21話 ベルナトッデ邸の戦い(Ⅲ)
「何なんだコイツら!?」
僕とフィスは異形の怪物に囲まれていた。
倒したはずの兵士たちがフラリと起き上がると、急にその身体を変容させ、人と他の生物を掛け合わせたかのような魔物へと姿を変えたのだ。
獅子、大鷲、馬。さらには百足のような昆虫に、何が元かサッパリ分からない触手が蠢く生物まで。一応、頭と胴体と四肢という体はとっているけれど、どれも人間からは掛け離れた異形をしている。
「なにこれ、気持ち悪い……」
フィスが言うように、見るに耐えない程グロテスクだ。漫画やアニメでは見たことあるけれど、実際に目にすると嫌悪感が尋常じゃない。魔物なら森の中で散々見たけれど、コレはそれらが可愛く見えるほどに醜悪だ。人型をしているというのが更に気持ち悪さを助長している。
視線だけ動かしてみると、ウルの周りで倒れていた兵士も同様に異形となっていた。
「……合成獣」
「ソール、知ってるの?」
「え?」
「いま何か言わなかった? キメとかなんとか」
声に出てたのか。
「名前だけね。異なる2つの生き物を合わせて作る魔物を、確かそう呼ぶんだ」
前世では、だけど。
「ふーん。よく分からないけど。つまりは魔物なわけね」
「え? あー、そういうことになるかな?」
「そ。じゃあ、たおせばいいのね」
「えっと……」
「ちがうの?」
「いや……違わない」
「よし。じゃあ、たおすわよ!」
「うん」
そうだ。見た目が気持ち悪いとか何だと言っても、これはもう人間じゃない。魔物だ。難しく考えず、とりあえず倒そう。
方針が固まるやいなや、フィスは目の前の敵に真っ直ぐに駆けていった。
「えやあああ!」
馬の合成獣へ強烈な飛び蹴りが見舞われる。ホント物怖じしないなこの子。そして、それを皮切りに周りの合成獣達も一斉に動き出す。もちろん僕は囲いを抜け出すために、フィスが動いて直ぐに動き始めていた。
相対するのは僕が獅子と大鷲と百足の3体。フィスは馬と触手の2体だ。
気味の悪い百足と、空へと飛び上がった大鷲は後ろに、僕はまず獅子の合成獣へと向かった。炎弾を牽制に何発か撃ちつつ、懐に潜り込んで剣を振るう。思った以上にアッサリと胴を捉えられた――が、ギリギリで上空から大鷲が降下してきた為に、回避を優先せざるを得なくなった。そうして後ろに引いたところを百足が襲ってくる。大きく開かれた顎が僕を食い千切らんと迫ってくる。
「っの!」
寸でのところで何とか避ける。ちょっと服が裂かれたけど、問題はない。あるとしたら、意外にも敵が連携を取ってきたことだ。
知能の低そうな魔物っぽいと勝手に思ったけれど、もしかしたら元の兵士の思考か、あるいは経験が残っているのかもしれない。これは厄介だな。
「もうっ。もうっ!」
向こうでもフィスが苦戦していた。動きの早い馬と、トリッキーな触手に惑わされているようだ。
なんて考えている間に合成獣が襲いかかってきた。
獅子を先頭に、その背後に百足、上空に大鷲が控えてる。獅子の鉈みたいな爪と鋭い牙を避けると、狙いすましたかのように百足がその長い胴体を活かして隙を付いてくる。反撃に出ようとすると大鷲が上空から降下してくる。
本当に厄介だなコレ!
「けっどっ!」
一匹一匹の強さはそうでもない。獅子の攻撃にも慣れてきた。ここいらで反撃――
「とぉおおお!?」
思ったら、横合いから火の玉が飛んできた。横目で見ると、フィスが適当に魔法を放ちまくっていた。あっちこっちに火の玉やら氷の矢が飛んでいってる。
「お姉ちゃん! 危ないよ!」
「うるっさいわね! それくらい気合いでよけなさい!」
そんな無茶な!
文句を言っている間にも合成獣の攻撃は続く。ついでにフィスからの流れ弾もバンバン続く。
なんか実質1対4みたいな気分なんだけど。さすがにこれじゃあ敵を減らす余裕すらない。もう自分の命を繋ぐので精一杯だ。あー、昔ゲームでこんな状況になった事あったなー。あん時どうしたっけ。諦めて1回死んでやり直したんだっけ? でも生憎これはゲームじゃなくて現実だ。コンテニューなんて都合のいいものは無い。いや、前の人生からここまである意味コンテニューだけど、またそうなるとは限らないし、なにより僕が死んだらフィスも巻き添えになる。1対2でも梃子摺ってるのに、僕がやられたら1対5だ。それじゃフィスは助からない。それだけは駄目だ。何とかして彼女は助けたい。もう僕の目の前で誰かが死ぬのなんて見たくない。というわけで、これをどうやったら打開出来る。
考えろ考えろ考えろ。僕とフィスで切り抜ける方法を。
「ん?」
僕とフィスで?
そうだ! そもそも何で僕らはバラバラに戦ってるんだよ!
