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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
1章:生まれ変わって異世界ライフ
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3話 師匠の実力

 ちょっとトラブルはあったものの、僕は怪我が治るまでの間――怪我は一つ増えた――家事手伝いとしてお世話になることになった。


 一つ年上のフィスは物心ついた頃から家事を手伝っていたらしく、炊事洗濯掃除をそつなくこなしていた。僕はそんな彼女の後について家事を学び、実践するようになっていった。

 スカジはと言うと、僕が来る前は家事を分担していたけれど、今は僕という代わりが出来たことで家事をしなくなり部屋に篭るようになった。本人曰く、養う人間が増えたから仕事を増やした、だそうだ。


 そんな風に暮らして、おおよそ半月が経った。




「もう完治したみたいだね。おつかれさん」


 僕の身体の診断を終え、スカジはそう言って僕の背中を軽く叩いた。


「ホント!? やった!」


「いやいや、アンタもよく我慢したね。これで好きに動いて大丈夫だよ」


「うん!」


 ようやく訓練ができる!


 魔力操作の練習はしてたけど、やっぱり実践がないとね。


「それで、いつから修行をしてくれるの?」


 僕は気持ちを抑えられずに、早速スカジに聞いてみた。


「そうだねぇ。ま、アンタがしたくなったらいつでもいいよ」


「え、じゃあ出来るだけ早くがいいかな」


「出来るだけ早くかい? そうだねぇ、それなら明日から始めようか」


「分かった! 明日だね!」


 今日はもう晩御飯も食べ終わって、外も暗くなっているし、最速で修行を付けてもらうのなら明日になるだろう。


 ちなみに、エイダールの屋敷と違ってここの家の中は明るい。

 蝋燭ろうそくやランプの灯りじゃない。不思議な光が部屋を照らしていた。

 前にこれは何かと聞いたら、精霊だという答えが返ってきた。

 スカジは世界に5人いないと言われる精霊使いの1人だった。

 まさかのレア職業である。

 しかもフィスも同様に精霊使いらしい。

 これを聞いた時、僕は物凄くテンションが上った。

 ただ、精霊使いになれるかどうかは完全に生まれ持った才能で決まるため、僕は無理だとも聞かされた。

 その時の僕のテンションの下がりようも相当だった。

 まぁスカジは普通の魔術の腕も超一級みたいなので――本人ではなくフィスが言ってた――修行を受ける分には問題ないと思う。

 僕はそんな事を思い出しつつ、翌日の訓練内容を考えてわくわくしながら眠りについた。




 翌朝、一通りの家事を終えた昼前に僕は庭に呼び出された。


「さて、まず訓練を始める前にしておきたいことがある」


「しておきたいこと?」


「そうさ。アンタがどれくらい戦えるかを確認するのさ」


「なるほど」


 それは確かに、今後の訓練の方針を決めるのに必要だ。


「とりあえず、ここじゃあ出来ないからね。移動するよ」


 そう言ってスカジは僕に後をついてくるよう促して歩き出した。

 とは言っても、やってきたのは家の裏。

 玄関前よりもやや広いくらいのスペースだった。

 キャッチボールをするくらいなら問題ないくらいの広さがあるけど、ここで魔術の訓練をするのには狭くないだろうか? ど真ん中に変な物が建ってるし。

 いや、確かにエイダールではごく狭いスペースで剣術の訓練はしてたし、魔術だって基本的には室内でしてたけど。

 広範囲の魔術を使うような訓練の時はちゃんとそれようの施設まで出かけていた。


「よく見ておきな。アンタも今後はこれを使うんだから」


 訓練スペースに頭を悩ましている僕を尻目に、スカジは裏庭の真ん中に建ててある鳥居っぽいもの――扉の枠組みだけがある感じ――の正面に立ち、手をかざした。


平野への扉よポルタ・プラーニティエース


 すると、枠内が白い光で満たされた。


「行くよ」


 そしてスカジは真っ直ぐ歩いて行き、光の中へと消えていった。


「え、え?」


 これ、どうなってんだろ? とりあえず、この光の中に入ればいいのかな?

 躊躇いながらも、僕はスカジの後を追って光の中へ飛び込んだ。

 一瞬の浮遊感のあと、すぐに足が地につく感触がして、目の前に景色が広がった。


「うわぁ」


 そこは見渡すかぎりの草原だった。

 僕の真後ろに先ほど通ったらしき光を溢れさせている木枠がある以外は、ひたすらに草原が広がっていた。

 スカジは少し先で僕が来るのを待っている。


「こ、ここは? 僕達さっきまで森の中にいたはずじゃ」


「ここは私が魔術で作った異空間さね」


「い、異空間!? そんな事が可能なの!?」


 魔術で世界を作り上げるなんて、それこそ前世で見た二次元ファンタジーそのものじゃないか。


「まぁこんなモノを作れるのは世界でもアタシだけだろうねぇ。常人を遥かに超える魔力量と、それを寸分の狂いなく編み上げられる繊細な魔力操作技術が必要だからね」


 スカジが凄いんだってのは話には聞いてたけど、これは本当に規格外だな。

 タイラント・ドラゴンを凌ぐと言うのも、これなら納得できてしまう。

 いや、疑ってたわけじゃないんだけど、やっぱり本当かなって思うでしょ。


「将来的にはフィスにも使えるようになると思うけど、それはそれで今は置いておこうかねぇ」


 フィスもか。

 僕はどうなんだろ? 使えるようになるのかな?


