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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
2章:ユミル王立士官学園
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13話 姉VS妹 そして、真の敵

 さて、僕ことソールはただいまユミル学園の食堂に来ています。

 ユミル学園の食堂では安価で美味しい食事が出るので、生徒――特に平民層には大人気です。授業が終わると、そこそこ広いはずの食堂は生徒でごった返します。

 しかしどういうことでしょう。いま僕の周りは非常に人が少なくなっています。本来なら座る場所の確保さえ困難なのに。

 その理由は至って簡単。

 誰も獰猛な虎に近寄りたくないだけなのです。

 最初は野次馬的に遠巻きに様子を窺っていた生徒もいたけれど、フィスとシシリーの睨み一発で蜘蛛の子を散らすように去っていった。


 食堂のテーブルは長方形になっており、現在の席順はこう。


 ヒルダ シシリー ソール フィス カスミ

 [                      ]

     セラ  エイン 


 ちなみにヒルダは座らずシシリーの横で立って控えている。

 この状態になってから10分くらい経つだろうか。食堂なのに誰も料理を取りに行っていない。あのセラですら、黙って座っている。

 短いながらも、永遠に続くんじゃないかと思われた沈黙は、意外とすぐに破られた。


「ソール? そちらの方、紹介してくれない?」


 シシリーが口を開いたのだ。

 しかし、何故かいつもの可愛らしくも透き通るような声ではなく、異様に低い。


「えっと、こっちがフィスで、奥がカスミ。前に言っていた、僕がお世話になっている家の人だよ」


「へぇ、この子が。初めましてフィスさん。私はシシリー・アルフォズール・ヴィンガルフと言います。ソールの幼馴染みです」


 言い方がやけに刺々しい気がする。


「そう。私はソールの姉よ」


 フィスの声もいつも通り凛々しい。凛々しいけれど、やけに重い。


「あ、私はカスミです」「私はヒルダと申します」


 横でカスミとヒルダも名乗っていたけど、誰の耳にも届いていなかった。エインとセラは口すら開いていない。


「姉? ソールに姉なんていないでしょう」


「え、あー、まぁ、確かに血は繋がってない、かな?」


 何だこのプレッシャー。言葉が上手く出せないんだけど。


「血は繋がってないけど、私とソールはずっと一緒に暮らしてたんだもの。家族同然なの。ねぇ、ソール? そうよね?」


「あ、うん。そうだね」


「ふぅん。でも私も家族ぐるみでお付き合いしてたけどね。ね、ソール?」


「そ、そうだね」


 なんで僕に振るの!?


「だから何よ。私達は同じ家で暮らしてたんだから」


「っ。で、でも私はソールと一緒に寝たこともあるもん!」


 あったっけ? あったな。酔いつぶれた時だ。


「それなら私は、は、はだ、裸を見られたことがあるわ!」


「ちょ、それは!」


 不可抗力だ! 確かにうっかり見てしまったけど! 違う! 僕はロリコンじゃない! いや、でも肉体年齢的には問題ないのかって、違う!


「は、ははは、はだっ!? ソール、本当に!?」


「いや、それは、その」


「見たのね?」


「は、はい」


「ふふん」


 その事実にシシリーは憤慨し、何故かフィスは得意気になった。あの時はあんなに怒ったのに。

 しかしシシリーはフィスの顔から少し目線を下げると、急に勝ち誇った顔になった。そして胸の下で腕を組んで、自らのおっぱいを持ち上げた。


 ブチッ。


 何かが切れたような幻聴が聞こえた。


「コロス!」


「わああ! 姉さん、落ち着いて!」


「フィス、ここではダメです!」


 両手に魔力を集中し始めたフィスを、僕とカスミの二人がかりで止める。

 らめぇ! 食堂壊れちゃうぅぅぅ!


「って、うわぁ! それもダメだって! 仕舞って仕舞って!」


 さらには精霊までも出そうとしていた。食堂どころか学園が壊れる!




「フーッ! フーッ!」


 どうにかこうにかフィスは落ち着いて……落ち着いて?

 とにかく魔法の発動は止めてくれた。

 しかし一触即発。次またいつ暴発するか分かったもんじゃない。

 シシリーもシシリーだ。

 こんな風に人を挑発する子じゃないのに、今日はどうしたんだ? それとも会わなくなって数年、彼女も変わってしまったのだろうか。今も反省するどころか、フィスと睨み合っている。てか、フィスと睨み合えるって凄いな。普通の人なら気絶必至だぞ。

 とにかく理由はわからないけれど、不味い流れだ。何とかして話題の方向転換を図らねば。そう考えて、僕はすぐに気が付いた。そうだ、ここは食堂だ。


「えっと、お腹空かない? 何か食べない……かな?」


 おそるおそる提案してみた。

 二人はお互いからゆっくりと目線を外して僕を見た。やめて、その目つきのままこっち見ないで!


