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誓いは果たされず、全ては消え行く幻のように

 夜にはまだ早くて、夕方というには薄暗い。そんな茜色に染まった世界で、彼女はやや短めに揃えた茶色い髪を揺らしながら照れくさそうに微笑んでいた。

 頬の色は朱色のインクを落としたみたいに赤くなっていて、それはとても柔らかそうで、ついつい触りたくなってしまう。


「――、――」


 彼女の声が耳に届く。

 とても耳心地が良くて、ずっと聞きたくなるような綺麗で、それでいて優しい声だ。

 彼女といるだけで僕はずっとずっと穏やかでいられるような錯覚に陥ってしまう。

 そんな彼女を抱きしめたいと思った。

 腕の中にすっぽり収めてしまって、決して離さないように強く、けれど彼女が苦しくないように優しく。

 そうして世界のありとあらゆるものから守りたい。

 彼女を傷付けようとする全てを僕の身体で防ぎたい。

 その為なら、きっと僕はどんな犠牲でも払うだろう。

 それが僕の偽りない心からの想いだった。


 けれど世界は残酷で。


 いつだって不条理で、そこかしこに理不尽が溢れていて。


 僕も彼女も分かってなかった。


 上辺の言葉だけで理解したつもりになっていた。


 不幸は誰にだって唐突に訪れるんだって事。


 それを僕らが知ったのは、もう何もかもが手遅れになった時だった。


 暴力が僕を襲い、僕はいとも簡単にその暴力に屈した。


 膝を折り、手を付き、額を地面に擦り付けた。


 唯一動いた瞳だけで見る。


 彼女が赤く染まっていく様を。


 僕は手を伸ばそうとするけれど、彼女には決して届かない。


 彼女を助けられない。


 彼女を救えない。


 何も――出来ない。


 僕に力がないせいで。


 僕は彼女を失った。


 茜色に染まる世界で僕は彼女を喪った。


 僕は、


 僕は、失った。


 落ちていく空に彼女を残して。


 薄紅色の髪をした。


 最後まで僕を守り続けてくれたあの女性ひとを。


 僕を愛してくれたあの女性ひとを。



 僕は、



 大事な人を



 大事な人達を――






 守れなかった。













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