「さて、ここなら好きなだけ暴れてもいいからね。思う存分アンタの力を見せてみな」


「え?」


「え、じゃないよ。アンタがどれだけ戦えるか確認するって言ったろう?」


「あ、ああ。そういえばそうだね」


 この世界に気を取られてスッカリ忘れてた。

 そうだ、その為にここに来たんだよな。


「ほら、かかってきな」


 スカジがちょいちょいと手招きする。


「え、もしかしてスカジと戦うの?」


「そりゃそうさね。自分でやったほうが分かりやすいだろう?」


 まぁ確かに。

 でもいいのかな、本当に全力で行って。

 怪我とかさせたらどうしよう。


「怪我なんてのの心配はいらないよ。いくら年寄りだからってガキの攻撃で怪我するほど耄碌もうろくしてないよ。それともなにかい? アンタ、アタシに勝てると思ってるのかい?」


 また謎の年寄り発言だ。

 いや、それはいいとして。

 でも確かにタイラント・ドラゴンを上回り、こんな世界を作り出すような精霊術師を相手にしてするような心配じゃなかったかな。


「そうだね。じゃあ、全力で行きます。よろしくお願いします!」


「ああ、かかってきな」


 スカジは軽く頷いただけで構えを取ったりはしなかった。

 むしろ腕を組んで仁王立ちしていて、どう見ても戦闘態勢に入っていない。

 けどそんな事はおかまいなしに、僕は魔力を練り始める。


火球ファイアボール!」


 まず様子見でファイアボールを放つ。

 ただし5つ連続で。

 160km/hの速度でスカジ目掛けて野球ボール大の火球が飛んで行く。

 普通の魔物や兵士くらいなら3つもあれば決着がつく――実は旅の道中に魔物と遭遇した時に手伝いをしていたのだ――ぐらいの威力だ。

 しかし、その全てがスカジに当たると同時に霧散した。

 仁王立ちのままのスカジの髪が少し揺れる。

 ただし組まれた腕で押し上げられた双峰は微動だにしなかった。

 当たる直前に防御障壁みたいなものが見えたから、おそらくそれで防いだんだろう。

 だけど、これは想定済みだ。


「我、刻を断たんと欲すれば、其は無慈悲なる零度の刃と為らん。氷牙剣アイスソード!」


 僕の手から氷の剣が生み出される。

 水系中級魔術の氷牙剣アイスソードだ。

 水系魔術は、単純に水を操る魔術の他に、温度をマイナス方向へと変化させる魔術も含める。逆に温度を上げるものは火を使わなくても火系魔術に分類される。

 ファイアボールを打ち出してすぐに動き出していた僕は、走りながらアイスソードを創りだし、着弾してから間髪入れずに斬りこんだ。

 ちなみにアイスソードは切れないように刃はない状態にしてある。

 やや高い軌道で放ったファイアボールと対称的に身を沈めて接近し、地面スレスレから斬り上げる。

 スカジの目はこちらを見ているものの、腕は組まれたまま動かない。

 僕はガラ空きの横腹にアイスソードを叩き込んだ。


「――っつ!?」


 金属バットでコンクリートの壁を思い切り叩いたような音が響き、僕の手がジンと痺れた。

 防御障壁を張ってることは想定内だけど、硬すぎる!

 しかも半球状とか板状とかじゃなくて、身体に沿って展開している。これも高等技術だ。フローラは一応使えてたけど、僕には出来ない。

 剣が弾かれて手が痺れたものの、連撃を与えれば防御障壁を突破できるかもしれないと判断した僕は、そのままスカジの死角に入るように動きながら斬りつけていった。

 だけど、どれもがやはり弾かれてしまう。


(このままじゃ、僕の手が先に駄目になる)


 そう判断し、


隆起壁アースウォール!」


 前にアベル戦でやったように自分の足元から壁を隆起させて、その勢いを利用して距離を取った。

 スカジは相変わらずその場から動かない。

 まぁ僕の攻撃が全く通用していないんだから動く必要はないよね。


「それで終わりかい?」


 距離を取ったまま様子見に入った僕を見て、スカジが挑発してきた。


「いいや、まだだよ! 腕力強化アームブーステッド


 続けて脚力・反射を強化。


火球ファイアボール! 水矢ウォーターアロー!」


 右手から火、左手から水を放つ。

 暗殺者戦で会得した同時発動だ。


「ほう」


 これにはスカジもちょっと感心したらしい声を上げた。

 ファイアボールとウォーターアローを連続で射出し、弾幕を張る。

 左右で違う属性の魔術がスカジに直撃していくが、当の本人は涼しい顔をしたままだ。

 防御障壁は未だ余裕を持って健在だ。

 いくつもの火と水がぶつかり合い、やがて水蒸気が発生して視界を白く染めていく。

 よし、今だ!


