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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
2章:ユミル王立士官学園
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7話 幼なじみとの再会

 モルガナとの話を終えて、僕は案内されるままにシシリーの私室へと移動していた。どうもさっきから曲がり角が多い。というか、余計な遠回りをしている。

 道を覚えないようにされているのだろうか。まぁ、信用されてないのも仕方ないかな。シシリーはともかく、スカジのことがあるとはいえ僕とモルガナは初対面なんだし。


 というわけで歩くこと数十分。ようやく僕はシシリーの部屋の前に到着した。これ、まっすぐ来たら3分くらいで付いてたじゃん。

 なんで分かるかって?

 ジャングルと呼んで差し支えない所に修行だとか言って、しょっちゅう放り込まれていた人間の方向感覚なめんなよってことですよ。


「シシリー様。ソール様をお連れしました」


「どうぞ入って!」


 案内の人が声を掛けると、食い気味で声が返ってきた。

 続いて、


「いけませんシシリー様。まずは私が出迎えますから!」


「で、でもでも!」


「でももへったくれもありません。何時もそうしていたでしょう」


「うぅ、そうだけど……」


「いいですから、じっとしていて下さいね」


 なんてやり取りが扉の向こうから聞こえてきた。

 丸聞こえで反応に困る。案内の人も困った顔をしている。

 少しして扉が開き、メイドが顔を出した。さっき会った子だ。ヒルダって言ったけか。


「お待ちしておりましたソール……様。どうぞお入りください」


 いや、様って言いたくないなら付けなくていいんだよ? むしろそんな苦虫を噛み潰すような顔をされる方が嫌だ。


「ソール!」


 部屋に入るやいなやシシリーが破顔して飛び込んできた。


「おっと」


 さすがに今度は押し倒されずに抱きとめられた。

 シシリーは僕の胸に顔をぐりぐりと押し付けてくる。犬みたいだなぁ。


「ふんっ」


 しかしすぐにメイドのヒルダに引き剥がされてしまった。ついでに睨まれた。


「シシリー様。そのような体勢は話をするに不向きです。ご着席下さい」


 そういうとメイドはシシリーを抱えて、そのまま席へと座らせた。

 さっきも思ったけど、このメイドえらく主人に親しげというか、無遠慮だな。僕が屋敷にいたころは、いくら仲が良くとも主人をこんな風に扱うメイドなんていなかったけど。まぁ、シシリーだし、このくらいで怒ったりはしなさそうだもんなぁ。


「ソール様も。いつまでそこで突っ立ってらしゃるのですが。鬱陶し……どうぞお座り下さい」


 シシリーがどうとかじゃなくて、ヒルダが無礼なのかもしれない。

 僕が促されるままに椅子に座ると、対面に座っていたシシリーが、目にも止まらぬ速度で僕の横へと移動してきた。動きが自然すぎて反応できなかったんですけど。

 ヒルダも何か言いたげだけど、言っても無駄だと思ったのか、呆れた溜息を一つ付いただけだった。


「ねぇねぇ、どうしてソールがここに来たの? そりゃ学校に通うためだよね。でも、なんでまた? それに何で今まで連絡くれなかったの? 私ずっと心配してたんだよ。それにスカジ様って誰? 一緒に居た2人も誰なの?」


 シシリーの質問が矢継ぎ早に繰り出される。答えることすら待ってくれない。


「そうだ! ソールが生きてるってことは、フローラおば様も!」


 と、そこまで言ってシシリーの言葉が止まった。

 自分では見えないけれど、おそらく僕の表情が強張ったからだろう。気持ちの整理がついたとはいえ、未だにフローラの名前を聞くと平常ではいられない。


「そっか……おば様は……」


 シシリーはそれで察したようで、表情を曇らせて俯いてしまった。

 しばしの沈黙。

 やがてシシリーが口を開いた。


「何があったの? ソールとおば様がウィヨルギュンへ発ってから二月くらいして、伯爵から手紙が届いたの。まだ着かないけど、結局こっちには来ないのかって。それでスタルスおじ様は初めてソール達が行方不明になってるって気付いて。捜索隊も出されたけど、何も見つからなくて。本当に、何があったの?」


