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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
1章:生まれ変わって異世界ライフ
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10話 ヴァルハラ大陸

 翌日から本格的に訓練が始まった。

 今回は森に放り出されるということはさすがに無く、ちゃんとスカジが手ずから教えてくれた。

 朝、日の出と共に起床し、フィスと分担して掃除や洗濯を済ませる。そして朝食の用意ができたらスカジを起こし、朝食を済ませて片付けも終わったら早速訓練だ。

 訓練と言っても午前中は座学の時間だ。

 最初の授業ではこの世界についてだった。僕がすでにエイダール家で学んだことで、かつフィスも勉強済みの事だったのでおさらい程度にだけど。




 まずこの世界の名称はアースガルド。そしてヴィンガルフ王国が存在する大陸はヴァルハラと呼ばれ、地球で言うユーラシア大陸のような形をしている。ヴァルハラには三大列強と呼ばれる大きな国が3つと小さな国々が無数にある。ヴィンガルフ王国は三大列強の1つで、最も小さく最も富める国だ。他の2つはルギディア帝国といい、ルギディア帝国は最大の国土――大陸の3分の1程――を持つが、資源に乏しく貧富の差が激しい。華国は大きさは連邦と王国の中間くらいで、国力もそこそこ。ただし国民の数が尋常じゃなく多く、それに伴って兵力も三国一を誇る。この三国は国境が隣接しており、小さな衝突を度々繰り返しているが、大きな戦争にはまず発展しない。それは単純に三竦みの形が出来上がってしまってるからだ。2つの国が大規模な戦争をすれば、その疲弊した隙を狙って、残る1つが攻めてくる。だから迂闊に動けない。




「ここまでは問題ないな?」


「うん」


「フィスは?」


「えっと、うーんと、だいじょう……ぶ」


 かなり怪しいっぽい。

 そりゃ7歳の女の子に歴史の勉強はしんどいよね。僕も歴史を学ぶことに意味や面白さを見出し始めたのは大学に入ってからだし。


「分からなかったらちゃんとメモに取っておくんだよ」


「はーい」


 フィスは言われるままに手元の紙にインクで文字を書いていく。

 これは前世では当たり前に見た光景だけど、実はこの世界では非常に珍しい光景だ。

 アースガルドでは製紙技術は存在するのだけれど、そこまで発達していない。それ故に紙は高級品で、現代日本のように紙を安価な消耗品として使うことなんて出来ない。エイダール家で勉強した時も、基本は木片や布に木炭で書いていたのだから。

 とは言っても、製紙・製本技術はそれなりにはあるので、本や紙はたくさん流通しているし使用されている。ただ、使い捨てのような使い方がされないだけだ。もちろんトイレの後にお尻を拭くなんて出来ない。現代日本の価値観で言うなら、お札でお尻を拭いているのと同じようなものだからだ。

 この家ではスカジが紙を自分で作っているらしく、それで紙がほいほいと使えるようになっている。


 さて、思考がかなり脱線している内にフィスがメモを取り終わったらしく、授業が再開された。

 その後はスカジが実際に見てきた体験談を元に、各国の各都市の文化などを教えてもらった。1日で聞ける量ではないので、今日は都市1つ分だけだけど。


 次いで、語学の授業だ。

 僕はヴィンガルフの公用語を使っているし、スカジとフィスも僕に合わせてくれている。しかし、実はスカジは他にもいくつもの言語を修めているらしく、またフィスも幼少から聞かされていたことで、三国の公用語は日常会話程度ならこなせる。一応、僕らが住んでいるこの場所はヴィンガルフ王国領なので――隠れ住んでるから聞いちゃいけないような気がしてたんだけど、授業の最初にアッサリと教えてくれた――出掛ける時もヴィンガルフの公用語を使うらしい。

 とりあえず辺境や極一部でしか使われない言語はともかく、三国の公用語くらいは使えるようにということで、この語学の授業が存在している。


 小休止を挟んで計算の勉強をし、そしてそれも済んだ頃には時間は昼になるので、昼食にする。昼食を終えて一服――読書タイムが主だ――すると、いよいよ戦闘訓練となる。


 戦闘訓練は非常に簡単だ。いや、単純と言った方がいいか。

 まず例の異空間へ移動し、僕とフィスでスカジへ挑む。もちろん全力でだ。

 スカジは僕達の攻撃を捌きながら、直した方がいい所や失敗した事などと適時指摘してくれる。ついでに反撃もしてくる。僕とフィスはその反省を踏まえた上でスカジに挑み、またボコボコにされる。

 僕とフィスがもう立てなくなるまで続き――なおスカジは涼しい顔をしたまんまだ――最後に僕とフィスが1対1をして戦闘訓練が終わる。


 そうして全ての訓練を終えて帰宅し、夕食を作って食べてお風呂に入って就寝だ。有難いことにこの家では3食きっちり出る。たくさん食べてたくさん動いてたくさん寝ろ、という教育方針のためだ。本当に助かる。


