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黄昏の転生者(ストレンジャー) 旧:雷霆の騎士  作者: 林檎亭
1章:生まれ変わって異世界ライフ
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2話 微ツンお姉ちゃん

 タイラント・ドラゴンにさえ勝てるというスカジ。

 もし彼女の教えを受けることが出来れば、僕は強くなれるんじゃないだろうか。

 今後、シシリーの下に戻るとしても、彼女を守れるだけの強さは必須だ。

 ただ、僕を助けてくれただけでも十分に迷惑をかけているのに、さらにこんな急なお願いを聞いてもらえるだろうか。

 ただ通りがかりに助けただけの子ども。

 怪我をして気を失っている子どもを助けるのは、まぁ人として普通に行うことだろう、として置いとくことが出来る。

 だけど、それでさらに鍛えてくれなんて、厚かましいにもほどがある。

 スカジがこれを受ける必要は全くない。

 僕はネガティブな思考を持ちながらも、彼女の目を真剣に見つめた。

 そして、その口は開かれる。


「ん? いいよ」


 って、軽っ。


「い、いいんですか?」


「なんだい? 自分から言ってきたんじゃないのかい?」


「いえ、そうなんですけど。あっさり受けいられ過ぎてちょっと驚いてしまって」


「ふむ、そういうもんかね。ただ、アタシも丁度いいと思ってね」


「丁度いい、ですか?」


「ああ。この子の競争相手にね」


 スカジは後ろに隠れていたフィスの頭に手を置いた。

 ちなみにフィスは僕が過去を語っている間もずっとスカジの後ろにいた。

 競争相手ということは、この子も戦うための訓練を受けているのだろうか。


「ほら、フィス。今日からコイツがアンタの弟弟子だよ」


「おとうとでし?」


「そうさ。まぁでもアタシの弟子になるってんなら当分はここに住んでもらうことになるからね。弟って思えばいいさね」


「弟!」


 フィスが急に目を輝かせた。

 と思ったら、スカジの後ろから歩み出てきて僕の前で仁王立ちした。


「これが、私の弟……」


 これって。

 フィスは僕を無遠慮にジロジロと見ている。

 そうして納得したのか、ふんと勢い良く鼻息を鳴らした。


「アンタは私の弟」


「えっと、そうなるみたいですね」


 正確には弟弟子だけど。


「つまり私は姉!」


 え、そうなの?

 姉弟子ってあるのか? 兄弟子なら聞いたことあるけど。まぁ女の子だし、いいのか。


「今日から私のことはお姉ちゃんって呼びなさい!」


 ビシィ、と効果音が付きそうなくらいに指さされた。


「えっと?」


「ほら、お姉ちゃんよ。姉上でもいいわ!」


 姉上ってなにさ。世界観狂うって。

 まぁでも、居候して弟弟子になるのは間違いないみたいだし、ここは素直に呼んでおこうかな。


「お姉ちゃん?」


 慣れないせいでやや疑問形になってしまったけど、姉と呼ばれたフィスは嬉しそうに目を大きくした。


「わたしはもちろん姉だからアンタのことはソールって呼ぶわ!」


「あ、はい。どうぞ、好きなように呼んで下さい」


「ふんっ」


「いてっ」


 急に頭を叩かれた。

 なんだってんだ?


「家族は丁寧語は使わないのよ! 知らないの? 全く仕方ないわね」


 えっと、これはつまりタメ口でいいってことかな?

 確かに今世ではともかく前世では親兄弟に敬語使わなかったな。

 スカジの方をチラリと窺ってみると頷きで返された。

 よし。


「うん、分かったよ。お姉ちゃん」


「分かればいいのよ!」


 フィスはさらに嬉しそうに笑った。


「存外、早く馴染みそうさね」


 スカジもちょっと嬉しそうに目を細めていた。

 こうして、僕はスカジの弟子になり、フィスの弟になり、一緒に暮らすことになった。






 暮らすことになったものの、僕の怪我は決して軽くはなく、いまも上体を起こせても歩きまわることは出来ない。

 回復魔術でさっさと直そうとした所、


「急ぎでない時には回復魔術は使わないようにしておきな。あんまり回復魔術にばかり頼っていると、人間本来の自然治癒力が衰えるよ」


 と言われてしまった。

 回復魔術は自然治癒力を上げるものではなく、魔力を再生力に変換する術だ。

 被術者の治癒力は一切使われない。

 なるほどと納得してしまった僕は傷が治るまで安静にするはめになった。

 ただ、寝ていても魔力操作の訓練はできるので、それだけは怠らずに続けた。

 スカジもそれくらいならいい、と言ってくれてたので一安心だ。


 そうしてベッドに寝続けている間、2人とは会話もよくした。

 スカジは子どもがフィス1人だけだと寂しい思いをさせてるかもしれないという気掛かりがあったみたいで、僕の申し出は彼女にとっても本当に好都合だったらしい。もう自分は子どもを産まないから、と言っていたのはどういう意味だったんだろう。