隆起壁アースウォール


 小声で魔術名を発声。

 先程と同じく足元を隆起させる。

 しかし今度は横方向ではなく、上へと僕を打ち上げた。


「此に集いし業炎、何者をも焼き貫く意志と為れ。火炎槍フレイムランス!」


 右手から生まれた炎が渦巻き収束し、槍の形を取る。

 それを両手でしっかりと握り、大上段に構え、落下速度を利用してスカジのいる場所へ向かって思い切り振り下ろした。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 フレイムランスは水蒸気を切り裂いていき、その先にいたスカジを捉えた。

 スカジは顔を上げて僕の姿を認めると、ようやく組んだままの手を動かした。

 手を広げて頭上に掲げる。

 まさか、そのまま素手で僕の炎槍を受け止めるつもりか!?

 スカジの手と僕の炎槍が激突する。

 と同時にかなり強い力で押し戻されるような抵抗力を感じる。


「う、く……」


 力を込めて必死に耐えるけど、徐々に押し戻されていく。


「う、わぁぁあ!」


 そしてアッサリと弾き飛ばされてしまった。

 身体能力を強化していたおかげで、なんとか空中で体勢を整えて着地することが出来た。

 急いで顔を上げるがスカジは追撃に来ておらず、いまも元の場所に立ったままだった。

 今のは僕の中にある攻撃パターンの中でも、かなり力の入ったものだったんだけど、まさか片手で押し返されるとは。

 しかも余裕綽々で。

 うーん、直接攻撃がここまで効かないなら、取れる手段はもう魔術で押すしか思いつかないんだけど。

 それも効きそうにないと言うか……。


「そろそろアタシから行くよ」


 僕が次の攻撃手段について悩んでいるとスカジがそんな事を言ってきた。


「え。ちょ、待っ――」


「ほら」


 僕の静止を待たず、スカジが手のひらに炎を生み出し始めた。

 いま、魔術名すら口にしなくなかったか?

 スカジの炎はみるみるうちに大きくなっていく。


「ほら、打つよ。準備はいいかい?」


 広げた手の先でおそろしいまでの魔力を持った炎を渦巻かせながら、場違いなまでに脳天気な声で聞かれた。

 ボーっとしてたら駄目だろ!

 僕は両手を前に出し、魔力を1番込められる魔術を詠唱する。


「此に集い給え焔の瞬きよ、幾万をも焼滅させる白き閃光と為れ。白色爆発エクスプロージョン!」


 タイラント・ドラゴンにも放った、僕の中で最も威力の高い魔術だ。タイラント・ドラゴンには効かなかったけど。

 僕の魔術発動を見届けてからスカジも手のひらに留めていた炎を放った。

 僕の光球とスカジの炎球がぶつかり合う――が、一瞬にして僕の魔術が蹴散らされてしまった。

 せめぎ合うとか威力を落とすとかそういう事は全くなく、簡単に僕の最強魔術エクスプロージョンは消し飛ばされた。


「此に集い給え焔の瞬きよ、幾万をも焼滅させる白き閃光と為れ。白色爆発エクスプロージョン!」


 スカジの炎球があまり速くないので――意識的に遅くしたんだと思われる――もう1度魔術を放つ――が、またも簡単に負けてしまった。


「っそぉ! 火球ファイアボール! 火球ファイアボール! 火球ファイアボール!」


 ありったけのファイアボールをぶつけるものの、炎球の勢いを削ぐことが全く出来ない。

 結局、炎球は僕の横を通りすぎて――射出時点で当たらないことは分かってたけど、何とか迎撃してみせたかった――遙か後方で爆発した。

 ずっと遠くで爆発したはずなのに、巨大な火柱が天を衝く程に立ち昇り、視界を焼き尽くしていた。

 なんて、威力だ。

 スカジは依然として平静な顔のまま、そこに立っている。


「スカジのエクスプロージョンは僕のエクスプロージョンの何発分なんだ……」


 ぼそりと呟いた言葉に、スカジが反応した。


「今のはエクスプロージョンじゃないよ。アンタらで言うなら、今のはアタシのファイアボールさ」


 なにそれ。何処の大魔王だよ。

 こんな異空間を創り上げ、そしてあの大威力の魔術。

 さらに精霊術まで使えるなんて……もしかしたスカジ1人いたら国が滅ぼせるんじゃ?

知らなかったのか?

大魔王からは逃げられない。

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