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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
2章:ユミル王立士官学園
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5話 入学式

 ほどなくして学園内に到着した。どうも学園内でもかなり奥まったところに停まったみたいだ。そりゃ、女王様が校門前にいきなり現れたらパニックになるか。

 安全確認のため、まずティティスが降りた。緊張した様子で辺りを見回していたが、特に問題は見当たらなかったらしい。


「では順番に降りてきてください」


 下車を促され、扉に近かったエインが出て、セラも後に続いた。意外なことにエインはキチンとセラの手を取って降ろしている。いわゆるエスコートというやつだ。そういうことするタイプには見えなかったけど。でも、しっかりしてるから気は回るってことかな。

 次は僕だ。流れ的に僕がシシリーをエスコートしなくてはならないんだろう。嫌ってわけじゃないけど、照れくさい。


「はい、シシリー」


 僕が手を出すと、シシリーは照れているのか喜んでいるのか、はたまた嫌がっているのか、とにかくよく分からない表情で僕の手を取った。

 その瞬間、不意に殺気が膨れ上がった。

 ついさっきまで何も感じなかったのに!


「――っ」


 咄嗟にシシリーを馬車内へ押し戻し、すぐさま殺気を感じた方へと向く。


「って、メイド?」


 すぐ傍で控えていたっぽいメイドが僕を射殺さんばかりの目で見てくる。そして気付いた。それは殺気というより敵意で、他の誰でもない僕に対してのものだって。

 でもこのメイドさんとは初対面のはずだし、こんな敵意を向けられる覚えが全くないんだけど。


「あたた……どうしたのソール? 急に押したりして」


 困惑しているとシシリーが馬車からひょっこりと顔を出した。


「何見てるの――って、ヒルダじゃない。お迎えご苦労さま」


「はい、シシリー様」


 僕へ向けていた敵意はどこへやら、ヒルダと呼ばれたメイドは恭しく礼をした。


「えっと、知ってる人?」


「うん、私の付き人。ヴィンガルフから一緒に来てもらったの。ねっ」


「はい。シシリー様のお世話をさせていただくため、ご同行させていただいております」


 そうか。

 まぁ、怪しい人ではない……のかな?

 とか考えてたら、ヒルダが急に僕とシシリーの間に割り込んできた。

 ちょ、狭い。ていうか足踏んでるって。痛い痛い! すっごいグリグリされてる!


「さぁ、シシリー様行きましょう。長旅でお疲れでしょう。お部屋の準備は整っております」


 しかし彼女は何でもない顔をしたままシシリーへと手を伸ばした。


「王都から馬車に乗ってきただけだからそんな疲れてないし、まだいいよ。それにまだソールと話してない――って、きゃっ」


 言い終わるか言い終わらないかって所でヒルダがやや強引にシシリーを引っ張った。

 ついでに足も離れた。

 不敬にならないの、このメイド。


「先ほども言った通りじゃ。お主には仕事が残っておる。ソールとは後で話すのじゃ」


「はぁい」


 そしていつの間にか降りてきていたモルガナが再びシシリーを窘めた。


「さて、お主たちは今から入学式じゃな。入学式は……おいティー。一般生徒の入場口はどっちじゃ?」


「あちらでございます」


「うむ、そうか。あっちじゃそうじゃ。遅れようにな」


「は、はい」「うーす」「分かりました」


 三者三様の返事をして僕らはその場を後にした。

 シシリーはまだ何か言いたがっていたけれど、これ以上は彼女のためにもならないと思って、手を振るだけにとどめた。




 学校内は非常に広かったが、エインがバッチリ下調べしてくれていたお陰で迷ったりせずに済んだ。中等部に通っていたというセラはもちろん役に立たなかった。どうやって通学してたんだろう……。


「それにしても驚いたよ。セラって貴族だったんだね」


「そだよー。とは言っても、ペリノーア家はあんまり目立たない男爵家で、しかもウチは6人兄弟の末娘だからなぁんにもないんだけどね」


「そなんだ」


 ヴィンガルフでは男爵家の末娘っていうなら、正直お嫁に出す以外に期待されることがない。多分、ユミルでも変わらないとは思うけど。


「ま、俺のトコの店子(たなこ)なら貴族とか関係ねーけどな」


 エインが悪ガキっぽく笑い飛ばした。驚いた様子はないから、さすがに大家だし知ってたんだろうな。


「ンなことよりソール。お前はどうなんだよ。ヴィンガルフのお姫さんと知り合いって。しかも、めちゃ仲良さそうだったじゃんかよ」


「そうだよねー。もう、仲良し所か、仲仲良しって感じだったもんね!」


「いや、なにさ。その仲仲良しって」


「え、なんかこう、すっごい仲いい! みたいな?」


 聞かれても!


「セラの言う事にいちいち突っ込んでたらキリねぇぞ。で、どうなんだよ」


 くっ、話は逸らせなかったか。


「えーと。昔、ヴィンガルフにいた時に仲良くしてもらったってだけだよ。それも5歳くらいの時」


「けど、お姫さんと会うってだけでも普通ありえなくねぇ?」


 ぐ。やっぱりソコ言われるよね。

 なんか、いい言い訳ないかな………………あ。


「ほら、俺の母親がさ。スカジって言うんだけど」


「スカジ? あぁ、そういえばモルガナ様が様付で呼んでたな。え、なに、お前まさか王族とかなのか?」


「いや、そういうんじゃないんだけど。とにかく顔が広くってさ。それで色んな縁があるんだよ」


「そんな事あんのか?」


「あるんだって」


「ふーん、まぁいいけどよ」


 エインは釈然としない様子ながらもそれ以上の追及は止めてくれた。

 助かった。

 僕はまだ、僕と母様(フローラ)を嵌めた奴を突き止めるまでは、迂闊に身元をバラしたくない。あとでシシリーにも口止めしないとな。






 数分ほど歩くと入学式の会場が見えてきた。

 もちろん体育館とかじゃなくて、式典などを催すための立派な建物だ。

 イメージ的にはサッカースタジアムや陸上競技場が近いだろうか?

