15話 新たな領主
「えぇ! ソールが勇者だったのニャ!?」
何故かネイルが1番に声を上げて驚いていた……ニャ?
「凄いニャ! 噂の人物ここでまさかの登場ニャ!」
いや、あの、ネイルさんキャラ変わってますよ?
「でも、なんで噂の勇者くんがここにいるニャ? まさか……スカジ様が拐かぎにゃっ」
言葉の途中で再びスカジの裏拳が入った。
「人聞きが悪すぎるよ。あと、口調戻ってるよ」
「ハッ!?」
ネイルは鼻を押さえながらわざとらしい大きな空咳をすると、
「まさかソールさんが件の人物だとは、驚いたでございますよ」
誤魔化しの笑みを浮かべてさっきのを無かったことにしようとした。
「元々の口調があっちでね。普段は妙ちくりんな言葉で誤魔化してるが、興奮すると地が出るのさ」
そしてすぐにスカジによって暴露された。
「ス、スカジ様! それは秘密ニ――でございますよ」
いま危なかったな。
「ま、今はそんなことよりソールの方だね。何でそんな面白いことを黙ってたのさ」
「いや、そう言われても……」
そんな恥ずかしい呼び名をわざわざ自分から言わないって。
「エイダール侯爵家の息子って事は知ってたけど、まさかお姫様とお知り合いだったとはね」
「ちょっと色々あって」
剣術指南を頼んだら前国王とお姫様が来たとか言っても信じてもらえるだろうか。
「シシリー姫と言えば、王位継承順位は高くないものの、蒼髪蒼眼であるために3位のリコ姫に次いで次期国王の有力候補だったね。そんな大層な身分の人間と、ねぇ」
スカジが横目でフィスを見た。
「ふも? ごっくん。よく分かんないけど、さすが私の弟ね!」
「フィスはブレないね」
スカジが何故か少しガッカリしていた。
「うーん、フィスがこれじゃあ、からかってもねぇ」
自分でからかうって言ったよこの人。
「それじゃあ、もう一つ聞きたいことがあるんだけどね」
悪びれる様子もなく次の話題にいった!
「最近、ここいらを統治している領主が変わったらしいじゃないか」
「あ、はい。そうなんでございますよ」
そういえば色んな店の人がそんな事言ってたな。
「その辺のことについて詳しく話してくれるかい」
「了解でございますよ。先日、長らく領主を務めていたベムブル=ベルナトッデ辺境伯が病でお亡くなりになりまして、次男のノーリが後を継いだのでございますよ」
「次男? 確かベルナトッデ家には長男がいたろう。それなりに優秀な」
「確かにいたのでございますが……長男のナールは事故で亡くなったらしく、そのまま次男のノーリが後を継ぎましたでございます。ベルナトッデ家には他には娘しかいませんでございますからね」
「ふむ、事故死ね」
スカジが訝しむ。その様子を見てネイルは補足するように説明を続けた。
「ナールの死に関しての情報は開示されておりませんでございますよ。遺体もなく、葬儀もなく、ただ事故死と」
「領民はそれで納得したのかい?」
「ノーリだけならともかく、妹のキーリも連名での発表でございましたから。それに当のナールが姿を見せないのではどうしようもございませんから」
「怪しくて不満もあるけど、選択の余地がないってことかい。ま、仕方ないと言えば仕方ないかね」
「そういうことでございますね」
「で、アンタの見立てはどうなんだい?」
「十中八九殺しでございます。次男は長男を日頃から煙たがっておりましたし、優秀な自分が領主になるべきだと思い込んでございましたからね。まぁ、実態はプライドだけが無駄に高い無能なのでございますが。他にも、兄がいなければ俺が後を継ぐのに、とよく零してございました。性格的にもやりかねないでございますね。彼が起こしたとされる傷害事件は多くございますから。全部、揉み消してございますが」
「ふむ。ただし、証拠は無いと」
「その通りでございます。不審な点は数多くあれど、彼が兄を手にかけたという明確な証拠はございません。調べたこともございますが、証拠は手に入らなかったでございますよ。普通なら死体くらい、せめて処理の痕跡くらいは残るのでございますが」
「アンタにも見つけられない、ね。コイツはもしかして……」
スカジが難しい顔をしたまま黙り込んだ。思考を巡らしているようにも見える。
「えっと、税金が上がったって聞いたけど」
沈黙に耐えかねて、ネイルに何となく頭に浮かんだことを聞いてみる。
「はいでございます、少し前――ノーリが領主になってすぐでございますね。税金が新たに課せられたものも含めると、全体で1割増しの税が領主に入っていると思われます」
「へぇ。なんでまた?」
