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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
2章:ユミル王立士官学園
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4話 馬車にて

前回までのあらすじ

12歳になりユミル聖王国内のユミル王立士官学園へ通うことになったソール。

紆余曲折を経て、寮も決まり、いざ入学式!

というところで、幼馴染でありヴィンガルフ王国の第3王女でもあるシシリーと思わぬ再会を果たす。

「ソール。ソールっ。ソールぅぅぅ」


 シシリーは涙で顔をくしゃくしゃにしながら僕の胸へ顔をうずめた。


「……シシリー」


 思わずその小さな頭を撫でた。柔らかな絹を思わせる感触が僕の指をすり抜けていく。

 腕の中にすっぽり収まるその姿は、昔日の想い出を幻視させた。あれから何年も経ったけど、シシリーは相変わらず小さな女の子だった。


「ごめんね」


 何に謝ったんだろう。自分でもわからない。けれど、その言葉が自然に出た。

 シシリーは聞いていたのか聞こえていなかったのか、僕の腕の中で嗚咽していた。

 そうして幾ばくかの時間が流れた。


「おい、そこの。もうよいじゃろ」


 いきなり馬車の中から声が掛けられた。


「え?」


 見上げると、馬車の中にいた白金の髪をした妙齢の女性が怒った顔で僕らを見下ろしていた。


「姫殿下。時間がいくらあるわけでもなし、ましてやその身はこのような所にいつまでも晒していていいものではない。早う馬車の中に戻るのじゃ」


 叱られた、というニュアンスが一番近いだろうか。

 シシリーは少し間を置くと、すっくと立ち上がった。そして袖で涙を強引に拭うと、


「はい。申し訳ございません。すぐに戻ります」


 腫れぼったい目でそう答え、


「とにかく会えてよかった。またね」


 馬車へと乗り込んだ。

 そして馬車の扉は閉ま……らなかった。


「何をしておる。貴様も早う乗らんか」


 白金の髪の女性は僕を見てそういった。奥ではシシリーが目を開いて驚いている。


「え、僕ですか?」


「そうじゃ。それにそこで呆けておる2人。貴様らもじゃ」


 エインとセラが指差された。


「俺も?」「なになに? どゆこと?」


 2人もどういうことだかよく分かってない。


「いいから早う乗るのじゃ!」


「は、はい!」


 よく分かっていなかったけど、女性の剣幕に押されて僕たちは転がるように馬車へと乗り込んだ。





 馬車の中は外観からは想像もつかないほど広かった。

 そんな広い馬車の中には、現在6人が乗っている。

 僕、シシリー、エイン、セラ、白金の髪の女性、黒髪の女性だ。


 白金の髪の女性は見て明らかに高級だと分かるようなドレスを着ていた。そこまで派手ではなく、品性と威厳を優先したような、そんなドレスだ。年齢は20代後半から30くらいだろうか。とんでもない美人だけど、眼力の強さが半端ない。正直、目を合わせるだけで怖い。


 黒髪の女性はキッチリとした、いわばスーツのようなものを着ていた。この世界では珍しく女性なのに髪を短くしている。けど、やっぱりこっちも美人だ。

 雰囲気からして、黒髪の女性はお付きの人っぽい。


「さて、色々とお互い話したいことがあるじゃろうが。それは却下じゃ」


 ええ!?


「私が聞きたいことだけ聞くゆえ、貴様らはそれに答えよ」


 横暴だー! けど、なんだろう。素直に頷いてしまいたくなるような雰囲気があった。

 こういう時でも空気を読まずに騒ぎそうなセラも借りてきた猫のように大人しい。というか、怯えてる? エインはなんだかずいぶん難しい顔をしている。


「まずは名乗ろう。私はモルガナ・フェ・ユミルという」


「モルガ――モルガナ様!?」


 エインが素っ頓狂な声を上げ、セラがビクついた。ちなみに僕も心底驚いている。


 モルガナ・フェ・ユミル。

 ユミル聖王国の第一王女。

 聖王が病床に付している現在の、ユミル聖王国の実質的な支配者だ。


 でも確かにヴィンガルフ姫殿下シシリーと一緒にいるということなら、やんごとなき身分の人だというのは当然かもしれないけど。

 ただ、それにしてもなんで此処にこの2人が?


「私はモルガナ様の付き人、ティティスで御座います」


 女王の隣に座っていた黒髪の女性が礼を取りながら自己紹介をした。


「呼びにくいと思ったならティーで構わぬぞ」


「殿下。私もさすがに初対面の人間に愛称で呼ばれるのは些か……不愉快でございます」


 バッサリ言ったー!