 そっか、家ではそんな事になってたんだ。


「うん、結論から言ってしまうと。僕たちは暴龍山脈へと這入ってしまったんだ」


 それを聞いてシシリーは息を呑んだ。ヒルダも驚いたようだ。


「どうしてそんな事に!?」


「それは、かなり話しづらいんだけど」


 嵌められただなんて、話していいものか。

 でもシシリーを説得しないと、そのうちヴィンガルフに僕の生存報告がいくだろう。黒幕が分かるまではそれは阻止したい。父様にも害が及ぶかもしれないし。

 いや、シシリーに話すのはまだいい。

 けれど……。

 僕は視線をヒルダに移した。

 ヒルダはすぐに察したようで、シシリーも逡巡してから気付いた。


「ヒルダなら大丈夫だよ。他言しちゃいけない事なら絶対に漏らさないから。信じて」


 紺碧の瞳に真っ直ぐ見詰められる。

 この深くも澄んだ瞳を見ていると、簡単に信用してしまいたくなる。


「そうだね。正直、ヒルダさんを信用していいのかまだ僕にはわからないけど、シシリーを信じることにするよ」


「うん、ありがとう」


 シシリーは嬉しそうに笑った。

 う、かわいい。


「こ、こほん。それじゃあ話すよ。何があったのか」


 ここからはとてもじゃないけれど、浮ついた気持ちで話せない。そこまで割り切ることは僕には出来ないからだ。このことを思い出す時はいつだって死にたくなるほどに気分が沈む。


「あの日……僕たちがグラズヘイムを出発してから」




 そうして僕は何者かの策略で暴君竜タイラント・ドラゴンと遭遇してしまった事から、スカジに救われたこと。そこで強くなるために弟子入りした事。その一環として、スカジにこの学園に入学するよう言われてここまで来たことを話した。

 修行の内容とかは、必要なさそうだったので省いた。




「そっか。そんな事が……。うん、分かった。本国にはソールが見つかったことは内緒にしておくね。ヒルダも、絶対に他の人に話さないでね」


「御意のままに」


「でも、やっぱりおじ様だけでも話せない? ソールは知らないと思うけど、2人がいなくなってからのおじ様は見ていられないくらいで。インウィディア様とラース君がいるから気丈に振る舞っておいでだけど、やっぱり凄く寂しそうなの」


「父様……」


 それは何度か思ったことがある。

 スタルスにだけでも報告しようか。

 スカジに頼めば、誰にも見つからずスタルスにだけ知らせる事は可能だろうから。でも、僕が生きてる事やフローラが居なくなった事を知れば、少なからず態度に出るだろう。

 それで黒幕に気付かれるのはまずい。

 結果的にスタルスにも危険が及ぶ可能性すらある。

 だから結局、毎回諦めるのだ。

 そして今回も、僕は否定する。


「うん、やっぱりダメだ。父様の安全を考えると話せない。いつか、きっといつか話すけど、まだダメなんだ」


「そっか」


 シシリーは残念そうな顔をしたけれど、それ以上は何も言わなかった。


「ところでソール」


「ん?」


 あれ? なんか空気変わった?


「話に出てきたフィスっていう子について聞きたいなぁ」


 なんだろう。

 シシリーは笑っているのに、なんか怖い。


「えっと、フィスは僕らの一つ上のお姉ちゃんで、スカジの娘だよ」


「うん、それは聞いた。そのフィスちゃんとずっと一緒に暮らしてたの?」


「そりゃまぁ、スカジの家に世話になってたし」


「その子、かわいい?」


「えっ? あー、可愛いというか美人かなぁ。やっぱりスカジの娘なんだなぁって思う事がよくあるし」


「そう。美人なんだ? へぇ」


 誰か冷房つけた? 急に室温下がったように感じるんですけど!

