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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
2章:ユミル王立士官学園
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14話 姉より優れた弟などいない

「私もこの寮に住むことにしたわ」


「お世話になります」


 夜も更けて、さぁ寝ようかとした矢先、フィスとカスミが玄関先で大荷物を抱えてやってきた。


「えぇぇぇ!?」


 僕とエインの近所迷惑な大声がこだました。




 もう寝る時間だと言うのに、広間にて話し合いの席が設けられた。

 とは言っても、参加者は3人。僕、エイン、カスミだ。

 セラは寝ると言って辞退し、ヴィヴィアンは自分には関係ないと言わんばかりに自室へ戻った。いや、アンタ管理人でしょう。フィスは荷物をおきに空き部屋へ行った。


「部屋空いてますよね? 私とフィスは今日から此方に住まわせて頂きます」


「いやいやいや、何言ってんのさカスミ。急すぎるよ。ダメに決まってるじゃないか。ねぇ、エイン」


 あまりにも常識から外れた行動を指摘し、エインに同意を求めた。もちろんエインは同意してくれると思ったのだけど、


「いや、いいんじゃないか」


「ええええ!? どういうことさ!」


「いや、確かに来た時は驚いたけどよ。でもよく考えて見れば、部屋は空いてるし、掃除もいつもしてるからすぐに入れる。俺も空き部屋が埋まるのは歓迎だ。彼女たちも俺も損どころか利益しか合致してねぇしよ」


「た、確かにそうだけど」


「ちゃんと家賃は払ってくれるんだろ?」


「はい、勿論です」


 どさりと机の上に革袋が置かれた。中身はもちろんお金だ。


「フィスは序列1位ですから言わずもがな、私も其れ也に稼いでますから」


「なら俺からは文句ねぇよ。好きに住んでくれ」


 く、お金の話が出ると僕からは反対しづらい。だって、まだ家賃滞納してる身なのだから。


「何ならソールの分も一緒に払いましょうか」


 急にカスミが驚きの提案までしてきた。


「い、いや、それはいいよ!」


「そう? 家族なんだから遠慮し無くて良いんだよ?」


「それでもやっぱりこういうのは自分で払わなきゃ駄目だし」


「其の心掛けは立派ね。でも、今家賃払えて無いんでしょ?」


「う、何故それを……」


「私が其れ位知ら無いとでも?」


「それは……」


 カスミならそれくらい何処からか情報を仕入れていそうだ。戦うこと関連ではカスミは僕達に敵うべくもないけれど、こと情報収集や交渉に至っては、僕とフィスでは絶対に勝てない。


「何てね。そんな情報まで仕入れて無いよ。家賃の話をした時、貴方の表情が曇ったからね。若しかしてと思って鎌を掛けただけだよ」


 どっちにしろ恐いって。


「ソール? 先刻さっきも言ったけど、自分で払おうっていう志は立派よ。でも、其れは責務を果たしてこその言葉よ。エイン君の温情に甘えている貴方が口にしていい言葉じゃ無い。違う?」


「違わないけど」


「他人に迷惑を掛ける前に、今は家族で在り姉で在るフィスと私に迷惑を掛けなさい。そうでなくては順番が可笑しい。そんなに自力で払いたいのなら、自分で稼ぐように為ったら私達にお金を返して、そして自分で家賃を払いなさい。いいね?」


 ぐうの音も出ない。反論の言葉は一つ足りとも思い浮かばなかった。


「分かったよ、カスミ」


「宜しい。じゃあエイン君。3人分の家賃を渡しておくね」


「おう、俺としては誰であろうと払ってくれるなら構わねぇよ」


 エインは嬉しそうに、それは嬉しそうに家賃を受け取った。やっぱり口ではああ言ってくれてたけど、家賃収入が見込めないってのはそうとうストレスだったんだろうなぁ。

 ゴメンよ。

 それと、絶対に自分で稼げるようになろう。

 僕はそう心に決めたのだった。

 フィスとカスミは僕の隣の部屋ということになった。


「んじゃ話も纏まったし、俺は寝るわ」


 エインは眠そうな目をこすりながら、さっさと自室に引っ込んでしまった。

 僕も寝るか。


「じゃあカスミ、また明日」


「あ、待ってソール」


「どうしたの?」


「うん、フィスから聞いといてって言われたんだけど。どうして身体強化しなかったの?」


「今日の実戦訓練のこと?」


「そう」


 あー、フィスが手を抜いたって言ってたのはそれのことか。


「あれは手を抜いたっていうか、訓練の一環だったんだ」


「訓練?」


「そう。旅立つ前にスカジにね、言われたんだ。学園内では、命に関わること以外では身体強化はしないようにって。僕はどうも身体強化に頼ってる部分があるらしくて、地力を高めてこいって」