 まぁ簡単に言ってしまえば、午前は勉学、午後はひたすら実戦訓練、合間合間に家事。

 それがこの家での生活だった。




 そうした生活が5日続いたある日、朝食を摂っているとスカジが僕達にこう告げた。


「今日はアタシは出掛けるからね、訓練はなしだよ。好きに過ごしな」


「え」


 いきなりの休養日宣言に僕は驚いたが。


「はーい」


 フィスは何でもないような返事をした。


「ソールが怪我をしてる間は念の為に外出を極控えていたけど、アタシは陽の日にちようびになると近くの村や町に買い出しに出掛けてるんだよ。ついでにウチで作った薬や日用品を売りにね」


「へぇ、そうなんだ」


 この家の収入はどうなってるんだろうって考えたことはあったけど、そんな事をしてたのか。確かに魔物が生息するような森のど真ん中にこの家が建てられているせいで、自給自足しようにも田畑なんか作れない。家畜を飼ってるようにも見えなかったし。

 なるほど、食べ物なんかはそうやって確保してたのか。


「そういうわけだから留守番は頼んだよ。アタシの部屋と森には決して入らないようにね」


「うん、分かった」


 スカジの研究室と森の中には絶対に勝手に立ち入らないようにと普段からキツく言われている。それはもうキツくだ。頼まれたって入りたくない、と思う程度には教育されてしまっていた。


「あ、でも」


 ちょっと思いついたことがあるので聞いてみる。


「ん、なんだい?」


「僕も着いて行っちゃ駄目かな?」


「町にかい? 駄目ではないけれど、仕事で行くんだ。遊びじゃない。用事以外の事はしないし行かないよ」


「うん、それでもいいから」


 出来たら町中を見て回りたいってのはあるけど、今はこの森の外の様子がどうなってるか知りたい。きっとヴィンガルフ領のどこかの町なんだろうから、もしかしたら首都グラズヘイムの、エイダールやヴィンガルフの姫の噂なんかも聞けるかもしれない。


「そうかい。まぁ、ソールなら大人しくしてるだろうし。いいよ」


「本当に!? やった」


 思ったより簡単に許可を貰って喜んでいる僕を恨みがましそうな目が見ていた。


「ソールが行くなら私も行きたい!」


 そう、フィスである。

 弟が母親と一緒に出かけるのに、自分だけ大人しくお留守番をしている。そんな事を見過ごせる性格を彼女はしていなかった。

 フィスは自分の同行する権利を強く主張した。


「んん、まぁソールだけ連れて行ってアンタを置いていくってのも無い話だしねぇ。大人しくするって約束出来るかい?」


「する! 約束する!」


「ふぅ、仕方ないねぇ。じゃあ今日は4人で行こうか」


「え、4人?」


 行くのは、というかこの家にいるのはスカジとフィスと僕の3人じゃないのか?

 まさか――ボケた?


「何だか失礼なことを考えてそうな顔だねぇ、ソール」


「え、えぇ! そんな事ないよ」


「アンタの嘘の下手さはいつか致命的になりそうだね。まぁいいさ。疑問に思うのも無理は無いね。4人目ってのはコイツさ」


 スカジが指を1つ鳴らすと、背後で影が立ち上がった。

 影だと思ったそれは次第に輪郭を顕わにし、やがて完全な人間の形を取った。

 浅黒い肌に黒い瞳、短く揃えた白い髪をした偉丈夫だった。

 彼は鋭い目を伏せたまま無言でスカジの後ろに控えている。


「こいつはウル。まぁ、アタシの精霊みたいなもんさ」


「みたいな?」


「細かい事はいいさ。とりあえず町にはコイツも含めた4人で行くよ」


「なんでわざわざ精霊も?」


「アタシの見た目、華奢な女1人だと商売で舐められることが多くてね、見た目が厳ついコイツと一緒だと色々と話がスムーズにいきやすいのさ」


 なるほど。それは確かにそうかも。

 スカジは人間では到底勝てないような強さを持っているものの、見た目はか弱い女性だしな。

 ……か弱いって、スカジにこれほど似合わない言葉はないなぁ。真逆もいいところだよ。


「また失礼なこと考えてる顔だね」


 ギクッ。


「はぁ……いいさ。とにかくそうと決まればさっさと食べて出掛ける支度しな」


「「はーい」」


 僕とフィスは朝食の残りをかっ込むようにして胃に収めると、さっさと食器を片付けて身支度をすべく部屋へと引いていった。

2014/12/21修正 イザヴェル大陸→ヴァルハラ大陸

            スヴィシズ連邦→ルギディア帝国

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