8話 序列
読み直していて、文章が抜けていることに気が付きました。
4話 馬車にて
冒頭部分が抜けていたので足しました。
申し訳ないです
入学式にモルガナとの会話に、シシリーとの再会。
なんだかんだで結構な時間が過ぎ、帰る頃には夕暮れ近くとなっていた。
やや急ぎ足で寮に帰ると、夕飯時だったらしく、広間に住人と料理が揃っていた。
「お、帰ってきたか。いいタイミングじゃねぇか」
まずエインが僕に気づき、
「おっかえりー」
料理に釘付けになっていたセラが続いた。
「帰ったか、我が同胞よ」
管理人であるヴィヴィアンも食卓についている。今朝見たカボチャの被り物をしているから顔は分からないんだけど、こんな同居人が二人いてたまるか。
相変わらず言ってることが中二くさい。
「飯は食ってきたのか?」
「ううん、話をしただけだよ。もう日が暮れそうだから帰ってきたんだ」
「そうか。なら丁度いい。飯出来上がったから食ってけよ」
「え、でも」
僕は食事を作ってもらう契約はしてない。
「いいよ、気にすんな。今日は入学祝いって事で大量に作ったからよ。パーッといこうぜ」
正直、お腹はペコペコだ。
にしても、今朝もごちそうになったけど、いいのだろうか。
けど、鼻孔をくすぐる温かい食事の匂いが、僕の懊悩を掻き消してくる。
うん、いいって言ってくれてるんだし食べよう。
「そういう事なら遠慮無くもらおうかな」
「おう、食え食え」
というわけでご相伴に与ることとなった。
「で、どんな話をしたんだよ?」
食事が始まった所でエインが聞いてきた。
「んー、別に大したことは。昔話で盛り上がっただけだよ」
「ホントか? やけに親密そうだったのにか?」
「って言われてもなぁ。向こうも懐かしくて、あんな態度になっただけだろうし」
「……え、お前ソレ本気で言ってんの?」
「?」
本気で言ってるとはどういうことだろうか。
嘘を付いているつもりはないけど。
「マジか。いや、いいけどよ」
何故か呆れられてしまった。
なんなんだ。
「じゃあ、モルガナ様とは何の話をしたんだよ。まさかそっちも昔話とか言わないだろうな」
「モルガナだと?」
エインの質問に答える前に、横でご飯を食べていたヴィヴィアンが反応した。
なお、被り物はしたままである。カボチャの口のところから食べ物を入れて食べているようだ。無駄に器用だ。
「モルガナに会ったのか?」
食事の手を止めて、ヴィヴィアンが僕へと向いた。
その声色は硬く、少し怖いくらいでもあった。
「え、えぇはい。今朝、登校する時に。というか、エインとセラも会ったはずですけど」
「そうなのか?」
「あれ? 言ってなかったっけか」
エインは続けて今朝のあらましを話した。
表情は分からないが、ヴィヴィアンの雰囲気はいっそ険悪といって言いほどになっていった。
「挨拶だけか? 他に変わった事は言われてないか?」
「変わったこと? いや、ないな。本人と付き人は変わり者っぽかったけど。なあ?」
エインが同意を求めてきたので、首肯して返した。
確かに変わり者ではあったけど、変なことは言われてない。
馬車の中では。
「そうか。ならばよい」
ヴィヴィアンはそう言ったあと、考え事をしているかのように黙りこみ、やがて残っていたワインを飲み干した。
そして席を立つと、
「我はこれより休息に入る。邪魔するでないぞ」
足早に自室へと引っ込んでしまった。
僕とエインは顔を見合わせた。
「なんだったんだ?」
「さあ?」
なんだか微妙な空気が流れてしまった。
セラは変わらずご飯を貪っているけど。その神経に感心する。
「あー……そういえば聞きそびれてたけど、どの学科にはいるんだよ?」
そしてエインが無理矢理話題を変えた。
「一応、武術学科に入ろうかと思ってるよ」
僕もそれに乗っかる。
「へぇ。確かに今朝は剣振ってたもんな」
「え、ソール武術科なの?」
「うん、そのつもり。セラは?」
「ウチ? ウチは錬金科だよ」
「そうなんだ? なんというか、まぁ……」
意外だ。
錬金科は、頭を使う。研究職みたいなもので、他の科に比べて、圧倒的に学力重視だ。
正直、セラはそういった事には不向きっぽいんだけど。
「ハッキリ言っていいぞ。セラはアホだから錬金科は向いてねぇって」
僕の表情から読み取ったのか、エインが笑いながら言った。
「むぅ。誰がアホだよ。もー」
「ははは、だってそうとしか見えねぇもん。まぁ、でも残念ながらソールの見当違いだな」
「どういうこと?」
「セラはアホそうに見えて、いや、確かに実際アホなんだが、学術に関しては成績優秀なんだよ」
「えっ!?」
「中等部の時点ですでにいくつか実用レベルの魔道具を作り出してる。いわゆる天才ってやつさ」
「へぇ」
「ふふん」
僕が感心してると、セラがドヤ顔で胸を張っていた。
