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13話 レーゾン・デートル

 僕は騎士に抱えられて、シシリーは自分で歩いて部屋を移動した。

 せっかくシシリーを助けたのに、これじゃあ微妙に締まらない。シシリーにダサいって思われたらどうしよう。

 最初は客室を、と言っていたけれど、後でやってきたスタルスが――スタルスもフローラも城に泊まっていたらしい――自分の事務室へと僕らを案内した。

 そこなら普段からスタルスが仕事に使っていることもあって、すぐに用意できるからということだった。




 スタルスの部屋に集まったのは、ヨルドとスタルスとフローラにアベル――金髪碧眼イケメン騎士のことだ――とヨートゥン夫妻、そして僕だった。

 リーズとシシリーは別室で休んでいる。

 自分が暗殺されかけたなんていうショッキングな話は聞かせたくないという配慮からだ。




 僕はさっきあったことを出来るだけ詳細にありのまま説明した。

 ちょっとばかり僕の活躍を誇張して話したけど、これくらいはしてもいいよね?

 僕の話を聞いた大人たちは一様に難しい顔をして唸っていた。


「ううむ、一体何から驚けばいいのか」


 どうやら、シシリーが暗殺されかけたことに加え、僕がそれを撃退してしまった事で上手く状況を頭のなかで整理できていないようだ。

 僕だって5歳児に暗殺者を倒しましたって言われたら、どうすればいいか分からなくなる。

 そんな中、1番に口を開いたのはさすがと言うべきか、ヨルド国王陛下だった。


「そうだな。まずは、娘を助けてくれたことに礼を言う。有難う、ソール君」


 そうしてヨルドが深く頭を下げた。


「ちょ、頭を上げて下さい陛下!」


 これには僕も周囲の人達もびっくりだ。国王陛下とは他人に頭を下げていい存在ではない。驚き過ぎて思わず「ちょ」とか言っちゃった。


「いや、これは国王としてではない。父親として、頭を下げておるのだ」


「は、はい」


 そう言われては僕も反論しようがない。素直に受け止めることにした。


「やはりシシリーは君に任せるのが1番かもしれんな」


 ヨルドが何故か観念した様子で、そんな事を言った。

 それはつまりシシリーの忠臣としてこれからも支えて欲しいと言う意味だろうか?

 それならばもう答えはイエスしかない。


「はい、陛下にそう仰っていただけるのでしたら、僕もこの身を懸けてシシリー殿下をお守りしたいと思います」


「うむ、頼んだぞ」


「はい」


 何故か緊迫していた部屋の空気が一瞬和んだ気がする。

 え、僕いま命を懸ける宣言したのにおかしくない?


「陛下、もう聞くべきことも聞きましたし、そろそろ息子を休ませてやりたいのですが宜しいでしょうか」


 会話に間が空いたのを見計らって、スタルスがヨルドへ進言した。


「ふむ、そうだな。今日は様々なことがあって疲れておろう。また聞きたいことができれば後日改めて、ということにするか」


 いや、僕はまだまだ元気ですよ。

 でもこれって単純に戦闘後でテンション上がってるだけかもしれないな。

 だって普通に考えて、初めてのパーティに初めての実戦を同じ日にやって疲れないわけ無いしね。

 うん、ここはお言葉に甘えるとしよう。


「では、私が付き添いますね」


「ああ、頼む」


 フローラが僕の手を取り、最後に陛下や他の面々に挨拶をして部屋を出た。

 フローラはリーズと一緒に客室で寝ていたらしく――それなんて百合ですか。大好物です――僕もそこに連れて行かれた。

 ちなみにリーズとシシリーはまた別の部屋だ。


 そして部屋に入ると同時、フローラに抱きしめられた。

 いつもの優しい包み込むような抱き方とは違い、力一杯で決して離さないようにするかのような抱き方だった。

 ちょっと苦しい。

 そう伝えようとして、


「よかった。本当によかった。貴方が無事で、本当に――」


 何も言えなくなった。


 フローラは普段は優しくも気丈で、子どもに大してあまり感情の起伏を見せない母親だ。

 僕の中のフローラはずっと優しげに微笑んでいる。

 そんな彼女が僕を抱きしめながら、泣いていた。

 あの強い母様が、僕が生きていてよかったと泣いていた。

 僕が今日したことは間違ってはいないと断言できる。

 また同じようなことがあれば、同じように体を張ってシシリーを守るだろう。


 けれど、そうやって僕が命を懸けると心配する人がいる。


 僕が死ぬと悲しむ人がいる。


 なら僕は死ぬわけにはいかない。


 大切な人を護るため。


 大切な人を悲しませないため。


 僕は今よりもっと強くならないといけない。


 だれにも負けないくらいに、強くならなくてはいけない。





 その日、フローラはずっと僕を抱きしめたままで、寝るときもそのままベッドに入った。

 そして僕は思った以上に疲れていたらしく、ベッドに横になるなり泥のように眠りこけてしまった。

 朝というか昼に起きた時、フローラの抱きしめはまだ続いていて、僕は微妙に寝違えた。


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