日から、早速序列戦が活発になってきた。

 序列戦は自分の上の位5名まで挑戦できて、勝てば順位が入れ替わる。基本的に上位の者は挑戦を受けたら断ることは出来ない。怪我などで戦闘が不可能な場合は断れるけど。そして、挑戦を申し込むのは何時でもできるけど、実際に戦えるのはその日の授業が全て終わってからだ。さすがに授業に穴を開けてまでは戦えない。

 あと、戦えるのは1日1戦まで。挑戦したい相手が既に他の者の挑戦を受けている場合は、挑戦不可だ。翌日に回される。

 というわけで、僕も早速戦うことにした。

 順位がかなり低いので、挑戦できる限界の順位――僕なら366位だ――の相手を対戦相手に選ぶ。200位程度までなら、同学年ばかりなので実力差はあまりないと考えていいだろう。

 幸いにも366位の生徒――アルスタントという魔術科Bクラスの少年だ――はまだ挑戦を受けていなかった。

 お互いの授業終了後、数ある訓練場の一つに入る。入り口で序列戦の申請をすると、別れて観客席へと通された。観客席には順番を待っている者と、単純に観戦に来ているものがいた。

 真ん中の舞台では今まさに序列戦が行われていた。

 しかも、その片方には見覚えがあった。


「ライオネルか。そりゃ登録してるよなぁ」


 実家が騎士の名家だし、本人もそれを誇ってるんだから、当たり前だよね。しかし、訓練の度に突っかかってくるのは本当にやめて欲しい。負けたら呪い殺すような目で見てくるし。

 しかしまぁ、さすがというかなんというか。言うだけあって、実力はある。武術科Aクラスでも、ライオネルに勝てるのは僕とシシリーくらいのものだ。エインは五分五分といったとこか、あるいは少し弱いか。ヒルダは真面目に戦わないので問題外だ。

 いまも相手を圧倒している。

 魔術科の生徒っぽいけど、詠唱の隙を与えないよう、上手く牽制しながら間合いを詰めている。

 あ、終わった。

 相手が実践してなさ気な所を差し引いても、やはりライオネルの方が数段上手うわてだったな。

 しかしまぁ、負けた相手をあそこまで蔑んだ目で見るのはどうにかならないものか。礼もせずに行っちゃったし。

 やれやれ、だ。

 その後もつつがなく進行していき、ようやく僕の番となった。名前を呼ばれ、舞台へ出て行くと、相手も同じように出てきた。


「武術科風情が、魔術師に勝てると思うなよ!」


「えーと、お手柔らかにお願いします」


 魔術は才能が有るものしか会得できないせいか、プライドが高い人が多い。この人もそうっぽい。

 しかし、この人も実践慣れしてないっぽいな。杖を構える姿が隙だらけだ。


「はじめ!」


 審判の先生の合図。

 同時に相手アルスタントが杖を前に突き出して構えた。


「其は創造の源にして――」


 お、火球ファイアボールの詠唱か。懐かしいなぁ。スカジの家では誰もロクに詠唱しないからな。けど、こうしてみると詠唱中って本当に隙だらけだな。歩いて間合いを詰める。


「えい」


「はかぐぇっ」


 剣を横にむけて頭を叩くと、ゴンッと痛そうな音が鳴った。そして相手は白目を剥いて崩れ落ちた。


「勝者ソール」


 先生のコールも何処かしら虚しかった。

 こんなんでいいのだろうか?


 こんなんでよかったらしい。

 いざ順位戦をしてみると、実践慣れしてない生徒が多すぎた。普段、武術科Aクラスで模擬訓練をしていると良く分かる。武術科が実践――しかも近距離で向かい合っての試合となると、圧倒的に武術科が強かった。

 序列戦が始まって約一ヶ月。

 200位台のほとんどを武術科1年が占める事となった。

 しかし、本当に厄介なのはここからだ。

 これ以上、上に行くつもりなら、上級生を倒さないといけないのだから。

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