「成る程ね」


「ま、そういうことだから、これからも基本的には地力だけで頑張ることになると思うよ」


「うん、分かったよ。フィスにも伝えておく。スカジ様に言われたって事なら、フィスも何も言わないと思う」


「お願いするよ」


「お願いされたよ。じゃあ、改めて又た明日ね。お休みなさい」


「おやすみ」






 翌朝、いつもの朝の訓練を終えて寮へ戻ると、芳ばしくも懐かしい匂いが鼻腔をくすぐった。


「ソール、おはよう」


「おはよう、姉さん」


 広間では何故かフィスが配膳をしていた。香りからして、おそらく並べられている朝食を作ったのも。


「おお、ソール。ウェネーフィカさんすげぇな! 俺も料理についてはそれなりに自信があったんだけどよ、この人の料理の前では形無しだぜ」


「フィスでいいって言ったわよ」


「いやー、長いことウェネーフィカさんって呼んでたから抜けなくて。スンマセン、フィスさん」


「いいわよ。それよりさっさと料理運びなさい」


「うっす」


「ソールもさっさと着替えてきなさい」


「あ、うん」


 ちょっと驚いて固まってしまっていた。

 フィスがほぼ初対面の人と喋れてるなんて。1年前までは考えられない。これも学園に通っている効果か。

 制服に着替えて戻ると、テーブルにはフィスとカスミが座っていた。エインは?そう思った矢先、2階から大きな声が聞こえてきた。


「セラ! 起きろ! 朝だぞ! 飯だぞ!」


 続いてドアを叩く音も聞こえてきた。

 しかし、待てど暮らせど返事はない。

 痺れを切らしたエインは大家権限で扉の鍵を開け、室内へ入り込んでいった。

 年頃の女の子の部屋に入っていっていいのかなぁ。

 しばらくすると、ツナギ姿のセラが引っ張りだされてきた。そして引きずられたまま階段を下りてくる。一段ごとにぐえぐえ言ってんだけど。


「うー、はよー」


 寝ぼけ眼をこすながら、セラが席についた。


「どうしたの? 昨日は早めに寝たんじゃ?」


 フィスたちが来た時、真っ先に部屋に戻ったと思うんだけど。


「んー、それが、寝る前にね、ちょっと魔道具について思いついた事があって、それで夢中になってたらいつの間にか朝になってて」


「そっから寝たのか」


「うん」


 今は日が昇ってようやく一刻にじかんくらいだ。そりゃ眠い。


「つっても、学校もあるしよ。もうこれ以上寝てらんねーぞ。飯食って準備しねーと」


「うん、そだねー」


「今日はウェ……フィスさんが作ってくれたんだぜ」


「遠慮しないで食べなさい」


「というわけで、遠慮せずいただこうぜ」


 そしてそれぞれが思い思いに料理に手を伸ばした。

 うん、美味しい。フィスの味付けはスカジの味付けだ。家庭的な味がする。母の味というのだろうか。フローラはさすがに滅多に自分では作らなかったからな。今の僕の母の味といえばスカジだ。


「っんまー! なにこれ! すっごくおいしい! どうしたのエイン! 料理人に弟子入りでもしたの!?」


 セラは一口食べると。半分閉じていた目を開き、輝かせた。


「いやいや、作ったのフィスさんだっつたろ」


「そなんだ? フィスさん凄いね!」


「ま、まぁね。大したことじゃないわよ」


「そんな事ないよ! うーん、これもおいし~」


「そ、そう? そのシチューも自信作よ? 別に食べなくてもいいけど」


「え、どれどれ? これ? んぐんぐ。うんまー! こんなおいしいシチュー食べたの始めただよ!」


「お、大げさよ。それならこっちは……」


 うわー、フィスもの凄い嬉しそう。まぁあれだけ目の前で美味しそうに食べてもらえたら、そりゃ嬉しいよね……って、和やかに見てる場合じゃない! セラがどんどん食べていってるせいで僕の分までなくなる!


「ちょっとセラ! それまだ僕食べてない!」


「早いもの勝ちだよ!」


「こっの!」


「ちょっとまだあるんだから喧嘩しないの!」


「おやおや、賑やかだねぇ。おっと、其れは渡さないよ」


「うーん、これ味付けどうなってんだ? いや、火の通し方か? もう一つ……って、もうねぇし!」


 こうして騒がしい朝から一日がスタートしたのだった。




 当然ながら5人揃っての登校である。

 セラはお腹が満たされたせいか、眠気がぶり返したらしい。エインの背中で寝息を立てている。どれだけ揺すっても起きやしない。

 仕方ないなぁと笑いつつ、エインだけはぶつくさ文句を言いつつ歩き、校門に差し掛かった所で物凄く目立つ人が見えた。


「あ、シシリーとヒルダさんだ」


「お、ほんとだ」


「チッ」


 シシリーの姿を捉えると、フィスが露骨に舌打ちをした。嫌ってんなー。何でそんな嫌っているんだろう。


「こらフィス。昨日も言ったろう?」


「う。そうだけど」


「けどじゃない。ほら、ちゃんとしなよ」


「分かったわよ」


 校門に近づくと、シシリーもこちらに気付いた。


「あ、ソールー! おっはよー!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振ってくる。かわいい。


「エインもおは……げっ」


 そしてフィスを見てあちらも露骨に表情を歪めた。なんでそんな仲悪いんだ。

 しかし、そんなシシリーに対して、フィスは自ら近づいていくと、


「昨日は悪かったわね。おはよう、シシリー」


 そう言って握手を求めて手を差し出した。


「えっ?」


 その行動にカスミを除いた全員が目を丸くする。

 シシリーは特に困惑している。

 そしてそんな彼女にカスミが近づいていき、僕達に聞こえないくらいの小さな声で、何かを耳打ちした。


(シシリー姫。此処はフィスと仲良くしておいた方が得策ですよ。フィスは血は繋がって無いとは言え、最早ソールの姉同然。将来、ソールの家族に為る方が居たら、フィスは其の方の義理の姉に為るのです)