「む、少々言葉がきつかったですね。言い直します。些か……鬱陶しいでございます」


 言い直しても、言葉の刺はまったく収まっていなかった。


「ふむ、そうか。ならば今のはなしじゃ」


 モルガナも何でも無かったように訂正した。

 この僅かな会話の中で、2人のテンポにすでに付いていけなくなりそうなんだけど。


「さて、こちらは名乗った。次はそちらじゃ。まずは、そこのペリノーア卿の娘から聞くかのう」


 セラが一際大きく身体を震わせた。

 ペリノア卿の娘? なんだ? この2人知り合いなのか。

 セラは明らかに狼狽しているようだったけど、時間と共に上手く呼吸を落ち着けていった。


「私はペリノーア家三女セラクルカ・ヴィ・ペリノーアと申します。この度、ユミル王立士官学園の高等部へと進学することになりました」


 一息で言い切った。覚えていた文章をそのまま読み上げたような、というか事実そうなんだろう。

 てか、セラって貴族だったんだ。あと本名初めて聞いた。セラクルカを略してセラだったのか。エインは知ってたのかな? さすがに知ってるか。大家だもんな。


「えーと、俺――じゃない。僕はエインだ、です。家名はありません。セラ、さんとユミル学園高等部に通う予定だ、です」


 敬語下手すぎるだろ!

 モルガナ怒ってないかな、と思ったけど特に気にした様子はない。むしろ微笑ましそうな顔をしている。さすが大人。

 次は順番的に僕かな。と思ったらモルガナと目が合った。あぁ、やっぱり僕みたいだ。


「僕はソールです。僕も今回ユミル王立士官学園の高等部に入学することになりました」


「うむ、やはり貴様がソールか。スカジ様から伝えられた通りの外見じゃな」


「スカジ……様?」


 王女様に様付けられてる!?


「なんじゃ、聞いておらぬのか。いや、確かにあの方はそういった些事は説明せぬな」


 うん、説明されてない。


「そもそも馬車に素性の分からん者など招き入れぬだろうよ。いくら姫殿下の知己とは言ってもな」


 そう言われればそう、かな?


「時にソールよ」


「はい」


「ルギディアとの国境は問題なく通れたかの? 妙な魔物に遭遇したりとかせぬかったか?」 


 ギクリ。


「え……えぇと、はい。なんとか」


「そうか。最近、国境付近で魔物騒ぎがあっての。遭遇してないならなによりじゃ。まぁ、騒ぎがあったのはつい先日じゃからな。貴様がその辺りを通ったのは、普通に考えればずっと前じゃな」


「あ、はい。そうなんです」


「くくく」


 なんかすっごいニヤニヤしながら見てくる!


「殿下。お戯れは程々に」


「うん? そうじゃの。スマヌな。本当はこういうことをしたかったわけではないのじゃが、何故か貴様を見ておると嗜虐心が刺激されての」


 うわぁい、嬉しくなーい。


「詳しくは言わぬが、とにかく礼だけは言わせて貰おう。我が国民を救ってくれて感謝する」


 モルガナはそう言うと、先ほどまでの意地悪な表情が嘘のように、優しい顔でほほ笑んだ。


「いえ……僕は何もやってませんから」


「そうじゃの。そういうことにしておこうかの。さて、次は姫殿下にお願いしようか」


「はい」


 ご指名を受けて、シシリーは真面目な顔で自己紹介を始めた。


「私はシシリー・アルフォズール・ヴィンガルフと申します。この度は交換留学生としてヴィンガルフを代表し、ユミル王立士官学園へ通うべくユミル聖王国へ参りました」


 ただし、僕の腕を抱きながら。

 さっきから一瞬たりとも離してくれないんですけど。そして二の腕辺りが柔らかくてふかふかしたものに挟まれてる感触がして気が気じゃないんですけど!

 まぁ、死んだと思っていた幼馴染が突然現れたんだから、離したくない気持ちは察するけどさ。


「さて、各々の自己紹介が終わったところで、そろそろ学園に着く頃合いじゃ」


 もうそんなところまで来てたのか。さすが馬車は歩くより早いな。


「姫殿下も積もる話はあろうが、お役目じゃ。一旦はソールと離れてもらうぞ」


 あぁ、そりゃ外国のお姫様が留学ってんなら僕らと一緒に入学式ってわけにはいかないか。普通に考えれば、式典の来賓側だよな。もしかしたら挨拶とかもあるかもしれないし。


「うう……」


 しかしシシリーは離れようとしない。


「唸っても駄目じゃ。貴国に恥をかかせるつもりか」


「……はい。ソール、もうどこか行っちゃ嫌だからね。あとで、たくさんお話ししようね。私、聞きたいことも話したいこともいっぱいあるんだから」


「心配しなくても大丈夫だよシシリー。僕もこの学校に通うんだから、いくらでも話す機会はあるよ」


「約束だからね!」


「うん、約束するよ」


 もう大丈夫だろう。

 そうして、ようやくシシリーは僕の手を……離さなかった。


「とりあえず、馬車が止まるまではいいよね?」


 大丈夫……かなぁ?

前話からかなり間が空いてしまい申し訳ないです。

しかも短い。

もうちょい書こうと思ったのですが、とりあえず生存報告がてら投稿しとこうと思った次第なのです。

エタらずに書いていくつもりではありますので、今後もお付き合いいただけたら嬉しいです

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