「それが分からないのでございます。本来、税率を上げる時は目的があって上げるものでございます。戦が近かったり、新たな公共事業を行ったり、あるいは領地全体が税金を上げても問題ないくらいに豊かになったり。ただ、そういった話は聞かないのでございますよ」
「奴隷」
「え?」
僕とネイルが話していると、ぼそりと間に入り込むようにスカジが呟いた。
「さっき正規兵が連れた奴隷を見たが」
「奴隷でございますか? そういえば、館に連れて行かれる奴隷の数は増えているでございますね。とは言っても、さすがに税金を上げないといけない程ではないでございますが」
「奴隷が増えているのかい?」
ネイルは質問の意図が掴めない、そんな顔をしつつもスカジの問いに答える。
「はいでございます。先月から数えて、馬車3台が館に入っているでございます。とは言いましても、さすがに全員を買っているわけではないみたいでございますが」
「本当にかい?」
「えっと」
「本当に館に入っていった奴隷は全員が買われていないと断言できるかい?」
「いえ、おそらく、でございます。馬車が人を乗せたまま館を出ているので、そう考えたでございます。それに、いくらなんでも二月で馬車3台分は多すぎるでございます」
「その馬車を追跡したことは?」
「ないでございます」
「ふむ」
再びスカジが考え込んだ。
「えっと、どういうこと? 実は奴隷は全員が館の中に入っていて、出て行っているのは偽物かなんかだってこと?」
「分からないでございますが、スカジ様はもしかしたらそうお考えなのかもしれないでございます」
当のスカジは黙ったままだ。
一体なんだって言うんだ? 奴隷が全員買われているっていうのか? 馬車3台分って、さっき見た大きさだと1台で10~15人くらい、合計で40人前後ってことになる。そんなに奴隷を買ってどうするんだ。奴隷には衣食住を与えないといけない。いくら領主だからって、そんな大人数を買って養うなんて無理がある。
「生きてるならね」
そんな僕の考えを読んだかのようにスカジが発言した。
「生かすなら金もかかるだろう。ただし、買った奴隷を生かすつもりがないのなら、経費は原価だけだ」
「そんなバカな! この国には法律があるじゃないか! 奴隷を無闇矢鱈に殺してはいけないって」
「それは正規の手続きを経た奴隷の場合さ」
「なっ」
「世の中には非合法のルートを通して売買される奴隷もいるのさ。そいつらには人としての権利なんてないし、法律も適用されない」
「そんな事ってあっていいの!?」
「もちろん駄目だ。だから非合法の裏ルートなんだよ」
なんて事だ。そんな非道い事があったなんて。
「違和感はあった。本来、奴隷は移送中もそれなりの待遇がなされるはずなんだ。それなのに、あの馬車に乗せられている連中はあまりにも生気が感じられなかった。おそらくまともな食事や休憩が与えられていないんだろう」
脳裏に馬車に乗せられた怯えた瞳の少女が浮かび上がった。
「くそっ!」
「何処へ行く!」
「決まってるじゃないか! 助けに行くんだ!」
「何処にだ!」
「何処にって、領主の館に決まってるだろ!」
「だから、それが何処にあるのか知っているのか?」
「それは……」
知らない。何処にあるかなんて、知るわけがなかった。
「けど、それは町の人に聞けば……」
「それで仮に教えてもらったとして、どうやって助けるんだい? 10人以上もの数をどうやって逃がす? 警備の兵士だっている。全員倒すのかい? 無理だね。よしんば倒せたとしても、そうした瞬間にアンタは犯罪者さ」
「それは……でも……」
なにか答えようとするけれど、なにも出てきやしなかった。
スカジの言いたいことは分かる。それらは全て正論だ。言い返す余地なんて無い。
けど、それでも!
「でも! そうだとしても、放っておけるわけないだろ! 殺されるのが分かっている人を僕に見捨てろっていうの!? それが1番無理だよ!」
そうだ。守れるかもしれない命を見捨てるなんて出来ない。例え犯罪者となろうとも、僕はあの子を助ける!
駆け出す僕をスカジが止めようとしている。けど、もう止まらない。僕は行く。なんと言われようともだ。
「誰が見捨てると言った!」
「え?」
ドアノブに手が掛かったところで僕は動きを止めた。
「アタシはどうやって助けるんだ、と言っただけだよ。助けないなんて言ってないよ」
「それって、つまり」
「助けには行く。ただ、それにだって準備は必要ってことさ」
「そ」
急に身体から力が抜けて、僕は床にへたり込んだ。
「そういう事は早く言ってよ」
スカジは少し意地悪な、それでいて真剣な色を含んだ瞳で文句を言う僕を見た。
ベムブル=父
ナール=長男
ノーリ=次男
キーリ=長女
作者ですら混乱するという。