 シシリーが何かに気付いたように、ハッとなった。何だ。何言ったんだ。


(其れに、自分の好きな方々がいがみ合っている所を見るソールはどう思うでしょう。悲しい気持ちに為ると思いませんか? 心象も悪く為ります)


 今度はぐぬぬと唸っている。ホントに何を言ってんだろう。


(ほら、フィスは大人の対応をしようとしています。其れに対して、貴女が子供の様な対応をして良いのですか? そうなれば、ソールの気持ちがどうなるか。想像に難くないですよね?)


 ついには諦めたような顔になった。

 そして何か逡巡するような間があり、やがてぎこちなくフィスの手を取った。


「私こそ、昨日は申し訳ございませんでしたフィス様」


 おお、仲直り? した。

 一体何がどうなったんだ?

 僕は驚きの表情のままカスミを見た。


「ふふっ」


 それに対してカスミは悪戯っぽい笑みを浮かべて返してきただけだった。

 昨日あんなに仲違いしていた2人をこんなに容易く和解させるなんて、カスミ恐ろしい子!




「で、何で2人とも教室まで付いてきてるの!?」


 何故かフィスとカスミは僕達の教室まで付いてきていた。いや、学年違うでしょうアンタ達。


「何を言っているんだい? この学園は、単位取得制。授業は必修以外は選択自由だよ? 私達がどの授業を受けたっていいじゃないか」


「そうよ」


 確かにその通りだけど。


「まぁまぁ、いいじゃないか。なんなら授業のコツとかも教えてあげるからさ」


「え、マジっすか!?」


 その提案に飛びついたのはエインだった。


「いやー、すでによく分かんなくなりかけてたから助かるわー」


「そうなの? それなら僕に聞いてくれればよかったのに」


「それもそうなんだけどよ、やっぱ経験してる先輩って頼りになんじゃん?」


「まぁ確かに」


 気持ちは分からんでもない。


「良し、なら決まりだね。ほらほら、授業始まっちゃうよ。教室入ろう」


 背中を押されて、やや強引に教室内へ押し込まれた。

 僕らが入った時点ではそうではなかったけど、後からフィスが入ってきた事で、教室内が俄にざわついた。


「あれ、序列1位のウェネーフィカ先輩じゃね?」

「ホントだ! シシリー様もいるよ」

「先頭のもこないだ武術科の最初の学年序列戦で話題になった奴じゃねーか」

「え、なに? ウェネーフィカ先輩が有望な1年を傘下に加えたってこと?」

「マジか。1人でも最強だったってのに、これ以上戦力増強されたらどうしようもないぞ」

「逆にシシリー様がお声掛けしたのかもよ?」

「それもありうるな」


 おお、なんか色々言われてるな。

 そっか、フィスもシシリーも有名人だもんな。一緒に居たらこうなるか。あんまり目立ちたくないんだけどなぁ。

 結局その日の授業は全部、好奇の視線を背中に集めながら受けることになった。


 次の日にはシシリー&ウェネーフィカ派の構成員という扱いになっていた。

 カスミ曰く、この学園において派閥というのは実際に存在するらしい。

 高名な貴族と仲良くする事で、卒業後の進路を約束してもらったり、逆に貴族も有望な戦力を在学中に取り込んだりする。この学園内での勢力が、卒業後も少なからず影響するのだとか。

 まぁ、この国の人間でない僕やフィスやカスミにはあまり関係のないことだけど、ユミルの貴族であるセラには関わりあることだろう。本人は気にしてなさそうだけど。

 シシリーは1番気にしないといけないみたいだ。今のうちにユミル国内にヴィンガルフ友好派を作っておけば、外交で有利に働くからだ。ヴィンガルフからも当然それは言われているだろう。ユミルの貴族もシシリーとは良い関係を築きたいはずだ。いまユミル聖王国の為政者であるモルガナは、ヴィンガルフとの国交を重視しているきらいがある。今のうちにヴィンガルフと繋がりを出来るだけ持っておきたい貴族は多い。その相手が王族ならなおさらだ。

 多分、その辺りがモルガナがシシリーのボディガードを僕に頼んだ一因なんだろうな。

 確かに、そういうのはあからさまな兵士がやるより、僕みたいに一般の生徒の立場の人間のほうがやりやすい。

 けど、それ以上になにかある気がする。今はただ、そんな気がする、程度のものだ。


 この予感が当たらないと良いけど。

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