 あと、よく見るとシシリーの目が笑ってない!


「えっと、どうしたのかなシシリー?」


「なに? どうしたって何が? 何を聞いてるのか分からないなぁ」


 ひぃぃ!

 シシリーが怖い!

 なに? なんで? 僕なんかした?

 助けを求めてヒルダを見ると、彼女も凍える程に冷えた目で僕を見ていた。

 冷たい視線の少女2人に挟まれるとか、変な趣味に目覚めちゃいそう。

 なんて冗談言ってる場合じゃない。

 どうした。

 一体何がシシリー達をそんな怒らせてるんだ!?


「はぁ」


 僕が混乱していると、シシリーが大きな溜息を付いた。

 同時に空気が弛緩した。

 よく分からないけど助かった?


「まぁいいですけどねー」


 シシリーは呆れた表情でそっぽを向いた。

 うーん、本当になんだったんだ。


(一緒に暮らしてても、どうも恋愛に発展してないみたいだし。今は一緒にいる私のほうが有利だし)


 シシリーが小声で何か呟いている。

 よく聞こえないけど、どうしたのかな。

 やがて拳をギュッと握ると、僕へと向き直った。


「そういえばソールはどの学科に入るの?」


「僕? 僕は錬金学科に入るつもりだよ」


「え、錬金!? なんで? 武術学科じゃないの!? もう剣は止めるの?」


「いや、そういうわけじゃないけど。剣は今でも振ってるよ。逆に習ったことのない錬金術やってみたいなーって思って」


 本当にそれだけである。特に深い理由はない。

 でも待てよ。

 さっきモルガナにシシリーの護衛を頼まれたんだっけ。

 あまり積極的にいかなくていいって事だったけど、なんか引っ掛かるんだよなぁ。授業自体は選択式とはいえ、同じ学科にいた方が見ていやすいよな。


「シシリーは何学科に入るの?」


「私はもちろん武術学科よ。お祖父様にずっと師事してきたんだもの」


「そっか。じゃあ僕も武術学科に変更しようかな」


 学科を決めるのは入学後だから、まだ間に合う。間に合わなくても、モルガナに言えばなんとかしてくれそうだし。


「ホント!? ホントのホント!?」


「う、うん。僕も知り合いがいた方がいいしね」


 君を守るためなんて言えないので、ちょっと理由ははぐらかした。


「やった! じゃあ、一緒に勉強頑張ろうね!」


 シシリーが両手をグッと握った。

 かわいい。


「チッ」


 しかし、その向こうではヒルダが舌打ちをしていた。

 やっぱ、嫌われてるよな。何かしたっけ? いや、出会いから嫌われてたような気がするけど。でも、嫌われたままってのもイヤだなぁ。なんとか出来ないだろうか。


「えっと、ヒルダさんもユミル学園に通うの?」


 とりあえずジャブとして話を振ってみる。


「貴方には関係ないでしょう」


 取り付く島もなかった。


「もう。ダメでしょう、ヒルダ」


 その態度をシシリーが窘めるが、いかんせん迫力がなかった。


「はい、申し訳ございません」


 しかしヒルダは神妙な顔で深く頭を下げた。

 もしかして、シシリーには素直なのかな?


「ヒルダも私と一緒に学園に通うんだよ」


「へぇ、そうなんだ。よろしくお願いしますね」


 笑顔で握手を求めると、


「チッ。宜しくお願いします」


 舌打ちが返ってきて、汚いものにでも触れるように人差し指だけ摘まれた。

 この扱い精神的に結構くるな……。


「ヒルダってば」


 シシリーは、しょうがないなぁといった感じである。

 そんなんで済ませていいのだろうか。

 ちょっと学園生活が不安になったのであった。

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