 競争相手にしても、上級魔術を使えるなら不足はないだろうということだった。

 その言い方だとフィスも上級魔術士並に強いってことだけど、スカジは意味ありげに笑っただけだった。

 フィスは読書が趣味で――どうやら周囲に誰も住んでいないらしく、スカジと一緒じゃない時間は本を読むしかすることがないせいらしい。

 ただ幸いなことに読書は普通に好きで、特に物語のあるものがいいんだとか。教本が嫌いなのは実に子どもらしいと思う。

 なお、本を読んでいる中で姉と弟に憧れるようになったみたいだ。もちろん直接そう言っていたわけじゃないけど、そう思っているだろうことは話を聞いていれば簡単に分かった。


 僕が意識を取り戻して早10日、ようやく安静の命令が解かれた。




「完治とまではいかないが、普通に動く分には問題ないだろう」


「うん、有難う」


 最初は慣れなかったけど、この10日でスカジへのタメ口もすっかり慣れた。


「さて、それなら早速家事を手伝ってもらおうかね。おーい、フィス」


 スカジが大きな声で呼ぶと、廊下の向こうからドタドタとやかましい足音が近づいてきた。


「なぁに、お母さん。あ、ソール! もう大丈夫なのね!」


 部屋に入ってきたフィスが僕を見るなり喜色満面で飛び跳ねた。

 しかしすぐに大人しくなって、


「ご、ごほん。なんでもないわ。ソール、もう怪我はいいのかしら」


 照れた様子で、目を逸らしながら聞いてきた。

 フィスはどうもお姉ちゃんぶりたいらしく、僕の前では偉そうにしようとする。

 今みたいに興奮したりすると冷静に振る舞おうとするし、何か聞くとあれやこれやと教えてくれる。

 精神年齢20歳の僕としては微笑ましい限りだ。


「うん、飛んだり跳ねたりは出来ないけど、もう大丈夫だよ」


「そう、それはよかったわね」


 まだ照れくさいのか、微妙にチラチラと視線をよこしながらで、非常に落ち着かない様子だ。


「それでフィス。訓練はまだにしても、ソールには家事を教えてやりたくてねぇ。教えてやってくれないかい。あぁ、あと家の中も案内してやっとくれ」


「うん、分かった。じゃあ、着いてきなさい」


 フィスは頷くと、僕を手招きしてズンズンと歩き始めた。


「あ、待って」


 僕も遅れじと歩いて行く。




 寝込んでいる間は、食事も排泄も部屋でしていた――スカジが処理してくれていた――ので、実は家の中を見るのはこれが初めてだ。

 よく考えたら、素性もよくしらない人に弟子入りしようなんて、あの時は本当に短慮だったよな。

 まぁその後もよくして貰ったし、会話をしてる限りでは悪い人じゃなさそうだから結果オーライだったけど。

 スカジの家は僕の実家の屋敷ほど大きくはなかった。そりゃそうだ。

 前世の間取りで言うと、4LDKといったところか。

 僕が寝ていた部屋にフィスの部屋とスカジの部屋が2つに、トイレと風呂とダイニングだ。

 風呂は毎日湯を張るらしい。この世界にしてはかなり贅沢仕様だ。

 トイレは水洗というわけではないのだけれど、汲み取ったり洗ったりはしなくていいらしい。底のほうで勝手に処理されるとか。どういうことなのこわい。

 僕は寝ていた部屋をそのまま使い、そして隣にフィスの部屋がある。両方6畳位の広さだ。

 廊下の奥にスカジの部屋が2つあるのだけれど、そこは立入禁止になっている。手前の方はただの寝室だから入っても怒られるだけで済むけど、奥の方は命の保証が出来ないらしい。なにそれこわい。

 そんな感じでザックリと案内された後、僕らは家の外に出た。


「うわぁ」


 そこは森の中だった。

 360°森。この家の周りだけは綺麗に整地されてるけど、数十m先は木々が鬱蒼と茂っていた。少し先に進むだけで簡単に迷ってしまいそうだ。


「勝手に森の中に入ったらダメよ。魔物がいるから」


 迷うどころか命を落とすみたいだ。

 うん、肝に銘じておこう。


「それで、洗濯はそこ」


 フィスが示す方向には井戸があり、さらにその向こうに物干し竿と大きな桶が置いてあった。

 今日は洗濯が済んだ後なのだろう、物干し竿にはたくさんの布が干されていた。

 布団のシーツやら、僕や彼女たちの服やら、三角の布やら――って、三角?

 なんだ、ハンカチかな?

 なんとなく目を凝らして確認してみると、それは――


「って、何見てるのよ!」


「げふぅっ」


 横から鋭いツッコミ――殴打とも言う――が飛んできた。

 しかも顎先にクリーンヒットした。


「い、いいい、いくら家族だからって、見ていいものと駄目なものがあるのよ!」


 フィスはわなわなと震えながら拳を握りしめている。

 あぁ、そこまで怒るってことはやっぱりアレは。


「って、聞いてるのソール! って、ソール? あぁ、やり過ぎた!?」


 焦るフィスの声を遠くに聞きながら、僕の意識は暗闇へと落ちていった。


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