頬に食べかすがついてるせいで、かなりアホっぽい。
「ま、そっちに才能いきすぎてて、他が残念な事になってんだけどな」
「残念ってなんだよー」
「それが分かんねーとこだよ」
指摘されたセラは、どういうことさ、と頭を回している。
天才……うん、とりあえずこの事は今は棚の上にあげとこう。
「えっと、エインは何の学科に入るの?」
「俺? 俺はお前と一緒で武術科だよ」
「あ、そうなんだ? じゃあ、よろしくね」
「おう。だけど、序列では負けねーぜ」
「……じょれつ?」
聞いてない単語だ。
なんだそれ、と首を傾げていると、エインが信じられないといった表情で僕を見た。
「おい、まさか知らねぇのか? 知らずに武術科に入るつもりなのか?」
「う、うん」
そもそも僕は錬金科に入るつもりで、武術科に変更したのはついさっきだし。
「お前もセラのことどうこう言えねぇぞ。まぁいいさ。教えてやるよ」
「ははは、よろしく」
物凄く呆れられてしまった。
なんだろう、武術科に入るにはそんなに大事な知識なんだろうか。
「いいか、序列には学年序列と総合序列がある。序列ってだけでいう場合は総合序列を指すことが多い。そんで序列ってのは何かってーと、強さの順位だ。学年序列は各学年、各学科毎での順位だな。武術科は戦闘の強さ。他の学科は成績順だ」
「ふむふむ」
「これは一月ごとに変わる。そんで上位5人は学費が免除される」
「えっ、そうなの!? 本当に!?」
「お、おぉ、急に食いつきが良くなったな。本当さ。毎月、各学年各学科においての成績優秀者5名は学費免除だ。そんで次に総合序列だが」
「それも何か特典があるの?」
「がっつきすぎだろ! まだ序列の説明すらしてねぇよ」
「あ、うん、ごめん」
ついつい。
文無しで、稼ぎ口もないから焦ってしまっているようだ。
「えーっと。んで、総合序列だな。これは学年学科関係なしに、ただひたすら実戦での強さの順位だ。細かいルールはいくつかあるが、要は順位が上の奴を倒せば、そいつと順位が入れ替わる。ただし、挑戦できるのは5つ上の奴までだ。総合序列の場合、上位30名に奨学金が出る。返済は不要のな」
「おお!」
「金額は上位に行くほど高い。1位だと確か10万ルッカくらい出るんじゃなかったか」
「そんなに出るの!?」
10万ルッカもあれば働かずとも余裕で暮らしていける。ちなみにルッカはお金の単位である。日本円に換算すれば1ルッカで10円位だろうか。
「いや、1位の金額だからな? 序列上位は上級生の強者がゴロゴロしてやがる。普通に考えたら無理だ」
「でも、今の1位は2年生じゃなかったっけ?」
「あぁ、ウェネーフィカさんか。確かにそうだが……彼女は規格外だ。学園設立以来の天才と言われてて、歴代1位の中でも断トツに強いって話だ。まだ2年なのに騎士団から上位ポストが約束されてるって噂もある」
「へぇ。あんましそういうのには興味なさそうだけど」
「確かにな。あの人は何に対しても興味なさげではあるな」
「詳しいね」
「言ったろ。有名人だって」
「そういえばそっか」
にしても、そんなに貰ってるのか。いいなぁ、羨ましいなぁ。
「1位は無理にしても、序列30位に入ればお金は貰えるんだよね?」
「まぁ、そういうこったな。狙うのか?」
「無謀だと思う?」
「いや、向上心があるのはいい事だと思うぜ。俺だって、すぐには無理にしろ、上位は狙うつもりだからな」
「そっか。じゃあ、ライバルだね」
「そうだな。改めて言うが、負けねーぞ?」
「うん、僕も頑張るよ」
エインから学園の事をアレコレ聞きつつ、食事を終え、僕は自室に戻っていた。
「しかし……色々あって疲れたな」
体力的には大丈夫だけど、精神的に疲れた。
僕は水を汲み置いた桶にタオルを浸し、それで身体を手早く拭くと、すぐに寝床についた。
「明日は学力と体力の測定だっけか。序列上げるためにも、そこそこ上位につかないとな」
あんまり目立たないようにしつつ、成績も良くする。
よし、がんばろう。
そう決心し、僕は眠りに落ちていった。
夜。
街全体が寝静まった時間。
僕は何かの気配を感じて目を覚ました。
(殺気……じゃないか。でも、害意のある気配だ。僕やこの寮に向けてるってわけでもない)
気配を殺して窓へ近付く。
そっと窓の木板をずらして外を窺うと、月明かりに照らされて影が一つ屋根の上に浮かび上がった。
暗いのと逆光のせいで輪郭がハッキリ掴めない。
けど、あのシルエットは見覚えがあるような。
その影は不穏な気配を出したまま、夜の闇に消えていった。
(なんだったんだろう……)
追うことも考えたが、眠気もあったし、直接こちらに害があるわけでもなかったから、特にはなにもしない事にした。
この時の判断を、僕は後悔することになる。