「お姉ちゃん!」
「なによ!」
「共闘するよ!」
「きょうと……なに?」
「一緒に戦うよって事」
「いまもいっしょにたたかってるでしょ!」
「そうじゃなくて……あー説明しにくいな! そっちに行くから!」
「そんなことしたら、そっちのてきも来ちゃうじゃない」
「足止めよろしく」
「どうしろってのよ!」
「とりあえず地面凍らしてみて」
「地面? よく分かんないけど、やればいいのね」
ちょっと揉めたけど、フィスが比較的素直に頷き、早速行動に移してくれた。
魔法を苦もなく扱うフィスなので詠唱や魔術名すらいらない。頼んでからノータイムで地面が凍りだした。自分の足元に氷が来る直前で跳んで回避したが、後続は足ごと凍らされて地面に拘束される形になっていた。フィスを狙っていた馬面と触手も同様だ。
「お姉ちゃん、次は氷で柱作って! 高いやつ!」
「また? 仕方ないわね」
そうして生み出された氷柱を足場に、僕は三角飛びの要領で唯一難を逃れていた鳥男へと突っ込んだ。
「炎弾!」
現段階での最大装填数3発――人差し指中指薬指を指しだす――を鳥男に向かって撃つ。当然、空を自由に動ける鳥男は3発とも回避した――炎弾を撃たなかった方向へ。
「上と左と正面に撃たれたら、まぁ右に避けるよね」
普通、空を飛んでいる優位性を保つため、下には中々回避しようとはならない。まぁ何が言いたいかというと、鳥男は僕が向かっている方へ避けるよう誘導されたって事だ。その失策に鳥男は気付いたが、もう遅い。僕の間合いだ。
「獲ったぁ!」
退路を防ぐように右から薙ぐように斬りつけると、見事に鳥男の翼と胴を切り裂いた。僕はそのまま鳥男を踏みつけ勢いを殺し、フィスの方へと跳躍した。僕がフィスの傍に降り立つのと、鳥男が墜落したのほぼ同時だった。
「これで2対4! 次は馬のやつ行くよ、お姉ちゃん!」
「分かった!」
氷の地面のせいで動きが鈍っている馬男に狙いを定めて、僕は再び突撃した。そんな僕をウンディーネの槍が追い越していき、先に馬男へ襲いかかった。馬男は苦戦しながらも持ち前の敏捷さと視野で槍を躱したが、体勢は崩れている。
「もういっちょ!」
その隙を見逃さず銅に剣を突き立てた。普通の生き物ならこの辺りに心臓があるはず。どうやら正解だったようで、馬男は大きく震えたかと思うとうつ伏せに倒れた。
続けて馬男の後方にいた触手野郎へと斬りかかる。目があるようには見えないけれど、こちらの動きはしっかりと認識しているらしい。迎撃せんと僕へ触手を伸ばしてきた。数は多いけど、そんなに速くない。襲い来る触手を避けて斬って接近する。けど、やっぱり近くまで行くと僕に届く触手の数も増えるのか、捌くのでやっとな程になっていく。
しかし僕はここで深追いはせずに身を引いた。手応えのなさに一瞬戸惑ったような様子を見せた触手野郎だったが、その一瞬が命取り。僕の背後から迫っていたフィスの炎魔法が触手野郎に直撃した。
「――っ」
声帯はないらしい。叫んでいるっぽいけど、声を出さずに触手野郎が炎に包まれてのた打ち回っている。だがフィスの炎がそれくらいで消えるわけもなく、程なくして触手野郎は絶命し動かなくなった。
これで残り2体。
見ると、獅子と百足はようやく氷から抜けだした所のようだった。
「脅威だったのは多対一だったから。同じ人数になったら問題なし!」
さっきまでの苦戦はどこへやら。あっと言う間に僕は獅子を斬り伏せ、フィスは百足を焼失させた。
2対5だったのを分散したのが、そもそもの間違いだった。相手の頭数のほうが多いなら、2対1の形にして確実に数を削っていくべきだったんだよね。
「なんだかよく分からないけど、私たちの勝ちね!」
勝利の∨サインがフィスの右手で輝いた。
「うーん、やっぱりないなぁ」
合成獣化した魔物の身体を漁ってみたけれど、鍵らしきものは見つからなかった。もちろんウルが戦った合成獣の方もだ――自分のことで手一杯で気が付かなかったけど、ウルは自分の近くにいた合成獣5人を1人で倒していた。予想はしてたけど、超強い。なお、例の男は今も動かない。アレ本当に生きてる? 護衛だと思ってたけど、実は置物? ってくらいに動いてない。まぁ、やっぱり無視するしかないか。
鍵は見当たらなかったけど、奴隷の檻にはデカイ南京錠が取り付けられている。これはもしかしたらノーリが持っているのかな? それだと待ってたらスカジが持ってくるかもしれないけど……自分で壊せそうだな、コレ。
南京錠は鉄製だったけど、身体強化した状態なら多分壊せる。
「よし、壊そう」
「壊すの?」
「うん、早く彼らを出してあげたいし」
「そう」
というわけで、僕は剣を大上段に構えると、しっかり狙いを定めて――振り下ろした。
金属同士がぶつかる音がし、南京錠は大きく傷ついた。壊すまではいかなかったか。けど、もう1回斬れば壊れそうだな。そう思ってもう1度構えた、その時。
「後ろ!」
誰かの叫び声が聞こえた。