 特に決まった場所に整列をしなくてはならない、ということはないみたいなので3人で適当な場所に陣取る。

 程なくして喇叭(ラッパ)の音が鳴り響くと共に、高い位置に(しつら)えられた舞台に偉い感じの人たちが現れた。

 中にはモルガナやシシリーもいた。ひげもじゃのおじいさんは誰だろう。雰囲気的に校長とかその辺の人っぽい。丸メガネの少年を贔屓してたりしそうだ。

 そして主だった教師陣の紹介に、学校長の挨拶――やっぱり髭のおじいちゃんだった――続いて王女様の有難いお言葉。


「私がユミル聖王国第一王女モルガナ・フェ・ユミルじゃ」


 名乗っただけで会場が緊張感に包まれた。

 この国の実質的な最高権力者ということもあるだろうが、彼女の声には何故か耳を傾けたくなる魅力があった。加えて話を聞かなければ、と思ってしまう奇妙な雰囲気。もしかしてこれがカリスマ性というものだろうか。

 いや、先ほどの馬車の中ではそこまでは思わなかった。確かに人間的魅力みたいなものは感じたけど。

 あの時は意図的に抑えていたのだろうか。カリスマ性って抑えられるものなのかは疑問だけど。

 あるいは、そういう技術だろうか。

 詳しくは知らないけれど、演説にだって技術はあると前世で聞いたことがあるし。


「学ぶことに集中できるというのは、おそらく今しかないじゃろう。(みな)には後悔のないよう、向上心を持って学生生活を送ってほしい。以上で私の挨拶は終了じゃ」


 そう、締めくくった瞬間。


「うおー! モルガナ様ー!」


 何処かから声が上がった。後に続いてモルガナを讃える声がぽつぽつと上がっていく。


「モルガナ様ー!」「貴方様に付いていきます!」「ユミル聖王国に栄光あれ!」「モルガナ様に忠誠を誓います!」「モルガナ王女!」


 それは感染するように広がり、やがて称賛の声と熱気が会場を溢れんばかりに満たした。

 なんだこれ、凄いな。モルガナってこんな人気あんのか。

 モルガナコールは本人が収めるまで続いた。


 興奮が冷めやらぬ状態で、次に壇上に立ったのはシシリーだった。

 遠くから見ても蒼い髪は非常に美しく映えていた。

 美しい面立ちに気品のある立ち振る舞い。

 茹っていた会場の空気が変わった。

 その所作一つ一つに会場の人間が注目している。彼女の一挙手一投足を見逃すまいとしている。

 モルガナとの差異をはっきり感じた。

 あぁ、これが本当に生まれ持ったカリスマ性ってやつなんだろうな。


「お初にお目に掛かります。ただいまご紹介に預かりましたヴィンガルフ王国第6王女シシリー・アルフォズール・ヴィンガルフです」


 拡声器を使っているわけでもないのに、その声は遠くまで通って行った。

 話す内容自体は、ユミルを褒めたり、同盟国として仲良くしましょうとか、学校生活でこんな事を頑張りたいとか、そういう普通のことだったけど、それでも彼女の言葉はすんなりと耳に入っていった。

 シシリーと知り合いだからそうなのかと思ったけど、周りを見渡せば、シシリーの言葉を真剣に聞く者たちばかりなので、そういう補正がかかっていたわけでもなかったみたいだ。


「至らない所も多々あるとは思いますが、皆様のご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます」


 そう締めて、シシリーはニッコリと笑った。

 めちゃくちゃ可愛いんですけど。

 何人かの男たちはやられてしまたようで、目をハートにしていた。

 けど、さっきみたいなシュプレヒコールは起こらなかった。なんでだろ。

 なお、2人の挨拶が終わってからは酷いものだった。後に出てきた人の話を聞く奴はほとんどおらず、ちょっと可哀そうな感じになっていた。あれだけのカリスマ性を持つ人のあとに話すのって嫌だよね。

 それでも入学式はつつがなく終了した。


「ふぅ、やっと終わったか。人の話を聞くだけってのは疲れるもんだぜ」


 エインは伸びをしながら、解放された喜びを憚ることなく口にしていた。


「……ハッ。じゅる」


 セラに至っては立ちながら寝るという荒業を成し遂げていた。なお、入学式が始まった直後からである。そして終わったと同時に起きるとか。実は起きてたんじゃないの疑惑まである。


「さって、帰ろうぜ」


 今日は式だけで授業などはないので、僕らはここで解散だ。しかし、


「お待ちください」


 呼び止められてしまった。

 見るとメイドが1人立っていた。見覚えはない。

 なんだろうか。


「ソール様。モルガナ様がお呼びです」


 どうやらまだ帰れないようだ。

モルガナの演説のあとにコールが起こったのはサクラの仕業です

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