「そうね。ご飯にしましょうか。ソールは、チーズ好きだったわよね?」


「うん、そうだね。よく覚えてたね」


「もちろんよ」


 ドヤ顔である。


「ソールはチーズは焼いてあるほうがよかったわよね? 私の作ったグラタン大好きだもんね?」


「え? そうだね。好きだよ」


 フィスの作るグラタンは絶品だ。出る度に喜んでいた自分がいた。


「そ、ソールは果実のジュース好きだったわよね! 特にマールスが」


 マールスとは林檎みたいな果物の事である。というか林檎そのものだ。


「う、うん。マールスのジュース好きだよ」


「ソールはレプスのお肉好きよね! 一緒に食べたものね!」


「レプスよりスースの方が好きよね? フローラおば様に調理してもらって食べたものね!」


「レプスよね!?」


「スースでしょ!?」


「えっと、どっちも好きかなぁ。って、いうのはダメかなぁ?」


 本当にどっちも好きなのだ。


「「ちっ」」


 あれ? 二人同時に舌打ちした?


「ソールは釣りが好きなのよね! よくミーミルの泉の支流で釣りしたものね!」

「ソールは読書が好きなのよ! 特に冒険譚が!」

「ソールは虫が苦手なの! 可愛らしいとこもあるんだから!」

「ソールは字が下手なのよ! 読むの大変なんだから!」

「ソールは5歳の頃には四則演算マスターしてたんだから!」

「ソールは10歳で三大言語を覚えたのよ!」

「ソールは3歳で初めて魔術を!」

「ソールは7歳でD級魔獣を!」

「ソールは!」

「ソールは!」


 なにこれ。なんで僕の情報合戦みたいになってるの? それに僕のことを話してるはずなのに、もう二人共僕のこと目に入ってないし!

 どうしようと思って右往左往していると、そっと横から飲み物が差し出された。


「ソール。マールスのジュースがあったから持ってきたわ」


「あ、ありがとうカスミ」


「どういたしまして」


 カスミはにっこり微笑むと、自分の分のジュースを口にした。僕も続いてジュースを口に含む。


「ぐぬぬ。そ、ソールはこう見えてマザコンなのよ!」


「ブーーーーッ」


 何言い出すのさシシリー!?


「そんな事知ってるわよ!」


 フィスまで!?


「ちょちょちょ、待って! お願いだから待って!」


 人がマザコンだとか大声で叫ばないで!


「なによ」


「なによじゃないよフィス! シシリーも! 何で僕がマザコンってことになるのさ!」


 僕が抗議の声を上げると、二人は揃って驚いた顔をした。

 え、何? 変なこと言った?


「まさかソール、自分のことマザコンだと思ってなかったの?」


 シシリーが心底驚いた顔で聞いてきた。


「そりゃまぁ、母様は尊敬してるけど、マザコンって程じゃ」


「でも、おば様のこと好きでしょう?」


「それは、好きだよ。嫌いになるわけないじゃないか。美人で賢くて強くて優しくて」


 うん、そんな人を好きにならない方がおかしい。


「私のお母さんも好きよね」


「え、スカジ? うん、尊敬してる。何でも知ってて、厳しいけど優しくて。料理も美味しいし」


 うん、そんな人を好きにならない方がおかしい。

 普通に普通のことを答えた。

 そのつもりだったのに、何故かフィスとシシリーから呆れた目を向けられた。


「え、なに? どしたの?」


「「はあ」」


 さらに同時に溜息をつかれた。


「ホントになんなのさ!」


 僕の叫びを無視して二人は脱力して椅子にもたれた。


「なんだか疲れたわ」


「私も。お腹空いた」


「何か食べましょうか」


「そうね」


「ヒルダ」


「カスミ、お願いしていい?」


「はっ」


「うん、いいよ」


 僕の存在をスルーしたまま両隣の4人は話を終えて、次の行動に移り始めた。


「えー、なんなのさ。ねぇ、エイン。セラ」


 微妙な疎外感から、向かいの二人に声を掛けてみたが、


「あー、俺も飯食ってくか」


「ウチもー」


 二人にもスルーされた。

 なんだってんだ、ホントにもう。

 仕方ないので、僕も料理を取ってきて食べた。

 美味しかったけど、なんだか美味しくなかった。

 そうして妙な脱力感のまま解散となった。


「本当の敵は思わぬ所にいるのかも」


 誰かの呟きだけが最後に漏れて、溶けていった。

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