0話 空白
まるでベルトコンベアにでも乗せられたかのように、僕の身体は運ばれていた。
視界は真っ白で何も見えなくて手足は全然動かないけれど、思考は割とハッキリとしていたからなんとなく感覚として運ばれているのは分かった。
なんだろ? もしかして病院かな? 今はストレッチャーに乗せて運ばれているとか、そういうのだろうか?
不審な男に刺されたことはハッキリと覚えている。
その後、彼女が刺されたことも。
彼女は、園山芹香さんは無事だろうか?
無事であって欲しい。
そして、再会したら今度こそ彼女を守ろう。
今からでも体を鍛えて、戦い方を学んで。
そんなことを考えていると、ふと声が聞こえてきた。
「へぇ、これまた残念な死因だなぁ」
若い男の声だった。高くも低くもない、これといって特徴のない平凡な声だった。
「しかも運もかなり残ってるなぁ……って、そのくせ徳は結構積んでるね」
若い男は――医者だろうか――軽い調子で評していく。
「ま、これなら来世はそれなりに優遇してあげようかな。転生予定先は――アースガルドか。あそこは魔術が発展してたなぁ。じゃあ徳を積んでるから魔力量は多めに、運がいっぱい残ってるから生まれは貴族にしとこうかな」
ん? 何を言っているんだこの人。
転生? 魔術?
「よし、出来たっと。じゃあ魔力を注入して――っと、ちょっと多すぎたかな?」
――!?
急に体内に熱いものが流れてきた。しかも尻の辺りから。ちょ、なにコレ怖い。
「さて、次は記憶のしょ――」
「カミサマー! カミサマー!」
突然、ドアを開けるような音と共に女性の声が乱入してきた。
看護師だろうか? にしては声が幼すぎるような。
「どうしたね?」
「それがれすね、カクカクシカジカというわけで」
看護師さんは何かを早口で説明し――ハッキリ聞き取れなかったので脳内で勝手にカクカクシカジカに変換してみた――それを聞いたカミサマさんというお医者さんは慌てた様子で、
「なんだって? まったく面倒なことを。じゃあ私は行ってくるから、君はちょっと魂の処置の続きを頼む。概要はそこにファイリングしてあるから」
そう看護師さんに言い付けて部屋を出て行った。
「はーい」
残ったのはやや抜けた幼い女性の声だった。
「えっと、この魂を処置すればいいんれすね。んーと、魔力多めでアースガルド行きで貴族生まれっと。魔力はこのおっきい魔力珠使えばいいかな? 私じゃ直接注入なんて出来ないしね」
看護師さんはまるで自分に言い聞かせるようにそう言って、僕に何かを押し付けてきた。
すると再び熱いものが僕の体内に生まれ、それは先程のと交じり合って僕の中はパンパンになってしまった。
「よっし。あとは貴族ラベル貼って、アースガルド行きの輪廻に乗せて完了っと」
看護師さんが最後に何か僕に貼り付けると、僕の身体はまたベルトコンベアで運ばれるように移動を始めた。
看護師さんの声が遠くなっていく。
「つーぎーはー、女の子ね。ありゃ、ストーカーに刺されて死亡なんて可哀想。しかも好きな男も一緒に? あーこれダメだわ。私こういうの弱いのよね―。よし、折角だからこの子もいい生まれにしてあげましょ」
え、ストーカーに刺されてだって? それってもしかして――。
確認をしたいけど、僕の身体はどんどん流されていって。
待って、待って!
あ
そしてまた刺された時のように僕の意識は暗転した。